クリス18捕食
イルガ達も時を同じくして急ぎ送電線へと向かう
ラル達と同じく通路は狭く剥き出しになった通路を
駆けるのだった。
ゾンビの数は同じく30体程出たが、訓練された
彼等にその程度の数のゾンビは相手にもならない。
黒兵「Reroading!」
すかさずフォローに入るイルガ
イルガ「Fire in the hope!」
互いが意思疎通しリロードのタイミングを測り
誤差をなくす様に撃つ。
イルガが撃てば遅れて黒兵が撃つ
弾の無くなるタイミングを互いがずらす為だ。
同時撃ちの時は距離があっても足の速いゾンビを
中心に、リロードの際は声を掛け注意を促すと
片側は近くにいる敵を中心に範囲を扇状に撃ちつつ
引きつけつつ一歩下がってリロードする味方の
時間を稼ぐーー
爆弾の数を節約する為、タイミングを合わせる
(距離、ゾンビ同士の間隔、爆発の威力、
種類の使い分け)爆弾を投げゾンビに一定の距離
すら近づけささない程の華麗な連携を
繰り広げるのだった。
イルガ「到着だ、時間は残り9分か」
黒兵「配線準備に入ります」
手際良く作業に取り掛かる黒兵、幾つかの
剥き出しの配線を籠手型を使い不要と思われる
線を切り出し片側を結ぶ作業に入った。
イルガもまた籠手型から聴診器の様なモノを
引き出し床に吸盤状部分を貼り付けるのだった。
モニターを凝視する、一定の振動がまるで心電図の
モニターの様に映し出される。水の様な一定の
間隔で落ちる振動は均等の波、その他の振動も
動く物とは違う一定のリズムをグラフに表す
その数を色分けし新たに加わる音を感知し
敵の侵入を知る為のソナーの役目を果たす。
黒兵「しかし隊長、奴等の要求呑む
おつもりですか?
幾ら何でも隊長の首が飛びますよ」
イルガ「……だろうな」
「だが私は約束事は守るタイプでな、それが俺
のやり方でありポリシーだ。首が飛ぼうが
要求は呑むつもりだ」
黒兵「あんな奴等に恩を売っても特には
ならないと思いますけどね私は」
イルガ「損得で動く人間はやがて身を滅ぼすぞ」
黒兵「まぁ確かにそう言うイルガ隊長だからこそ
我々も安心してついて行けるのですがね……」
イルガ「こう言う仕事はミスが許され無い
カバーし合う連携こそが軍の強みだからな」
黒兵「肝に命じます」
イルガ「一つ聞く、お前はクリスの事をどう思う」
黒兵「クリス……ですか」
「……有能ですかね」
「だが情に流されやすい彼は軍向きでは無いと
思いますが、彼をスカウトするつもりですか?」
イルガ「そのつもりだ」
「感情は訓練でどうにでもなるだろう、
だがセンスはある一定の所迄は誰でも到達出来るが
それ以上はやはり才能がモノを言うからな
特に我々の部隊の様に人あらざる者を相手にする
場合、訓練という枠に慣れた兵よりも得体の
知れ無いモノへの臨機応変、判断の早さ、
そして動じ無い精神力が必要だからな」
「それに精神の基礎に流れる奴の人への感情は
軍の中でも指揮側の器だ、実力、カリスマ性
共にだ」
「どうだ?お前なら腕は立つだけの者と奴の様な
指揮官ではどちらに付く」
黒兵「……成る程、よくわかりました」
イルガ「そうだ、個の能力をかき集めただけの
チームに個々の能力以上は出せない、下がる事は
あってもな、だがその能力を最大限以上に
引き上げ、纏まったチームは更に限界を超える
どの仕事でも同じだがな我々の仕事は常に
その限界を超えていかねばならないからな」
イルガ「まぁ無事に此処から出れたらの話だがな
奴の発信信号が移動を繰り返している
あの状況下で生き残れる才能は失うには惜しい」
「準備は出来たか?」
黒兵「完了です、後は時間が来たら
繋げるだけです」
イルガ「そうか、なら銃を構えろ……」
「来たぞ」
黒兵は慌て銃を構える、配線を互いが背にし前後に
銃口を向けた。
『ピッ……ピッ』
イルガはその異音を黒兵にもわかる様にステレオに
切り換える。
『ピッ……ピッピピピ』
イルガ「来るぞ距離にして5メートル」
黒兵「まだ見えません!」
『ピーーーーー』
「……」
辺りは静かだった、だが視界にはソレらしき姿は
見えなかった……
黒兵「……上の階ですかね?」
イルガ「語るな!集中力が切れるぞ!」
黒兵「りょうか……」
「隊長!こちら側上に!はっ貼り付いてます!」
イルガはすかさず振り向き屋根部分にマシンガンを
放つも得体の知れ無い実験体は何無く其れを回避
地面へと落ちる様に避けた、
そしてその姿が禍々しい姿を露わにした……
黒兵「なっ……」
「何ですかコレ!」
その姿は巨大な蜥蜴の様だった、
体躯は3メートル弱、4本の足に滑る様な粘液を
体に纏い背中の部分に何か隆起するものがあった。
イルガ「撃て!」
声と同時に2人は一斉にマシンガンを放つ
弾は壁や床、天井部分にまるで線を描く様に
蜥蜴型を追うも素早い動きで走り回るソレを
捉える事が叶わず一定の距離で
再び両者の動きは止まり対峙する。
黒兵「隊長……数発は当たりましたが敵は無傷です
奴は何なんですか!」
イルガ「落ち着け、どんな姿をしようが生き物だ
倒せ無い道理は無い」
「蜥蜴型と言うわけか……それに教授が言ってた
大型ゾンビと同じか、皮膚の中に防弾仕様の
鉄板でも埋め込んでるのだろう、それにあの滑りだ
弾は直接めり込む事も出来ず滑り威力を殺して
いると言うわけか」
黒兵「隊長!奴の背中の突起物から何かが!」
蜥蜴型の実験体の背中からメキメキと不快な音を
立て人の顔が隆起したのだった。
粘膜に顔はベトつき女性であろう長い髪の半分は
抜け落ち、まるで断末魔の様な雄叫びと表情を
浮かべ、イルガ達に視線を向けた。
蜥蜴型『痛い……痛い……』
『わだじは……何故この様な姿なのだ……』
自らの手を挙げ凝視する蜥蜴型、首を傾げ
目を真ん中に寄せる、白い顔が一層目立つにだった
『外に出だい……出だ……い』
黒兵「話が出来るのか?」
「……コンタクト試みます」
イルガは銃を向け軽く頷いた。
黒兵「外に出たいのか?」
ゆっくりと凝視する様に声を掛けた黒兵を見る。
その目は充血し意識は混濁し歪んだ心を持つ目を
していた。
「そっ外に出してやるから大人しくしてるんだ」
イルガ「……」
その交渉中イルガは弱点を捜す、足なのか
隆起する顔なのか、それとも生物の弱点である
腹なのか……どうやって責める、武器種は
コレでいいのか、腰に携えた爆弾の位置も確認する
ドロアから無線が入る、耳に差込んだイヤホンで
会話を取るイルガ
ドロア「間に合わ無んだか……奴は蜥蜴部分の脳を
外しその神経の先を人間の頭に伝えるべく首部分に
融合させたものだ、此処に独立した部位自体は
皮膚で繋がって無いが、その神経の結合部分との
間に微弱な電流を増幅し伝える中継機がついておる
人間側の脳から発せられた漠然とした行動指令だけ
を聞くのだ。
簡単な指令に蜥蜴と人間双方の指令で
動くが故に蜥蜴の本能は一切衰えてい無い
イルガ「……人間の頭が指令で目的、それを
遂行する後の動きは蜥蜴そのものの本能が行う
と言う事ですね」
「確かに蜥蜴は尻尾を切り離しても独立して
動くが意思はない」
「驚く事では無い意思に関しては人間の脳も胴体で
切り離しても暫くは意思がある、これは実証
されておるはるか昔に既にな、後は部位単体で
生かす技術などそう難しくは無い」
ドロア「油断するな、故に相手は自然界のものだ
人間が自然界の生き物の中でも最弱部類じゃ
それが人間よりも大きい存在となり恐怖もない
蜥蜴だけなら少し脅せば逃げたり何とか
なったろうが人間の愚かな欲望に弱い脳が
その指令よりも強く憎悪や食欲を優先させておる」
蜥蜴型は辺りをキョロキョロと見渡し、ゆっくりと
散乱するゾンビの腕を丸呑みした。
一歩近づくと一歩下がるイルガ達
そう彼等は今捕食される側に他なら無い。
黒兵「……」
蜥蜴型『ま……ずい……』
黒兵「そっ……そうか不味いか、外に出たら
美味しい物が沢山溢れてるぞ、
連れていってやるから大人しく出来るか?」
蜥蜴型『お前だじ……が……私を!』
『キェーエエエエエエエエ!』
黒兵「来た!きっ来ました!」




