内部
大型のグリマンに対し人間は小さい、
人型と言えど酸素濃度の濃さや重力が影響すると
言われている大きさに置いてまずバラバラな方が
自然というものだ。
背丈は彼等から見て人間の平均身長からすると
小学生を連想させる高低差があった。
椅子に座るグリマンに対しハクは身の小ささを
生かし素早く移動を繰り返した。人型である以上
視覚の盲点は多い、魚類や昆虫のように
横や縦の視野範囲が広いわけでもない
想像は容易い、上下からの視野は特に弱いと
言って良いだろう、潜り込んだ犬を常に視野に
捉えるのは困難の極みだ。牙を持つ犬に
襲われた時を想像しよう……そう言うことだ。
時折、彼等は怒っているかの様に殴り合う、
中世の剣闘士の様な出立ちに腕には通信機なのか
大きめの腕輪が彼等の特徴だ、出立ちに見合った
彼等のその行動はごく自然の事なのだろう
人の様に血みどろになると言うよりは直ぐに
収まる、それは地上においては同種の縄張り
争いのような致命的な傷は避けるが……
と言ったものに近い、だが骨格もさる事ながら
あの体型にて筋肉だソレが始まれば最早、
人等一撃で人生が終わってしまいそうなほどの
迫力とパワーを空気が振動する打撃音から
感じられた、だがその行動は頻繁に起こる、
物凄く凶暴で粗雑そして感情にシンプルだ。
しかし此処で暴れられてはたまったものでは無い、
移動した先に近接武器が転がっている……
それは原子時代を思わせるようなハンマーにも
斧にも見えるグリップ部分にも何か仕掛けが
ある様に見えた。
無造作に置かれたソレを見て立ち止まるハク
一度は離れようとしたがどうやら足が動かない
様だ……身が拒絶しているのか心が
拒絶しているのか、緊張に包まれる空気が
ハクの周りだけ緩んでいくのが手にとって
わかる……どうも謎のグリップを回したくて
仕方ないらしい
(猫か……こいつ)
クリス「……ハク興味持つんじゃねぇぞ、
んなわかりやすいグリップ回したら何かあるに
決まってんだろ!」
ハク『ジー……』
指でツンツンしてみる……
楽しそうな玩具を目の前にして、お預けを
食らっている子供の様にも見える……
クリス「コラ!今は安全第一だ!」
クリスの願い虚しくそれを手に取り持ち上げようと
するもかなり重いのか持ち上がる様子はない」
クリス「ふぅ……よし!置け!置くんだ!
そっとだぞ触ったら満足しただろ?
グリップだけは回すなよ……」
ハクはクリスの方を見てニタリと笑った。
クリス「……アイツわざとだな」
そうハクは緊迫すると、たまにドSになる。
とまぁ遊んでる暇もそうそうない事はハクも承知
再び動き出す、そのあまりの素早さに驚く。
クリス「おいおい頼むぜ……
やりゃ出来るんじゃねぇか見てるこっちは
ヒヤヒヤしすぎて逆に気が緩んじまったわ……
しかしこれがパルクールと言うやつか……
華麗にして、音も静かだ、これなら視界に
入らなければ奴ら気付きもしないだろう、
そして段差は止まる事なく移動する、
膝にかかる衝撃も、うまく転がって分散してるな」
□移動術□
一見派手な空中後方回転も体の空気抵抗を
効率よく体に受け重力の方向性を分散させる。
普通の人なら届かない高さも壁になる設置面を
巧みに利用し二段ジャンプなりして到達する
体操競技を見ればわかるだろう、後方回転やスワン
捻り等マットが少し反発はするものの
ジャンプによる最高到達地点からまともにそのまま
地面へと降りればまず重力に身の重さと早さが
加わりまず膝がもたない。
地面でバク転をする、これも飛んだ時に斜めの力が
地面に設置する重力を分散する、ついで腰が周り
足がさらに回転し腕や手にかかる重力を回転の
力に変化させる為手首に損傷が起きないのだ。
設置面が均等に並ぶ三階建ての建物など階段に比べ
以下に早く到達できるか建物はまさにパルクールに
適した環境……
いや環境が育てた新しいスポーツと
言っていい、身の小さいハクはなぜこれを選んだか
ソレは階段など逃げに利用するときに体力がない
ハクは足だけに負担をかけず肉体をバランスよく
疲れ具合にすることにより体力を維持する効果も
あるのだ。彼は恵まれなかった肉体を嘆くよりも
自分にとって何が最適か、そして人がやらない事は
それだけで他に対する有利性を生むことを
知っていた他ならない。
隙を見ては素早くためらう事なく進んでいく、
そして一つの箱を見つけるとその中をゴソゴソと
探った、敵の死角に位置する場所から
それらしい物を幾つかポケットに仕舞い込むと
ソソクサとクリスの元へ戻っていった。
クリス「行くぞ、もう寄り道すんじゃねぇぞ!
お前は子供か」
ハク「にゃっは沢山持ってきた、これ後で試そうよ
楽しみが増えた」
無邪気に笑うハクを見て呆れるクリス
(コイツには緊迫感がないのか……)
そしてその部屋を抜けると大きい円形の部屋の
二階部分へと差し掛かる、大勢のグリマンの声が
響き渡り身を低くし、そっと顔を覗かせる……
上から下に目線を下げると驚愕の光景が
彼等の目に飛び込んできた。
先程までの原始的な施設とは思えない程の
見た事がない高度な文明を思わせる設備
その多くの機器自体が薄ぼんやりと発光していた、
更には中央に円形の透明なカプセル上の球体が
行き来している、形状は違うも物のこれは
明らかに人社会で言う移動用の乗り者を思わせる
音は皆無、スムーズに動くそれは空中を
浮遊するように進路先の通路へと吸い込まれる
ように消えていく。
壁は白く正面に巨大な紋章のような物が描かれ
先程の移動用の通路にも違う模様の紋章が
描かれていた、ざっと見積もっても此処にいる
グリマンだけでも軽く100体は超えていた。
クリス「マジか……まさかこんな物が施設内部に
あるとは……ソレに想像より数が多い」
ハク「マズいね……これステーションと思っていい
となると、人数の把握は難しい、援軍が直ぐにでも
来そうだ、日本には想像より相当数のグリマンが
地下に存在している可能性も高いね……」
ハク「アリンコみたい……でもそれにしては地上に
出てるのは少ないね、意味があるのかな」
クリス「そうだな地上に出る必要がない……のか」
ハク「生贄以外興味無いか……だね」
クリス「後者だと此方が有利だな」
しばし観察を続ける2人はやはり違和感を感じる
それを扱う彼等の指や動きはその機械に見合った
繊細な動機ではなくその真逆、
ボタン一つ押すのにもまるでゲームで怒り狂う
狂犬プレイヤーの様に乱暴でそう粗雑であった。
ハク「違和感……感じるね」
クリス「お前もか……奴らこんなに文明が発達した
機械を持っているのに、あの扱いだ……
あの機器をコイツらが作ったとは思えないな」
ハク「だね……」
クリス「もう少し調査してみるか……
何かわかるかも知れない、救出策のためにも
奴らの総人数と出来れば武器を見ておきたい、
特に移動用のマシンがあるか」
ハク「そうだね、目的はC棟探しだけど行ける所
まで行ってみよう」
ハク「先を急ごう……」
クリス「あ、あぁ……」
中心に位置したその場所を離れ、またも原始を
思わせる通路へと戻る2人、
深部へ行く程通路とは呼べない程のものに景観が
変わりゆく、床に至っては最早土だ、
湿気でぬかるんだ様な状態に苔は通路の端に
びっしりと根を生やす、先程は根っこの様な物が
壁に張り付いていたが此処に至ってはまるで動く
血管の様に見える『ドクドク』と波打つそれらは
長い蛭の様にも見える。
ハク「うえっ……なんか張り付いてくる」
クリス「確かに異臭もキツくなってきたな」
更に10分程歩く……
『ドン……ドン……ドン』
周りが振動で壁が響く様な重低音の音楽を
体に感じる、身を潜め姿勢を低く脇の通路へと
彼等の体重からしてキノコの胞子
なのか埃なのかは分からないが接近は安易に
分かり易かった。
クリス「少し戻り、さっきあった部屋に入ろう
やり過ごしたら先へ進むぞ」
ハク「さっきカメラ持ってたよね?
あれ取り付けたらライブ映像って出来るの?」
クリス「あぁ、モニターもボロいが此処にある」
ハク「貸して!」
クリス「お、おい!」
そう言うと通り過ぎたグリマンの後へと素早く移動
影に潜む様に身を低くしながら後をつけた
何かしらの気配に気づいたグリマンが後を向くも
常に視界と逆後方斜めに位置したハクの姿は
捉えられない様だった。
然程気にする様子もなく再び歩き始めるグリマン
隙を見つけてはハクは彼らが身に付ける装備を
ジロジロと観察、そしてなるべく目立た無い
腰の裏付近にカメラを貼り付け戻った。
クリス「無理すんじゃねぇ!って言ったろ!」
ハク「終わりよければ行程なんざ済んだ話だ
全て良し、by誠」
クリス「……言いそうだ」
ハク「どう?映る?」
クリス「まぁ待て、今周波数を合わせる……
と、これか映ったぞ」
2人でそれを覗き込む、通路を歩いている様子が映る
入り口付近の先程の小屋に到着したグリマンが
腰を下ろし対面にいるグリマンが映る。
鞄の様な物からカプセルを3錠取り出し口に
放り込むと部屋の角にあった巨大カプセルに入る
緑色のガスの様なものが内部でグリマンを覆い
10秒程経過した後カプセルが開き外へ出ると
再び腰を下ろすのだった。
それから5分は動きがない、とりあえず映像は
録画にし先へ進む2人だった。
歩きは1時間程経過、途中部屋らしき物が幾つも
あり、ハクはその度に中に入ろうとするが
ソレを止めるのが大変だったクリス
「中に入るのは危険だ、どんな警報装置やカメラが
あるかわからないんだぞ、目視で充分だろ」
そうなだめ、ひたすら奥へ奥へと侵入する
一旦帰還するか思いかけた頃、奥で人間の声がする
2人は慎重に歩を進めると遂にC棟を
遂に発見したのだった。
ハク「居た!……」
クリス「人数は……多いな100はいる」
ハク「そうだね……見張りは居ないが、
あれ何だろう」
牢屋に見えるその檻の前にポールの様な台に球体が
浮かんでいる、プラズマのような電気質の様な物が
その球体を中心に放出されていた
そしてそれは各牢屋の前に置かれている。
果たしてカメラの役割を果たすものか……
もしくは脱走を防ぐ何か……
何か理由があって置かれている事には間違いない
見た事も無い機器に装備、彼等は確かに調査が
必要だと感じる……それも簡単なものでは無い上に
救出となれば数ヶ月、いや数年……
かかると予測出来た、それも見つからずに
毎回侵入出来ればの話だ。
現実と目的に解決策が見つからない。
クリス「……一つ一つ解決していこう、
今はそれしか手がない、
先ずはよくわからん装置だが形状が球体となると
視野範囲、罠だとしても有効範囲はかなり広いぞ、
実際どう言ったものか知ってからで無いと
到底近づくのは危険だ」
ハク「確かに……」
クリス「一旦カメラに映像を収める、
作戦は後に映像を見ながら検討しよう、戻るぞ」
しばし動かないハクの肩を叩きクリスは頷いた
ハクもソレを目にし、このまま去るのは心苦しい
気持ちを抑えハクも頷いた。
クリス「……今は耐えろ、全ては1人でも多く
救う為だ、わかるな、ともかく、これでも予想より
遥かに多い捕虜数あわかっただけ良しとせねば
それにまだいる事も考えても上の人間地帯
それ地下施設、規模からして作戦は簡単には
いかねぇ事だけはわかった」
こうして2人は来た道を戻る、道中先程の
グリマンのカメラを見ながら進んでいると
ふと画面に映った姿は別の何処かの牢屋だった
そこに映し出された映像を2人は見ていると
どうやらグリマンが小型のグリマンを閉じ込めた
牢屋に食事を運んでいる様子が映し出された。
クリス「かなり小さいグリマンだな……
さっきの奴の身長からして同じグリマンより
遥かに小型だ……良くて1メートル
人間で言うと五歳児位の身長って所か」
ハク「……子供かな?」
クリス「違うだろう……脳は発達しているのか
人の頭部より少し大きくは見える、だが肌は緑、
奴等の同種族として間違いはないだろう
それに子供にしちゃ幼さもない上に
目つきも鋭い……」
柵に入る小型グリマンに乱暴にカプセルを顔に向け
投げつけると手の持った近接武器の柄の部分を
小型に押しつけ、まるであざ笑っているように
笑っていた、
ハク「酷い……」
クリス「扱いからして囚人の類か、
関わらないのが一番……だ?って、アレ?
おいハク?また何処行きやがった!」
慌て廊下に出るクリス、角を曲がるハクの姿を
捉えるとすぐ様、後を追った。
クリス「アイツあの時もそうだったが子供見ると
見境ねぇな……子供でもねぇぞきっと、
クソヤベェ状況は俺らの方だってのによ!
くそ!待て、場所だってわからねぇだろうが!」
振り返りながらハクは言った、
ハク「場所は想像がつく、紋章が上にある、
さっきの暗証キーにも意味があると思う
それにさっきの移動用カプセルに
記してあった紋章、今走ってる廊下にも
重複する紋章がある」
クリス「数字の役割ってか……んな事言ったって
数字かどうかわかんねぇぞ」
ハク「廊下の文字を数字に置き換えてみて、
表示には意味がある、統一しているなら宗教上とか
施設名とか同一文字で統一されている筈、
ソレに紋章よく見て……
一つの紋章の上に重ねるように描かれた線の様な
これ多分紋章が桁で、重なってる線みたいなのが
単数を意味するんだと思う、
地球でもマヤ文明は横に点、インカ帝国はキープ
文字は無いとされてるけど紐に結び目をつけて
数を表す、それにヒエログリフ」
ハクは走りながら指差す、
「見て此処は若草の様な紋章に線二本、
次は若草に円だ、次は角に線、そして次は線に円、
あらゆる知的生命体、文明の共通は数字なんだ」
クリス「確かに数字の概念がないと文明の進歩は
有り得ないな、そうか遙か宇宙に存在するものも
建物にしろ通貨にしろ科学にしろ古代文明にしろ
建築にしろ、知的生命体にも必ず共通点が
あると言うことか、ソレの一つが数字は納得がいく
そしてこれは……つまり重複する紋章は桁を表す、
つまり此処からカメラに映った紋章は
最初が同じ、そこの角か!」
ハク「ご明察!」
ようやくハクに追いついたかと思えば手を広げ
クリスの動きを止めた、
クリス「ハァハァ……お前、足早すぎ……」
ハク「シッ……」
クリスの口を塞ぐハク、だが息切れしている
クリスにとってソレは拷問だ。
クリス「おまっ!今塞いだ……ら!ぐるじ……」
ハク「あ、ごめん、でも静かに……」
クリス「何かいるんケホッだな……
待て今カメラを出すからケホケホ……」
カメラを曲がり角へとワイヤーを伸ばす、
CCDカメラ状態に引き伸ばした先端のカメラ部分を
少し出すと2人して食い入るように覗き込んだ。
天井の至る所から水滴が滴り落ちる、今いる場所も
だが更に劣悪な環境だった、湿度も高い
先程の施設内部とは思えないまるで地上で言う
洞窟の穴のような場所に縦に何本か張り巡らされた
棒の中にソレは居た。
クリス「監視カメラの様な物はない……
まだ虐めてやがる、しつこい奴らだな」
ハクは辺りを見渡す、そして落ちている
そこら中に転がっている木の根っこの一つを
引き千切り、ポケットから輪ゴムを
三つ取り出した。
クリス「何する気だ?」
ハクは更にその木を地面へと擦り土を付けると
地面へと放り投げた、根っこは湿気と土壌が
濡れている為、音もなく張り付く様に落ちた。
ハク「うん見た目にはわからないね……」
クリス「?」
ハクはクリスに根っこを渡すとそっと
耳うちするのだった。
クリス「……なるほど、了解した、任せとけ」
気の根っこに手に持った輪ゴム三つを重ねたものに
取り付けゴムを引き絞る。
グリマンA「□〆∞○」
小さきグリマンを右手で殴りつける瞬間もう一体の
Bグリマンの顔の横をその拳が通り過ぎる瞬間
放たれた気の根っこがBグリマンの顔目掛け放たれた
『パシッ』
Bグリマンが気の根っこに当たった左頬に手をやり
ギロりとAグリマンを睨む。
落ちた根っこは湿りっ気のある地面へと落ちると
周りと同化、湿気は地面と根っこのバウンドすら
起こす事なくぺたりと張り付くように落ちた。
ハク「ナイス!さすがクリス」
クリス「射撃の腕なら自信がある
銃だろうと弓だろうと
このゴムの……オモチャ……だろう……と」
ハク「悪戯名人クリス!」
クリス「……」
(俺の威厳が……)
ハク「ほい!次、次!動きに合わせて互いが
見えない場所へ頼むね」
ソレは授業中悪戯でよくやるアレと同じだった。
『パシッ』
『パシッ』
2体のグリマンは小さきグリマンの殴る手を止め
互いの方を見て何やら怪訝な顔をしている。
そして声のトーンが明らかに上がったと思えば
壮絶な殴り合いが始まったのだった。
凄まじい威力の拳で殴り合う2体
勢いで吹き飛ぶグリマンは牢屋のポールを曲げる
程の凄まじさだ……
ハク「怖っ!リアルキングコングだねありゃ」
クリス「何を悠長なことを……しかし作戦通りだ
暴力性の高いアイツらを喧嘩させる事は
確かに簡単だったな、ゴム一つとタイミングか、
お前の考える事は面白いな、地味過ぎて笑えるが
効果的めんだ、ほんと、お前と居るとここが
奴らの拠点だって事忘れそうだぜ……」
ハク「怒りは力の放出に伴い威力を失っていく
そして対象物から一旦離れた意識は興味すら
薄れる筈だからその内去るでしょ」
クリス「だといいが」
ハク「最後に1発は貰うだろうけど」
クリス「おっ治まった様だぞ……あ、確かに最後
小さいグリマン蹴られたな」
ハク「これぞドラマや映画に出て来る去り際シーン
嫌だねぇ生き物の中でも暴力好きな奴らの暴言か
暴力のお決まりパターン!
メモメモ……雑魚の生態っと」
クリス「よし去ったぞ……」




