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純衣戦 5 すがるもの



暗く沈む混沌の世界が続く中、互いが思想や倫理、

自身の持つ葛藤と闘い続ける、それは草木も生えな

い枯れ木だらけの中、陽も差す事もなく暗く歪んだ

空間で理性や冷静な思考が働かない中、常に自分の

醜態や痴態、罪への葛藤、存在自体を責められる孤

独が他人、そして自らが責め立てる、足元には底無

し沼に足を取られ、身は沈み呼吸がままならない程

に沈んだ身を足掻き、足掻けば足掻く程に沈む様な

感覚だった、常に人の中にある恐怖の対象が辺りを

浮遊する、苦し紛れに空を見上げるとその対象物も

また逃げ道を塞ぐ様に辺りに浮遊するのだった、そ

れは人によれば霊であり人であり、嘲笑い、生涯を

かけて対象物を闇に引き摺り込もうとするのだ。


黒田「ははは!何だ、全ての醜悪なもの達よ!お前

だ!お前も、そしてお前もだ!我に危害を加えよう

とする者は万物において何者であろうが喰らい尽く

し身を裂き後悔させてやるわ!」

自らの憎悪を対象物の恐怖よりも深い闇で喰らい尽

くそうとする黒田がいた、其れは足を取られる泥で

あれば泥に怒り、この自然に怒る、人であれば対象

者を、その対象者を制作した周りの人間、家族のも

及ぶ、どの中であろうが、其処に行き着く結末が自

身の終焉であろうが彼にはそれが心のどこかに安ら

ぎの到達点とも捉える彼の心には恐怖は無かった、

ただ復讐を諦めず、その負の力でさえも其れを超え

る憎悪で悉く蹴散らし自分の怒りで塗りつぶしてい

く、人の姿をした幻影の顔にゾンビよりも醜悪な姿

で食らいつく、ふと足を見ると恐怖の対象物である

筈の彼の恐るる人間に足は斧で引きちぎられた姿を

見ても尚、這いつくばり、恐怖の対象物に向かい、

ひたすらに進む、足元にまで到達し、見上げ、その

人間を凝視する、笑いながら斧を今にも振り下ろそ

うとする姿を見た。


黒田「俺を殺すか……殺すがいい、だが俺は殺され

たとしても魂となり、最後には必ず貴様の肉を喰ら

い裂き、永遠の時の中でその何十倍、いや何百倍に

苦しめ続けてやる!俺には殺されても悲しむ者もい

なければ守るべき対象はこの自身の身すらないのだ

から」


幻影が黒田の額を割り脳髄が頬を伝わる感覚がする

中、それに構う事の無い彼の執念は対象物の足に噛

みつき肉を喰らい続けた。

黒田「必ず報いは受けさせる、この細胞の一つが活

動を続けるまでいや自身が霊となろうがこの怨みを

どの世界にいようが必ず舞い戻りお前の身を恨みの

業火で焼き尽くすまで魂すらも喰らい続けてやる、

何度でも、何度でも同じことを囁き貴様の心が消し

去るまで」


次に目覚めた彼は十字架に磔にされていた、あらゆ

る痛みや苦しみ病気である痛み、この世の全ての痛

みが彼を襲う感覚に陥った。

黒田「誰だ……俺に何故こんな苦痛を与える、誰だ」

苦痛はまたも恨みを増長させていく。

黒田「何故俺がこんな目に……お前か?社会か?国

か?偉そうにしてるお前か?其処に歩く子供、お前

か?子を抱き、あたかも愛を語る貴様の本性が実は

俺を苦しめるのか?人を助け、自己満足に浸り得意

げに道を歩くお前か?」


彼の磔のされた場所は地平線まで続くかと思われる

様な血の湖の真ん中、其処ら一帯から無数に血が湧

き出ると人の形をした得体の知れない型は黒田の辺

りを笑い蔑み踊るかのような動きをする、だが黒田

の目にはその型は地上で暮らす普通の人間の様に見

えるのだった。


目から血を流し全ての目に映る者全てに疑いと憎悪

の念が強まる。

黒田「誰だっていい……いつか到達するだろう、俺

をこんな目に合わせた対象物に、全てだ、そう全て

を殺し消えさせれば」

『いつか到達する』

次に彼が目覚めた時……その目に映ったのは試合会

場であった。

黒田「……」

司会「な……なんと時間を待たず目を覚ました、自

力で拷問から自らの意思で目覚めたと言うのか」


笠田陣営ーー

笠田「思惑通りだな……目が覚めたようだ、見ろ奴

の目を、全てを怨み、自己の強さに目覚めた男の姿

だ、あの男にはもう自身の命の恐怖も無く、受ける

痛みへの恐怖をも恨みの力に変える事のできる真の

戦闘者に進化した」

秘書「ほんの少し彼の中にあった甘さが消えた様で

すね、完璧です、対して反対にあの女からは時間が

経つほどに生気が失われて行っています、これで勝

ちは確定ですね、試合も支配も全て我々の勝ち、あ

の女が倒れれば、彼方の指揮は確実に落ちる……闘

い方からして過去の甘い考えを捨てきれぬ偽善者集

団では最早戦いにならぬでしょう、後は元々勝ては

しない異星人戦で2人欠け、雪丸で3人……これで我

がコミュニティの支配による統率形態も安泰、いや

以前より強固になるかと」


笠田「希望を持たせ、そして落とす事により現状が

一番良いと思わせるか、商談でも言える事だ、ただ

用心には用心だ、次の手を早々に」


ーー試合ーー


黒田は目の前で苦しみ、泣き、座す純衣を見て大声

であざ笑った……


「その醜態は何だ!守るモノを持つからそうなる!

守る者を持つ者は孤独に身を置く人間には決して勝

てない、何故だかわかるか、守るものが無いからこ

そ非情になりきり、其処に迷いが無いからだ、守る

者は常に守護者の弱点とかし、お前の周りに常に危

険を呼び寄せ、判断を狂わせ、最後には守護者をも

裏切り保身の為に敵となるのだ!人間に愛など不要、

いや鼻っからそんな物は無い!幻想に、過去人間の

歴史に於いて自然を信仰の類にしたように、弱気心

が生み出す人の逃げ道の依代、まやかしの偶像崇拝

の象徴こそが愛だ!貴様の最大の強みと間違いした

力は、お前の言う基礎となる其の深き愛こそが、愛

こそが貴様を破滅に導くのだ」


地鳴りが大きくなる中、黒田の叫ぶ様な笑い声が辺

りに木霊する、その形相に声すら質が変わった変化

に観客もまた生きながら地獄の亡者を見た気がした

のだった。


夏帆「……くそ、くそ!もういい!やめてくれ!」

菅がポツンと言った。

「一つは女を抱け、最も簡単に女を救う手だ、だ

が同時に心を折る、命は救えても、その虚無の心

で戦い強さの無い力は更に黒田の強さを引き出し

結果、命を落とし、そして仲間も全て消え去る」

夏帆「……?」

菅は続けて呟いた、誰にも聞こえない位の小さな

囁きをーー

菅「忘れずに抱く想いは私にだってあるさ、汚れて

も拭いきれない心の奥に、だがそれは所詮現実には

なり得ない、それが……」

『現実だ』

夏帆「……何が言いたい」

菅「命を差し出すか、心を捨て命を救い愛を捨てる

か……だがまさか」


ーー試合ーー

         

純衣は人々の中傷に晒され小さい幼子のように泣き

崩れる、その小さな背中に浴びせられた悪意は自身

の存在を常に否定し続けた、音が止み、目の前に歩

く自身より幼子が大人達によって未来の希望を象徴

する道を壊す姿が見えた、震える体でその場所へ辿

り着くと幼子を抱き純衣は叫んだ。


「何故こんな酷いことをするの!この子の未来は貴

方たちのエゴや感情で壊していいモノじゃない!」

だがこの世界はそんな矛盾を許すほど甘くはない。


幻影「今の世界は私達が作り、その子を制作したの

も我ら大人だ、我らが作った創作物に対し自由にし

て何が悪い、知恵もないあがらう力も無い発達して

ない『物』が自身の未来をも守れない物に主張する

権利も無ければ願う事すら許され無い」

純衣「な、何を言う子供はお前らの愛で生まれた結

晶じゃないか!」

幻影「やれば出てくる物だ、自然がそう作りし決め

た摂理なだけだ、それに全てが望まれてきたわけじ

ゃない、皆がそうするのが当たり前という倫理に基

づいただけの話、だからこそ金や地位でその優越を

決め、つがいを選ぶ、それに貧しい国では子は親の

生活を助けるために生産されるのだ、甘い世界にい

るお前たちの言う愛はただの体裁だ」


世界ではそういった意識の中で生まれる子も少なく

はない現実を知っている彼女には現実を見せつけら

れる様だった、ただ胸が張り裂けそうになる感情に

幼子を強く抱き、悪意から身を守るしか出来なかっ

た、道は壊れ子は泣き、それでも親と思われる幻影

の手を掴もうとする姿に涙が止まら無い、それでも

親は親、純衣の手は幼子の手を掴み続ける事は出来

無かった……。


幼子は振り返ると純衣に言った。

幼子「貴方がしゃしゃり出てきたから道は壊された」

その言葉を聞いた純衣から生気が一つ失われた、そ

して目を閉じると黒田と同じく裸体で磔にされた姿

で男たちの慰みものにされようとしていた、懸命に

足掻らおうとするも体は思うように動か無い。


磔にされた台から無理やり落とされ懸命に足掻く。

純衣「やめろ!」

幻影「何を言う、女の体は男を満足させるためにあ

る物、その形状は男を誘い、お前は全ての悪意をそ

の身を持って鎮魂させる為だけに存在する自然の摂

理なのだ」

純衣「やめろ!私の体はお前たちのものじゃない!

私の……私の体」

その時、純衣の背中にほんの少しの微かな温かさを

感じる、その小さな暖は彼女の体の一部の様に溶け

込み安心を与えて行く、葛藤の大きい冷たさよりも

遥かに小さかったがその暖は逆に小さきながらも葛

藤よりも彼女を強く引き寄せた。


純衣は寒く冷たい世界で唯一のその温かさに心を寄

せ縋った……。

純衣「温かい……」

温かさに全ての身を寄せた。


「私の体は……私だけの物だ」

幻影「愚かな……現実から目を逸らす事は出来ぬ」

純衣『私だけ……だから私は1人じゃない』

幻影「言葉の意味もわから無い愚か者はもはや語る

べからず、受けいれろ、その身を持って我らに捧げ、

更なる悪意が他人に及ばぬ様に、それがお前の言う

愛だろう」

押し寄せる幻影の影が立ちはだかった時、純衣は立

ち上がった。

純衣「そうだ……私はこの温かさから全てを繋いだ」

そう言うと押し寄せる幻影に立ち向かい非力な腕な

がら無様にも戦い始めたのだった。


幻影の子が純衣に近づく。

幻影の子「やめて!」

純衣「私はやめ無いよ、いい?貴方の道が誰かに壊

されても貴方は貴方の道を作りなさい、親を選ぶの

も貴方次第、その道は地獄であろうとも、貴方が選

んだ道を生きなさい、そしてその道を貴方が正すの

貴方がそれを求めるのなら愛を失わず道をいけば

求めるものは必ず手に入る、その対象者は変わるか

も知れ無いが向かった先が『愛ならば愛の先には愛

しかないのだから』


幻影の子は頷くと静かに消えていった。


幻影「何故摂理に従は無い!」

純衣「無様でも!這いつくばってでも、この温かさ

が私の全てであるから!」

幻影「摂理こそが生命の源の筈だ」

純衣「摂理は人の中にあり、人は昇華する為に生ま

れ何度もその輪廻を繰り返す、そう……真実をこの

身に宿すまで!」


純衣の体が微かに動いた……

笠田「女の様子がおかしい」

秘書「次から次へと!この忙しい時に!おい!早く

次のカードを引かせろ!わかっているな、そのカー

ドは」

手下「それどころじゃありませんぜ!」

秘書「黙れ!この試合は落としていい物じゃ無い!

ゴミが我らの策に口を出すな!」

手下「は!はい」


笠田「大丈夫なんだろうな」

秘書「わ、わかっております、予想外の事態ですが」


その中で何が起こったのか、会場中から悲鳴や叫び

声が響きわたっていたのだった。


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