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クリス26 消えゆく灯火



シルブァ「教授、……私に粛清を」

囁く彼女の声は静かにそしてドロアも

聞いた事がない穏やかで優しさに溢れていた……


そして……

感じる……


音声だけ伝わる通信にも関わらずドロアの

起爆スイッチに触れる指から迷いを……


その事が決意したシルブァも辛かった……


この世での生、それは小女にとって辛く悲しい

現実が多かったのを彼は知っていた、

そしてまた幼き彼女が受けてきた屈辱と悲しみ、

そしてほんの少しの憎しみと無限なる絶望……


ドロア「……我が子よ、もう一度だけ聞く

今からでも遅くは無い、任務に戻るんだ、

お前を殺したくは無いのだよ……」


(お前は最初から人への憎しみは少なかった……

あんな人生を歩まされたにも関わらず、

数多き不幸に憎しみさえも凌駕する絶望

故にお前には洗脳に近い教育を施した……)


「何故だ?もう消えゆく命に義理立てしたとて

生まれるモノも無く多くを失う事になるのだぞ」


(本当はもう人に関わっては欲しくなかった……)


「お前が今離れればイルガ達と力で戦うボルドでは

太刀打ち出来ないだろう、蜥蜴のスピードに

ついて行ける存在は今お前だけだと言うのに

居たとしても勝てる見込みは30%も無かろうて……

全てを見捨てるのか……」


(だが私はこの者達なら人間のヘドロにまみれた

汚物より汚い本来の姿をお前に見せてくれると

思った、それで全てはうまく行く筈だった)


「私は……」


『お前に賭けたのだがな……』


シルブァ「……お父さん」


「ありがとう……」


声に出さないが、その言葉を聞いたドロアの

心の動揺が垣間見える……


そっと首無しゾンビを抱きしめる様に

シルブァは長く美しい銀髪をなびかせ

静かに目を閉じた。


ドロア「……馬鹿者」


その瞬間シルブァの中の起爆スイッチが入る

大規模な爆発では無く無数の剣や棒が彼女の

身体から意思を無視して飛び出した、

内蔵に隠された爆弾部分が高温化、熱爆発し

暖まった事により体を突き抜け温度により

形状を変化させ武器とする内部記憶金属の

無数の剣や棒がシルブァの身体に無数の穴を開けた


シルブァ『嗚呼あぁぁぁあああ!』


断末魔の声が何故か美しい音色の様に響き渡った。


だがその瞬間ーー

シルブァの哀しい目に力が宿り

鋭く、そして激しく光りを放った、

普段は無数には意識では出せない身体内部からの

突起物が飛び出す勢いを利用してシルブァの

身体が力強い凄まじい回転を奏でた、


その瞬間、自身の身体を突き抜け、抱いていた

改造ゾンビの身体を取り巻く防御板の隙間にまで

刺し貫き回転による力が加わりまるで内部爆発

するかの様に改造ゾンビの体が無数の

肉片となり、あの太く丸太の様な腕が見事に

千切れ飛散し防御板は腕の肉ごと空を舞い

闇は落ちた……



「……」


そして何時間……いや何分経ったのかも

わからない時が過ぎた……


クリスが再び目を開けた……

異臭にゾンビの何処からか聞こえてくる不快な

メロディに起こされるかの様に


脳が混乱する中走馬燈の如く経緯が頭を走り抜ける

此処にきた理由、そして潜入、出会い


思い出さねばならぬ本能と使命感が駆け巡る

額に手を置き頭をガムシャラに掴み、まるで脳の

記憶能力を無理やり早めるかの様に

「違う!此処じゃない!もっと先だ!」


「あ……」


現実を脳が認め視界のモヤが消えて行く

飛び起きたクリスは辺りを見渡すと

その現状に何があったかを瞬時に悟った。


クリス「シ……シルブァ!」

這いつくばる様に無様に動きながら彼女を探す

その傍らには浅い呼吸を苦しそうにしていた

シルブァの姿があった……


駆け寄るクリスは未だ飛び出た鋭く光る剣や突起物

が自身に傷をつける事など構う事なくシルブァの

身を起こし自身に持たれさせるよう優しく身を包む


クリス「この馬鹿野郎……無駄な事しやがって……」


彼女の顔に掛かる銀髪を人差し指と中指で

優しく梳かすとシルブァは目を少し開ける……


シルブァ「……ご無事で」


クリス「ご無事なもんか!また俺に背負えって

言うのかよ……」


シルブァ「泣かないで……貴方が泣くと

私も……哀しい」


拳を握り彼は乱暴に自分の涙を吹き払った。


「悲しまないで……私はまた再生されるのですから」


クリス「馬鹿野郎……」


「再生ってクローンの事言ってんだろ……」


「俺が知ってるシルブァはお前だけだろうが

どんなクローンが何体今後現れても……

今存在するお前は『お前』だけじゃねーか……」


「ボルドだってそうだ……共に戦い培った絆を持つ

共に共有した仲間はあのボルドじゃねぇ……

お前だって……此処にいるお前は

唯一無二のお前だけだろうが」


シルブァ「わ……私は……私だけ」


クリスの抱きしめる力が一層強くなった、


クリス「そうだ、お前だけだ、俺と戦ったさっきの

お前、出会った時、人間に嫌悪感いだいてたお前、

時は進んでも過去俺と居た時間を共有したお前に

替はねーんだ!」


「無ぇんだよ……」


シルブァ「あ……ありがとう、私、今貴方の中で

唯一存在する1人の人間なのね」


「私に替は無いんだ……」


彼女は少し俯き微笑んだ……


それをモニターで静かに見届けるドロア


「……俺には友が居ない」


「そもそも俺もお前達同様、人を信用して無い……

だが、お前やボルドは俺の知る人間とは違った……

ようやく信用できる友が2人も出来たと

思ったのに……」


「また……」


「また守れなかった……」


シルブァは少し困った顔を見せ彼の頬に

そっと優しく手を添えた。


シルブァ「いつか貴方が心から信用出来る人間が

現れるわ……その人は貴方の為に力を惜しま無いし

貴方もまたその方の為に力を惜しま無いでしょう

それは打てば響く存在……」


「貴方が私にしてくれた様に……

そして私が貴方にしたように……」


「他人に押し付けられる訳でも無く、

貴方自らがその方の力になりたいと

思う存在にね……」


クリス「そんな奴人間の中にいねぇよ……」


クリス「裏切られんのはもう嫌なんだよ

平然と装ってるが辛いんだよ……本当は」


「お前も見たろ人の醜悪さを……

俺は人間が嫌いだ……」


シルブァ「フフフ……嘘つき……」


「貴方は人が好きよ……」


「自分に嘘はつけ無いわ……

だからそんなに頑張れるの貴方は……

私はソレを貴方から教わった……

貴方のお陰で人を好きに慣れたから自分の

ベスト以上の力を出せたの……」


「だって貴方は真っ直ぐだもの……」


「貴方が貴方らしくあり続ければきっと巡り合う

私は貴方と……ふふ、出逢えたんだもの」


「これから先の事はドロア教授から聞いているわ

人が人であり続けられるか『試される時』が来ると

困難に直面した時、私達と違いあなた方人間には

恐怖や不安が直面するわ……その時を人で

あり続けようと足掻き続けた貴方なら、その魂は

きっと近い者と共鳴するわ、それは自然でそして

必然なのだと今は思う」


シルブァに苦しみは感じられ無い、痛みや恐怖と

いったものを何かしらの形で消し去られて

いるのだろう……だが話す言葉とは裏腹に、

その美しく白い耳や目までもが

徐々に出血してきていた。


時折、気道を血が塞ぎ言葉を詰まらせるシルブァに

どうしたらいいかクリスが動揺する、その姿を

必死に隠そうとする彼にまたシルブァが微笑んだ。


クリス「こんな所で……血や臓物だらけの

こんな場所で……頼む逝かないでくれ

頼むよ……」


思わず感情が溢れ、その言葉を口にした彼に

囁いた。


「ふふふ……私には勿体無い場所だ……わ」


クリス「何処がだよ……こんな異臭やゾンビの

千切れた体だらけのクソみてぇな……所で……よ」


シルブァは血だらけの手でクリスの顔に手を

当てると強く輝く目で彼を見た、


シルブァ「……貴方が居る」


その言葉に彼の感情や想いが溢れた、ボロボロと

恥ずかしげも無く抱き抱える彼女の胸に顔を

埋め彼は子供の様に泣いた……


少し困った顔をしたシルブァ……

子供をあやす母の様に彼を抱きしめ

再びクリスが顔を上げた時


彼女は


旅立った……


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