表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
157/238

女達



数刻前、純衣は……


門での黒田との乱闘の後、女レイダー達に

気に入られた純衣と裕太は彼女達の誘いで

彼女達の根城へと案内されていた、

コミュニティー内の端に存在する寂れた場所

発展途上国の密集した家が立ち並ぶかのような

佇まい、洗濯物が至る所に干してある、

だがお客さんに興味があるのか物陰から子供達が

興味本位で覗いていた、子供が居る事に驚いた

2人ではあったが殺伐とした巨大コミュニティの

一角にあるこの場所に安堵感を感じた2人だった。


由美「ねぇ、今夜私ん家泊まりなよ、

ここは女1人で過ごせる程、治安は安定してない」


夏帆「そうするべきよ、いくらアンタが強いって

言っても数には到底勝てないわ、

特に此処に住んでる連中は知っての通り、

奪う事を生業にしてきた奴等の集団よ」


乙音「私達女が此処で体張って居場所を

確保出来たのだって、きっとアンタらが思う程

甘いもんじゃなかったのよ、

最初は女だから呼ばれたのも所詮奴らの慰み者よ

過酷な労働もさせられた挙句、弄ばれ、

暴力や性被害も毎日だった……

ある者は欲望の果てに男の抑えきれななった

肉欲の果ての暴力で殺され……

ある者はただの憂さ晴らしに殺され……運よく

生き残ったとしても性病にかかり生を終えた、

そんな命を私達は幾つも幾つも見てきた」


遠い目で寂しそうに語る乙音だった。


「そりゃさ、ゾンビだらけの外と比べたら

こんな地獄でもまだ良いんだろうけどさ、

此処も平和だった頃の生活とは程遠いけどね……

ボスに逆らえば殺され、労働だって過酷なものよ、

遠征に行けば怪我をする者もいる、

大した治療薬も無く、痛み止め私達には

支給される事はないからね、

生産できない薬など貴重な物は一部の幹部しか

支給されはしないからね、

苦しみながら皆……逝ったわ

避妊薬もなく出産もこの状況じゃ……

運としか言いようが無い出生率だわ、

それに、こんなクソみたいな世の中で子供が

生き残れる確率なんてゼロに近いと言っていい」


雪音「女に生まれた事をこの状況になって初めて

酷く恨んだわ……

何故こうも弱いものが虐げられるのか?

女は環境が整って初めて普通の生を全う出来る

弱い存在……そんなものなのかと」


夏帆は険しい表情で壁に貼られたボロボロになった

チームの旗に勢いよく怒りをぶつける様に

掌で旗を叩くのだった。


夏帆「だから、私達女は1人じゃ居てはいけない!

そう思って仲間を増やしたわ、身を守る為にね、

知ってる?豹は女でも群れで行動はしない

だけどテリトリーを守りその中で子供を産むわ、

その理由はボスである豹の子供を守る為よ

違うテリトリーのボスは子供の匂いを嗅ぎ分ける

自分の子でないと解れば殺されるの

だから頭のいい豹は近隣のボスにも交尾をするの

そうする事でその子を守れるからよ」


「したたかに……そして強く、

そして生きる為に私達も豹に習った、

だから家族であるこのチーム名は豹と名付けた」


由美「く、暗い話になっちゃったね、それ位

注意が必要って事よ!」


「特に幹部に逆らったアンタは選手として

皆に通達がいくまで安心出来無いからね、

彼らは元々ボスの警護も兼ねてるけど本業は

ボスに逆らう者への暗殺よ、

此処じゃあアイツらの殺しは黙認されてるの、

もう警察なんて存在しないからね……

法はボスの意向のみよ、

ただ選手登録されてしまえば安全だわ、

それはボス開催の祭りに反する行為だからね、

明日には通達が皆に伝わるわ、せめて明日の朝まで

安全な場所で身を隠すことが必要なのよ」


純衣「私は裕太と居るから大丈夫だよ」

女レイダー「駄目!それでも本当に危ないんだから

裕太って奴も一緒に来ればいいからさ!」


彼女達が自分達の事を真剣に心配している眼差しに

純衣は素直に従うことにした。

純衣「……まぁそう言うなら」


こうして2人は女レイダーの根城へと案内された。

その道中、確かに民衆の中に紛れ不穏な目で

2人を見る者の姿が存在した、それも複数人が

影を潜め後を付けて来ていたのである……


ひしめく一階建ての内の一件の家へと到着する

此処は電気が通っており、眩いネオンの看板には

家族のチーム名である豹と堂々と書かれていた、

洗濯物もそこら中に干してあり生活感漂う場所、

その内の一室へと案内される。


夏帆「この一室を使って、此処なら窓もないから

奇襲もされないし、万が一、誰か侵入したとて、

チームの誰かの目に止まる筈だから

子供も一緒だけど其処は我慢してね」


厳重に防音設備が整っている、壁には綿などを使い

子供らの声も漏れないよう、音響もこの部屋から

大音量で流されていた。


裕太「此処までしないと子供も守れないのか……

この場所思ったより劣悪な環境かも知れないね」

ふくよかな体型の裕太に子供達が群がり始めた。


裕太「よーし!遊ぶか!」

満点な優しい穏やかな裕太の笑顔は物珍しい

お客さんの興味もあったが警戒心の強い子供達も

安心してるのか直ぐに一緒に遊び始めた。


純衣は楽しそうに遊ぶ裕太の笑顔に燃えるような

怒りをヒシヒシと感んじたが

それは純衣も同じだった……


乙音「あ、私時間だわ、ちと仕事行ってくる、

純衣、後でね!」

純衣「へ?あぁ、後で……

彼女、仕事?こんな夜更けに?」

由美「あぁ此処でだって仕事はあるよ、

まぁ人に堂々と言える職ではないけどね、

待った、何も言わ無いで……」


純衣「……」

由美「こういう仕事もね、必要なの、

女が生きる道、外道と言われようが

人が歴史と呼ぶ昔から必ず存在した仕事なのよ、

こういう仕事もないと逆に治安が悪くなるのは

どの世界にとっても歴史が物語るように

全ての命の危険に繋がるわ……

つくづく平和な時は女は守られてたんだなって

今更気付いたよ、その時はそういう職の人を

馬鹿にすらしてたけど……さ

でも馬鹿にした物でもないよ、

男の暴力性を分散させるとでも言うのかな……

こんな世の中だもん、力の弱い女が生き残れる

術はそうそう無いのが現実、

まして守ってくれるたった1人の男性なんて、

そんな男達は真っ先に殺されただろうね……」


純衣「……ごめん」

由美「あはは、なんでアンタが謝るのさ、

私達は私達で生きる道を探して行き着いた場所が

此処だった、それだけよ」


「それにアンタの純粋な気持ち……私達なんかさ、

嬉しかったんだよね……こんな世の中に真っ直ぐな

女ってさ、なんかカッコイイじゃない」


荒んだ生活は人の心を蝕んで行く、

そんな人の心を荒ませるのも、また癒すのも

人の心や生き方である、

真っ直ぐに生きる事の難しさ、

それは平和な時代問わず、

荒んだ今であっても同じだった……

ただ平和な時代にはそれを避けたり、

見ない事が当たり前で、自分と向き合う事の

機会が少なかった……

極限に追い詰められるこの時代は

そんな当たり前の生きる力を逃げる事なく見つめ、

向き合い、考える事が出来る環境なのかも知れない

甘え等、決して許されない、

一つしかない命を懸けて生きる彼女達は

現代においては見る事も感じる事も忘れていた

『生き方』に純衣を通して感じたのだろう。


乙音「人が人の為に生きる……故に我あり、

って感じかな?えへ、でも、そんな当たり前の

生き方、アンタが私達を守ってくれた事で

思い出すなんてね」


由美「女は愛する為に生まれてきた、

それは我が子であり家族であり仲間なのよね」


ゾロゾロと豹の仲間が集まりだす。

冬華「お待たせ、やっぱアンタ此処にいた方が

良いわ、裏に数人張り込んでる」


そう言う冬華の後に一際大柄の男が立っていた、

見るからに迷いのない透き通った目をしているが

醸し出すオーラが異質な男である、

少し警戒する純衣はその強さを見極めようとした。


純衣(コイツ……かなり強いな)

冬華「あ、紹介するよ、こんなウチらにも

信用出来る男の仲間は居るんだ、

ハイ、私達の熱烈なストーカー孝雄ってんだ」


純衣「へ…?」

意外な答えにキョトンとする純衣、

あまりの意外さに警戒心がすっ飛んだ。


孝雄「俺は影で、お前達を見守ってるんだ……

それに手は出した事ない」

夏帆「手は出さ無いけど覗いてるよね、いつも」

孝雄「そりゃ……モゴモゴ、女は美しい、

見て当然だ」


由美「気持ち悪いんですケド……」

雪音「相手が気持ち悪いと思えば立派なストーカー

おめでとう正式にストーカー認定されたね」

夏帆「まぁそう言うなって、コイツ意外と強くて

私達に金ださねぇで触ろうとする馬鹿にとっちゃ

いい警護役にもなってんだ、な?」


孝雄「……彼女らは綺麗だ、それをタダで

触ろうとするなんざ、お天道様が許しても俺が

ゆるさねぇ!」


由美「そこ自慢んするとこ?」

夏帆「まぁまぁ……でもさコイツさ、ストーカー

だけあって、情報収集に隠密技は黒田にも

引けを取らないよ、この前だってさ、

由美が着替えてる時、視線を感じると思ったら

どこにいたと思う?

ダンボールの中に入ってたのよ!信んじらんない、

不意にそっち見た時、目ん玉が動いてるの見えて

マジ引いたわ、このデカイ図体でまぁ見事に

コンパクトに体小さくしてさ……笑っちゃうよね

ある時は用水路の下、ある時は天井裏、

ある時はベットの下、全く予測つかないけど、

いつも何処かに居るのはわかってるから、

もう慣れてなんとなく居場所はわかるけどね、

これ知らない人にしてみちゃ相当やばい隠密術よ」


由美「まさに欲望の為せる技ね……恐るべし」

孝雄「好きこそ物の上手なれ」


雪音「開き直る所か!」

純衣「……」

裕太「……」


夏帆「そんな事より黒田対策よ!

アイツは病気だ、負けたら、それこそ何されるか

わかったもんじゃないよ、それにコミュニティー

内でも黒田派の女レイダーも存在するの、

いい?女だからって警戒は怠らないで、

それに準備は仲間には伝えて

あるけどプレ……」


その時、部屋にノックする音が聞こえた

『コンコン』

「先程、助けてもらった相葉と申します、

話があるんだ、開けてもらえないか?」


裕太「さっきの人だよ、ほら助けた、

ハクの名前出した人」

ピクッっと純衣の体が反応する、

その背中越しでも鼻の下が伸びてだらしない

姿が安易に想像できる……


素早く太腿に常備するナイフを取り出す夏帆を

背後から援護する形で由美が弓を構えた。

彼女達がこう早く危険に対し行動が早いのは

いかにここが大変な場所なのか、という答えだった

夏帆「早速来やがったか」

由美「出るんじゃないよ」


相葉「……開けてくれないか、怪しい者じゃない」

由美「怪しくないという奴ほど怪しいものはない」

孝雄「うむ、怪しくないと言って部屋に連れ込む

更にマッサージしてあげると言って触ってくる

常習犯が使ってくる事と同じだな」


夏帆「ちょっと黙っててくれる……アンタの会話は

全てそっちに持ってくから疲れんだ」

孝雄「……間違ってはいない、

トイレ貸してってのも常套手段だな」


相葉(なにか訳わからん話で

盛り上がってるようだな……)

「ハクについてだ」


あまりにも素早く、肉眼では捉えられないほどの

速度で純衣がドアを開けた。

乙音「あ……」

由美「……早っ!」

夏帆「ひっ、人の速さじゃねぇ……」


自分の掌を両手で握り締め、輝きに満ちた

上目使いで相葉を見る純衣に思わず顔を赤らめる

相葉だった。

純衣「ハクは何処?何処?」

相葉「あ、いや……此処には居ないんだ」

次の瞬間、純衣は鬼の形相に変化した……


夏帆「怖っ!」

由美「夜叉ね……」

乙音に至っては泣いていた……


相葉「あの、怖いんですけど……

そ、そうだ、そんな事より話がある、

あまり時間がないんだ、入らせてもらうよ」


一時間後ーー


相葉は今までの出来事、ハク、誠、

クリスの情報を純衣に詳しく話した。

彼らが何しに此処に来たか……

それを知った夏帆達は今まで安心に暮らしていた

生活を台無しにする可能性のある話に戸惑っていた

救助とは聞こえはいいが、捕虜以外、

此処での暮らしは外より最優先するべき

命の安全性が高いからだ、

彼女らは彼女らで困惑し悩んだ……


夏帆「ちょっと皆こっちに来な」

仲間を集め会合する


由美「ちょっと、どう言うことよ……

私達、反逆者を匿ってるみたいなものよ!

これがバレたら確実に私達全員殺されるわ」


乙音「そう言う話なら私は反対よ、

一時の情に流されちゃダメよ!此処から離れて

どうやって暮らしていくのさ!」


南「そりゃさ……不便も多いのは確かよ、

体だって提供するのは本当に嫌だけど、

外の世界からやっと此処まで来たのに」


由美「ゾンビが蔓延する世界にまた戻る……

一時すら眠る事に安心出来ないあの世界に?

私も反対だ、此処には私の子供も居るんだ」


乙音「そうよ!また毎日、怯えて暮らすの?

ゾンビだけじゃないのよ!人間、グリマン、獣、

病気、飢餓、数えたらキリが無い!忘れたの?」


夏帆「……でも考えて、それについては私は前から

考えていた事がある。

由美、アンタの子は女よ、男でも同じだけど、

今は隠して私達で育てて居るけど、

もし存在がバレでもしたら……

いや今までバレてないのが運が良いだけよ、

この抑圧された世界で子供は性欲の対象になり易い

数が少ない事はそれだけ価値があるって

事でもある、それは過去の戦争被害でも明確だわ、

そんなんでいいの?私にも子供がいる、

その子達がいつまで隠し通せるか、

こんな生活して良いか、私はづっと悩んでたわ」


由美「……生かせる義務があるわ、親には」

上野「そんなもの貴方が言ってるだけで

此処では通用しない、する筈がない、

奪われる命にあがらう『力』が貴方にはあるの?

それに義務とか常識は数の多い方の人口の思想で

決まるのよ、見つかれば貴方は子供と切り離される

そして此処の法律はボスよ」


わかってはいた、が聞きたくない言葉に思わず

耳を防ぐ由美の顔は険しかった……

だが逃げる事すら出来ない家族の重圧に

由美は壁を力一杯の力で叩きつける事しか

出来なかった。


乙音「生きるだけで本当に生きてるって

言えるのかな、生かすのみ、

それが親の使命なのかな……

私もわからなくなってきたよ……」


由美「アンタは子供が居ないからわかんないのよ

私はこの子を守る為なら、この身をいつでも男に

捧げるわ、何かあったら刺し違えても守る覚悟が

私にはある!」


乙音「刺し違えても守っても其処で命を落とせば

守れるのはその場凌ぎの一回だけなのよ!」

夏帆「まぁ落ち着いて……」


この会話が聞こえてきたが黙って居ようと思った

純衣が入って来た。

「私はみんなの安全を保証は出来ない、

戦闘になれば犠牲者が出ない戦いなんて

そんな都合の良い事、言えない……

それでも貴方達が自由を、人を愛する事が

ごく普通のありきたりな日常を望むなら

私はハクの想いに貴方達の想いも背負って戦う」


裕太「僕もだ、この作戦、全ての『人間』を

救うのが目的だと思う、ハクは敵だからって

生きる希望を持つ人間を見放したりしないから」


由美「馬鹿か……敵に?そんな甘い奴の言う事なら

尚更聞けない、失敗するのが落ちさ、

いいかそんな奴は寝首をかかれて逝っちまうのが

世の常だ」


裕太「……そんな甘い奴が沢山いる世界を

君たちは求めてるんんだよね」


由美「……」

裕太「甘い世界、上等じゃねぇか!」誠

「甘い世界こそがハッピーライフ」ハク

「甘い世界?それが当たり前だろう?」晴


「僕の仲間が言いそうな言葉……

寝首?かけ無いと思うよ?僕達の命は繋がってると

言ってもいい、誰もが仲間を見守り、それを守る

それは何も僕達だけが特別じゃない

貴方達の家族も同じでしょ?

理想なんかじゃない、

其処に既に存在してるよね……

そんな甘い世界って良いじゃないですか

子供達にとっても」


由美「……」ただ黙る由美だった。


夏帆「私は賛成だね、正直な話……

アンタ達今の生活しか考えてないんじゃないか?

若いうちは、まだ生き残る術はあると思う

でも、私達も歳を取り老けていくんだ、

いつまでも、この仕事の需要があると思う?

それに子供可愛さに言った由美、

アンタさ、自分の子にも私達と同じ

この生活をさせる気なの?」


由美「……そう言う訳じゃない」

夏帆「そうね、少し意地悪だったわね、

でも何か行動しなきゃ、貴方の大切な……

天使のような子供達の未来は確実に私達と同じ、

いや、まだ平和な時代を経験してる私達以上の

過酷で生きる意味を持たない人生を、

選択肢なんか無い人生を背負わせて良いのかな」


由美「……そんな事言ったって、生きなきゃ

その思想すら持てないのよ!正義感ぶってたって

生きなきゃ意味がない!その先の未来は

その子達が切り拓けば良いじゃない」


乙音「切り開くか……」

南「子供の頃から此処で育った子にとって

その選択は厳しいわね……」


夏帆「そうだね……子供の頃、由美、アンタ、

イジメに合ってたって言ってたね」


触れられたく無い過去に由美は

感情を更に激しく燃え上がらせた。


由美「……なんか関係あるの、それ」

夏帆「その時の事、思い出して見て、

大人になったらなったで苦労は堪えないけど、

アンタさ、その時の心の壁、壊せたの?

その世界が人生の一部だと他人から教えられて

素直にいつか来る苦しい世界の終わりを現実に

感じられたの?

子供にとってはさ、それが学校の子もいれば

家庭だった子もいるだろうさ……

だがその世界を自らの手で壊す事が

出来る奴なんざさ、そうそういるモンじゃない、

誰かの言葉だったり行動だったり、助けも必要、

求めてなかったかい?そしてそれは、きっかけ

最後は自分の世界は自分で変えるしか無いんだよ、

でもそれは何も子供だけの話じゃない、

大人だって同じさ、

そして大人には子を産んだ大人の責任って

ものがあるんじゃないかい?」


由美「……責任」

夏帆「少なくともやれる事はやってさ、

手本になる事はやらなきゃ、作ってあげなきゃ、

子供はまだ世界を作れない、

ならこの子達が夢見る世界、私達がこの子らが

幸せに暮らして行ける世界を私達大人が

作らなきゃならないんじゃないか?」


南「子供には出来ない事が多く出来るのが大人、

大人には大人の子供には子供の戦いがある、

今は私達がその戦いの時なのかもね」


夏帆「まともに生きる、そんなささやかに思える

普通がこんなにも困難なんてね……」


雪音が部屋に飛び込んできた、その表情は険しく

どうして良いかわからない表情に目には

大粒の涙を浮かべリーダーである

夏帆の腕を取り激しく訴えた。


「エリが……エリが拐われた!助けたくば、

此処に匿ってる2人を連れて惨劇橋まで

連れて来いって、

私、私!止めようと抵抗したんだけど、

あ、私の力じゃ……どうしようも無くて」


口は切れ右の頬に余程強く殴られた後が

青アザとなり生々しくついていた。


夏帆「落ち着いて!相手は?誰なの」

エリ「それが此処いらじゃ見た事ない奴らだった」

夏帆「……見た事がない?此処いらの男の顔は

私達が知らない訳は無い……」


雪音「それだけじゃ無いの、

此処の近くの温川さんにいるコミュニティに

レイダーが30名程派遣されたと聞いた、

このタイミングでよ?

祭りは人手が多く外部からの入場者も多いから

警護に人手がいる状況でよ、

この祭り、何かおかしいよ」


夏帆「……まずいね、あそこには」

相葉「温川とここは繋がりがあるのか?」

夏帆「えぇ……あの場所の温川さんの場所には

年頃になった女の子を匿ってもらってるの

人数が増えると隠しきれないからね……

野獣どもに彼女達の未来を潰させてたまるものか

しかし何故今なんだ……」


乙音「となると……」

由美「……言ったじゃない」

「やはりコイツら匿ったからだ!コイツらが黒田に

逆らった時点で間違いだったんだ!突き出そう!

アイツらもコイツらが選手として登録される

明日の朝までにコイツらを引き渡せば

乙音は無事に帰ってくる!」


夏帆「……それはこの子を犠牲にするって事を

わかって言ってんだろうね」


由美「元々仲間じゃないじゃない!家族の方が

大事よ、だってそうでしょ、今日あったばかりの

人間より、血の繋がった家族や、長い時を過ごした

仲間の命の方が重い!」


乙音「落ち着いて由美……言ってることは分かる、

けど……」


夏帆「そんな簡単な問題じゃ無い、

この子を引き渡すって事は今までと何も変わらない

私達はさっき言った通り今変わるチャンス」


由美「命が無くなったらチャンスなんて無い!」

夏帆「……」


正論と正論がぶつかり合う、誰もが答えを知りたい

どうすれば良いのかなんて先の見えない未来を

予測できる訳は無いのだから……

言葉は全てを正論にも出来る、元々は意思を伝える

方法として発展した言葉が、敬語や差別、人を攻撃

する槍にもまた人を癒す盾にもなる、

言葉は大事だ、だが軽んじて使うようになった現代

それを巧みに使い人を貶めることの方が多くなった


しばらくは様子を見ていた純衣が側にある棍棒を

手にすると優しい目で言い争う彼女達を一人一人

見ながら口を開いた……


純衣「……みんな仲間が好きなのね」

由美「そりゃそうよ、私達は命を懸けて此処の

生活を実力でもぎ取ってきたの、アンタなんかに

私達の気持ちなんかわかりゃしないんだよ!」


純衣「その強い口調も仲間を大事にしているから

夏帆さんが私を庇うのも周りの環境を変え、

仲間に良い暮らしをさせたい優しい思いやり……」


夏帆「……アンタ」

純衣「みんな仲間を思っての口喧嘩なの、

それをわかってあげて、そうでしょ、

じゃないと喧嘩にもなってないわ」


由美「……」

握りしめた棍棒を握る手が純衣の白い肌を

美しく赤く紅葉していく、無限な優しい中に

燃えるような怒りが見える。


純衣「そんな皆んなが私は大好き!」

予測もしないそんな言葉に皆が唖然とした。

その声は素直で一変の曇りもない、

純衣の顔は明るく満点の笑顔で微笑む彼女を

皆が見た時、論争の言葉の繋がりもない

その言葉と笑顔に怒りが自然と消えて言った。


純衣「大丈夫、私が行く、そして必ずエリさんを

助け出す」


強い眼差しにありえないと思う彼女らの思いも

その純粋さと真っ直ぐさに縋りたい気持ちが

心を満たしていくのを皆感じていた。


由美「アンタが行くってんなら……取り敢えず

エリの安全は確保できる、それで私は文句ない」


言った由美の唇が微かに震えていた……

発する言葉の中に罪悪感を感じたからか

純衣は優しく由美を抱きしめた。


突然の迷いに言い争った後の気まずさもあった

由美の心を見透かしたように優しく抱きしめた

純衣の抱擁は大きなそしてとても優しい何かを

感じていた。


複雑で行き場のない怒りや悔しさ、葛藤、不安、

由美の目に自然と涙が流れるのを肌で感じた純衣は

由美を抱きしめたまま彼女の必死に強い自分を

守ろうとする心を感じた、

周りに涙を見せられる立場ではない、

副リーダーで弱さを見せられないと言う彼女の強い

意地を感じ取るように抱きしめ続けたのだった……


やがて涙が止まり純衣が抱擁を止め

顔を上げた由美はいつもの通り強い眼差しで

皆に顔を見せたのだった。


由美「コイツ縛れ……今から連れてくよ」

乙音「……いいの?本当に」

由美「聞いてなかったのかい!早くしろ!」


乙音は少し怯えた表情で純衣の腕と傍で話を黙って

聞いていた裕太の腕を縛りつけた。

純衣「ホイホイ、じゃ行きましょ」

これからどうなるかわからない現状とは思えない

その言葉のテンションに笑顔は罪悪感を持つ彼女達

の気持ちを軽くしていた、普通は余計罪悪感を

感じる筈だのに、その感覚の不思議さは異様である

それ程にまるで散歩にでも出かけるような口調と

態度がそうさせたのだろうか……


裕太「はは、まるでハクだね」

純衣は顔面真っ赤で嬉しそうだ……

そんな彼女を見た子供達も大人達が言い争う場に

不安を隠しきれずにいたが、安心し、

純衣はどこかへ遊びに行くと錯覚したのか

笑顔で純衣の側に張り付き笑顔で笑った。


由美が夏帆に近づくと耳打ちで囁く……

由美「アンタが言った通りだ……

この子は殺させちゃいけない奴だ、

向こうに着いてエリを確保したら戦うよ」

夏帆「……アンタ」

由美「指揮は任せる、もう決心した、迷いは無い

此処でどうなろうと、此処から追われようと

私は一からでも家族を守る、

もうブレない!アイツのように」

夏帆「……だな、不思議な奴だ、

そうまるで女神の様な……

誰もがあの子の中にある暖かいモノに

縋りたく様な……女の私ですらあの子の胸で

眠りたい、全てを委ねてそう思わせる何かがある」


相葉はその間考えていた……

タイミングや過去にこういった事例がないかを

協力者に聞いてみたが過去には一切無かった。

それ程までに今回は特殊な事例と言えた

相葉は取引の視点から物事を考え行動していた

考えに疑問を持ち始める……

相手がよりしたたかで企業買収を考える視点での

考えに変える必要を感じたからだ

相手にとって全てを有利にする方法、

現状を考え最も安全に有利に事を進める方法

それを読み取る事が作戦を成功する鍵

そして読み違えれば全てが終わる重大さに


そして辺りをみたが孝雄の姿が無い事に気づく

(この事案に戦力となる孝雄が……いない?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ