互いの目覚め
純衣と黒田の戦いは続く、が黒田の攻撃は純衣の
舞と言う表現が相応しい程の技の前にただ踊らされ
ていたのだった。
負の感情を力の根源とする黒田だったが激しさが
増せば増す程に力を利用する純衣の攻撃はカウンタ
ーで黒田を追い詰めていった、純衣に敵意は全く見
られ無い有様に怒りが、妬みが込み上げる、だが思
いとは反対に憎悪の一つ一つが標的から自分に返っ
ていく感覚に黒田も戸惑う、主に回転技を多用する
純衣の棍棒は腕の回転だけでなく自身の体を棍棒と
密着させる事により自身の体重+回転スピード+カ
ウンターによる敵の攻撃力が加わり女性の力とは思
え無い程の威力を放出していた。
黒田「俺の攻撃が鏡の様に跳ね返る、いや其れ以上
になって自身に返って来ているっ!なんだアイツは
何だあの技は!奴は体調が悪い筈だ、女は動けば動
くほど不利になる筈だ!何故俺が傷つく!」
常軌を逸した目から憎悪はまるで黒田自身を原料
で燃やすかの様に一層怪しく黒い光を纏いはじめた
俯き自分の腕を見つめ笑った。
「ヒヒ、そうか届かぬのなら手を増やせばいい……
足を、刃を」自軍に置いたサーベルを抜き取ると徐
ろに右腕に向かい自身を刺し貫いたのだった。
来栖「狂ってやがる……」
黒田「ヒャハッは痛てぇ!糞が!」
更にもう一方の腕にも刺し貫くと両足にも同じ事を
するのだった。
黒田「ハハハ!痛い!痛い!この痛みの恨みはお前
が倒れ無いからだ、……はは、お前は俺を捨てた、
お前は俺を裏切った!お前は……お前は!どいつも
こいつも、俺の邪魔しやがって!」
筋肉の裂け目を狙ったサーベルは彼の動きを妨げ
る事は無かった、だが動く度に傷口は広がり出血し
ていく、其れでも尚、彼の憎悪は止まる事なく彼女
に襲いかかる。
純衣「かかって来な」
微笑む彼女は本数が増えようが其れすらも全く問題
にはしなかった其れどころか、攻撃するたびに鋭い
突きを放つ純衣の棍棒は黒田の体に刺したサーベル
を的確に剣先を狙い突き、彼の腕や脚からサーベル
は弾け抜かれていった。
黒田「俺の苦労もお前は無にするのか、何故認めて
はくれ無い誰も、俺を憐れみ蔑み無に返そうとする
俺は、俺の存在はお前らが消えて初めて作られる」
瞬時の隙に純衣の鋭い無拍子が一直線に彼の額め
がけた時、黒田の背後から鞭が純衣の持つ棍棒目掛
け飛んで来た、鞭の攻撃をも軽くバックステップで
躱す純衣の目に黒田を庇うように前に立ちはだかっ
た女がいた『菅』である。
菅「やらせはしないよ……悔しいがアンタの方が強
い、けど連携なら、アンタが戦う理由の力が強さ
なら私にだって強さはある」
純衣「ほぇ……なんでアンタが?」
来栖が横から口を出した。
「俺は仕事を済ませた、これ以上の補助はしない
が周りを見ろ」
純衣は言われた通り周りを見渡すと混沌とした状
況が目に飛び込んだ、其れはコミュニティーの壁が
大きく壊れ、其処から湧いてくる様に侵入する大量
のゾンビと目が赤く凶暴な熊ゾンビに翻弄されてい
る観客達だった。
純衣「……ほぇ」
来栖「気づいてなかったか……お気楽な女だ、まぁ
拷問具の後だ、朦朧とするのも仕方ない、だが普通
気付かないかねぇ」
呆れ顔の来栖は続いて語った。
「お前が目覚める前だ、カードが引かれ内容は追加
メンバーだった、恐らく敵の指令だろう、お前の異
変に気づいた奴らは早々にトドメを刺すつもりだっ
たのだろう、現にお前の仲間は試合があるから出れ
ない、というか出る暇もないか……で俺が補充要員
として此処に立っている、黒田との戦いの中、菅を
抑えてたのは俺だ」
純衣「ほぇ……」
純衣が辺りを見渡すと誠にクリス、裕太、ヌク、孝
雄が群がるゾンビと戦っている姿が映ったのだ。
来栖「で問題のこの最悪な状況を作った原因は……」
指差す方向を見るとハクが其処にいた。
ハク「すいません、ちとやりすぎちゃった……」
来栖は顔を手で覆うと呆れ顔で言った。
「塀の上から会場に飛び込んできたコイツが現れた
瞬間、会場の壁をゾンビ熊が破壊し入って来たのさ
しかも大量にな、囮になって連れて来たのだろう、
背中にリュック背負って腕と足にオモチャである筈
の電動ローラースケートつけてだ」
戦う中からヒロが此処ぞとばかりに愚痴を叫ぶ。
ヒロ「そうですよ!めちゃくちゃですこの人!もう
怖いのなんのって、此処に来るまでに壁や狭い通路
お構いなしでそのローラーで四つんばで渡ったり、
モーターいかれたらリュックに入った予備渡されて
走りながら交換しながら此処まで来たんですよ!僕
が転んだ時なんて電動スケートボード背負わされた
意味解りましたよ、この人紐一本で仰向けの僕を引
き摺りながら走った上に時間が無い!って土管の中
なんて一本の棒2人で持って遠心力で外に体持って
いかれるから支えあっていけば大丈夫とか!」
半泣き状態のヒロだった……
孝雄「男が泣くな」
ヌク「そうじゃそうじゃ、泣き虫ヒロ」
ヒロ「泣くわぁあああああ!」
錯乱しながらもハクが次々と作り放り投げ込まれ
る武器を手に戦う皆だった。
ハク「ごめんよぉ……」
ヒロ「で挙句ノロケやがってぇええ!許すまじっ!
ハク!」
ハク「……すいません」
話を聞いた純衣の心は益々トキめいたようで……。
純衣「私の為に……なのなのね!燃えてきた萌えて
きたああ!」
それぞれが混乱を極める中ゾンビに噛まれようが
グリマンだけは座したまま虫でも払う様にゾンビを
いなしながらも座したまま動かなかった司会も渡さ
れたマシンガンを手に闘技場所へと戻り試合を進め
た。
司会「試合は続行されますとの事です……」
対峙する黒田と菅の前に純衣がいた、そして菅は
言った。
菅「この人はもう駄目だ……最早、仲間な筈の私の
区別も付かないだろう、だが私は其れでもこの人
の味方でいたい」
そういう菅の背後に不気味な笑みを浮かべた黒田
が立っている、そして菅は会話を続けた。
菅「アンタの勝ちだ充分見せてもらった、これより
虎は豹に付く、私以外な……私は言った確かに言っ
たさ、その男に」
指を刺した方向にハクがいた、菅はらしからぬ笑顔
で言った。
「選択肢は二つだ、私が差し向けた女達を抱けば
お前の女の解毒剤を渡してやると、それともう一つ
それが出来ないなら冬の食糧問題を解決して見せろ
肉を5t、短時間で出来る筈は絶対に無い。
命を差し出すか、心を捨て命を救い愛を捨てるか
「筈だった、普通思わないだろ、まして女を選ぶだ
ろ……そしたらコレだ、まさか生きたまま連れてく
るとはな」
ハク「以前、熊と戦ったことがある時にゾンビの習
性に本能、そして連帯性に獲物への執着心が異常に
高い事をね、何頭か疲れを知らないゾンビ熊は生命
の限界を越え心筋梗塞で倒れたけど此処まで連れて
くる事が出来た、塀に囲まれ安全な暮らしに慣れた
敵への研究不足だね、山も近かった事もあった、そ
れに僕は彼女を守りたい、そしてそれは他の女性を
抱く事じゃない、其れは体だけ命だけ守っても心を
守れなかった事になる、全てを守ると僕は誓った」
菅「……そうか選択肢は元々お前自身選択に悩む事
すら無かったと言うことか、あるんだな、だが叶わ
ぬ現実もある」
すると菅の口から赤い血が流れ落ちた、背後に居た
黒田が背中から剣を差し貫いたのだった。
菅「虎の事は頼……む」
黒田「何と言った……解毒剤だと?あの女の体調が
悪いのはお前の仕業だったのか、体調管理は戦闘者
にとって最も最優先すべき事項、故に俺はあの女の
怠慢、女が背負う事柄だとしても其れは運だと思っ
た……そうか私はお前の様な蛆虫にすら憐れみや慈
悲の目で見ていたか、俺ではその女に勝てはし無い
と最初から、最初から!決めつけていたのか」
菅「ち、違います、私はただ貴方に勝って」
黒田「黙れっ!弱者の言う事に意味はない!お前は
俺に語る資格等無いわ!その蛆虫が更に俺の神聖な
戦いを汚した!その罪は重い、やはり人間は全て俺
の敵だ、見ろ!お前の言う愛がこの女を狂わせ、戦
いを汚し、お前の命すら危うくした現実を、俺はや
はり正しかった、この剣を抉り2度と目を開ける事
すら出来なくしてやる!」
黒田が剣を捻り上げようと力を込めたその時、純衣
の棍棒が剣の先に寸分違わぬ無拍子で黒田の持つ剣
を正確に直線で突きを入れ、狂気の刃は菅の体と黒
田の手から離れ彼の背後へと弾け飛んでいった。
菅「彼は意識が混濁してる、最後の頼みだ……お前
に決して頼れる立場で無い事は承知の上で頼む、彼
を……彼を助けて」
黒田「私を助けるだと?虫ケラめ!まだ俺を憐れ
蔑むのか!」
黒田が菅の傷ついた腹を蹴ると菅はうずくまり涙を
流しながらも立ち上がり尚、黒田を庇うように前に
立った。
菅「……其れでも私は貴方が愛おしい、自身の命よ
りも、純衣、支離滅裂な事を言っているのはわかっ
てる、だが私は最後までこの人を守る、背後から刺
されようが、それが私の愛の証明」
来栖「敵であり続けながら敵に助けを乞う……か、
都合がいい話極まり無いな」
菅「其れでもだ!其れでも私は……私は私の愛に真
っ直ぐで居たいから!」
純衣はニコリと笑った、その表情の意味するもの
がわからなかった菅だったが言葉より確かなモノを
笑顔から感じた、そして黒田はその笑顔に恐怖しな
がらも葛藤を心に芽生え始めさせていた。
純衣「私、菅の事好きだよ」
ハク「なら僕も好きだな」
純衣「えー!」
ハク「あ、いやそういう好きじゃなくて」
黒田「目障りだ!どけ!」
菅を突き飛ばし前へでる黒田に対し純衣は構えた。
純衣「誰も殺させはし無い、お前が狂気を力にする
なら私は愛を見せてやると言った筈だ」
黒田「愚か者が、敵すら救うと言うのか、なら見せ
て見ろ、どんな手を使おうが勝って証明してやる」
そう言うと黒田は投げナイフを横一列状に純衣に
むけて投げたがそのナイフは純衣の上を通り過ぎる
とモニターに当たり激しい音を立て壊れ落ちていく
黒田が手を挙げると5人の男達が何処からともなく現
れるのだった。
黒田「俺の部下だ」
その中にはボス側近である幹部のトップも居た、
幹部を裏で掌握していたのは実は黒田であった、
司会「ちょっと待った!試合カードは引かれていま
せん、いくら貴方とてボスの命令に従うのはこのコ
ミュニティーの最優先法律、それは認めるわけには
行きませんよ」
黒田「ボスは試合は見れてはいない、モニターは全
て壊した、他にあるモニターも全てコイツらに壊さ
せた」
司会「だが其れでもです!」
黒田「黙らなければお前も殺す」
司会「其れでもです!」
黒田に対しマシンガンを構える司会だったが指示を
出すと背後に回った幹部が司会を締め上げ落とした。
黒田「見せて貰おう、俺は手段は問わ無い、全ての
力を使ってでもお前を這いつくばらせてやる、権力
もそのうちの一つ」
幹部「舐め無い方がいい、俺達は伊達にここの幹部
をやっている訳では無い、いくらお前が凄かろうが
5人の攻撃に耐える事は出来はしないぞ」
黒田「そう言うことだ、いいか幹部ども、不甲斐な
い動きを見せれば俺は背後から必ず剣を刺す」
衆の体に刺し傷が皆あった、其れは過去、この男が
それを実行していた証だった。
ハク「……あれは」
純衣「だね、決まりだ」
5人衆が純衣に詰め寄るが純衣は微動だにしない、
その横に寄り添うようにハクが立つ。
5人衆「2人で何が出来る?ククク」
ニタニヤ笑いながら一歩一歩近づくと三節棍を持
つ1人が猛然と襲い掛かった、だが2人は避けること
も無く動きもしない。
1衆「もらった!どこに避けようが背後にいる2、3、
4、5が逃しはしない、俺の背後で姿も確認でき無い
攻撃がお前達を襲うのだ」
ハクの頭上に棍が振り下ろされた瞬間、棍は衆の攻
撃を弾き、後へと下がらされたのだった。
「舐めてんのはお前達の方じゃねぇか?」
声の主は誠だった。
誠「お前達に仲間がいる様に俺達にも居るんだよ」
その背後からまた1人の男が出てきた。
クリス「お前達が黒田の恐怖に駆られ出るなら俺達
は仲間の為に此処に集う、其れはお前達とは正反対
の意味でだ」
衆「……」
裕太「僕も入れてもらうよ、モニターを壊した君達
のお陰だ」
来栖「……まぁ関係ないが俺も関わった以上な」
クリス「兄貴……」
来栖「まさかこんな所でお前と共に戦うとはな、だ
が私情ではない、俺は俺の志の為に今はその線が重
なっただけだ」
ヒロ「ひぇ……手が空いてるので一応来ました、宛
にはし無いでください、だけど女の人が戦ってるの
に僕だけ何もしない訳には行きませんから」
ゾンビと戦いながら叫ぶ2人。
ヌク「こりゃ!ワシも入れてくれ!ワシも参加した
い!」
孝雄「俺もです!入れてくれ!だけどゾンビが多く
て手が離せ無い」
悔しがる2人だった。
ヒロ「えーん変わって欲しいよぉおおお」
ヌク「ええい!こうなったらいいか!試合場所にゾ
ンビと熊が入ら無い様に裏方に周ってやる!いいか
存分に見せてやれ、戦いとは何かを」
頷く一同ーー
クリス「誠、目大丈夫か」
誠「ブレてるが心配無い、お前こそ腕上がらなくて
戦えるのか?」
クリス「ハッお前に心配されるとは落ちぶれたモノ
だぜ俺も」
笑い合う2人は共に背後を重ね合わせ互いの弱点を
覆う様に構えた。
『2人なら問題無ぇ』
来栖「おい、そこのヒロとやら、俺の武器はサーベ
ルだ、前の敵は必ず倒してやる、だが横の攻撃には
弱い、フェンシングの弱点、武器を持つ手の方向、
右サイドだけでいい、お前は俺のカバーに入れ」
ヒロ「は、はい、右横だけなら何とかなるかも」
ハク「裕太、久々にアレやりますか」
裕太「ふふ、アレ?いいね、僕とヒロ、純衣、体重
の軽い2人と僕だけが出来るアレだね」
ハク「僕は併用してやる事もあるから一気に行くよ」
裕太「了解」
誠「いいか1チーム5人衆の内2人は倒せ、ハクと裕
太は1人、早々に倒しハクは純衣のサポートに回す、
純衣と黒田の戦いに入らせるな、アイツらに最高の
舞台を用意するぞ、いいか勝てよ必ずだ!」
皆「了解だ!」
ハク「行くぞ!みんな!」
皆「おぉおおおお!」
其々が駆け出した、ぶつかり合う手下と仲間、激し
い戦闘は始まった、其々が引け無い想いを胸にーー
『命』『恐怖』『狂気』『愛』『志』『友情』を其
々が抱きーーそして戦う




