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クリス15決断


彼等は比較的ゾンビの少ないイルガ達とは違う

通路へと向かう……たて続けの戦闘に傷付いた

ボルドを守りながらの移動は彼等の体力を吸い

取るかのように、そして何とかドアの入り口に到着

ソレを閉める事に成功する。


ドアは隔壁タイプで頑丈な作りに数で勝るゾンビの

飼育場からの脱出には成功したと言えた。

更に奥へ奥へとボルドを抱え進み

比較的安全そうなで腰を下ろすのだった。


通路は破壊されたコンクリートが剥き出し状態で

床や壁から水道管が破裂し水浸しになっている状態

血が混じり多くの四肢列断されたゾンビの亡骸が

散乱する惨状は異臭に景観も最悪だった。


モス「鼻が曲がりそうだぜ……」

「てかボルド、お前かなり噛み付かれた様だが

お前もゾンビにならねぇだろうな?

いや元々ゾンビ?だったか」


ボルド「クラスターの私達は肉体内や免疫は強化

してある、それにウイルスに抗体が出来た者だけが

クラスターとして存在している、該当し無い者は

今まで見たゾンビ達だ、故に変異する事は無い」


モス「ソレを聞いて安心だ、お前の強さでゾンビに

なられた日には手のつけようがねぇからな、

使え無い腕縛って固定してやるよ、動き難いだろ」


クリスは辺りに散らばる亡骸を前に腰を落とし

怪訝そうな顔で観察していた。

クリス「……」

(この亡骸噛みついた後では無い……

銃痕でも無い、何か鋭利なもので切られた様だな)


籠手型のナビゲーションを起動し辺りの

地図を確認する。


クリス「……イルガの籠手型から出る信号が

北方面に向かって進んでいるな、此処を真っ直ぐ

行けば合流出来る筈だが」


モス「瓦礫で通れないな……ともかく武器の確認だ

俺はもう弾が3発しか無いぞ」


クリス「俺も少ない、残りのマガジンが3個だ、

ボルド、この先に何か使えそうな武器の保管場所は

無いのか?」


ボルド「瓦礫横、西の通路を進めばその先に……

い……いや何でも無い」


「東だ……」


「東へ行けば警備室がある筈だ、其処に行けば

多少武器がある筈だ」


クリス「……」


「東だな」


モス「遠いのか?」


ボルド「いや5分も歩けば……」


籠手型からドロアから連絡が入る。


ドロア「無事だったか、ようやく監視カメラが

起動してな、全てのものが作動してる

訳では無いが状況は把握しやすくなった」


クリス「イルガ達の様子はどうだ?」


ドロア「今の所、無事に武器保管庫へ着いて

武器の補充しておるな」


「いいかよく聞け、西に」


ボルド「お待ちください教授、東の進路へ彼等を

導いて下さい」


ドロア「お前は黙っておれ、腕が使えない様だな

ご苦労だった、道半ば倒れても直ぐに復活させて

やるからな、我が息子が1人よ」


モス「どう言うこった?復活って、命尽きても

復活出来るのか!其処まで科学が発展しているのか

すげーな!クラスターゾンビって言う位だから

不死身なのか!」


ドロア「……そう言う概念では無い、朽ちた肉体は

今の科学でも再生には限度がある、

クラスターゾンビとて不死身では無い」


モス「どう言う事だ?」


ドロア「今は講釈している場合では無い、いいか

先程言った試験体が今イルガの方面へと近づいて

おるのじゃ、其処は比較的安全じゃが、

リミッターの切れたゾンビ共がまだ数多く

活動しておる、その半分以上はお前達の活躍で

既に健が切れたり急速な運動により筋繊維や

血栓が詰まり倒れた、此方もソレを促す為に

手動で起動出来る空調管理室へ今イルガ達を

向かわせておる」


モス「空調管理してどうするんだ?」


ドロア「急速に温度を下げる事が出来ればゾンビの

多くは活動が鈍くなる、特にリミッターの外れた

ゾンビの過剰な筋繊維により多くの負担を掛け

一気に活動が出来なくする方向へ向かわせる」


モス「あぁ成る程、冷えた身体であんな動きしたら

健なんて切れるわな、準備運動なしで怪我する

アレか」


ドロア「急げ、何としても実験体を外に

出してはならんぞ!」


通信は切れると同時に一部稼働し始めた

空調設備によりクリス達がいる場所も

温度が下がり出した。


モス「お前達は此処で休んでろ、俺が東警備室に

行って武器を取ってくる」


クリス「あぁそうさせて貰う」

「念の為だほらっ」


マシンガンライフルを投げ渡すクリス

短銃をクリスの側に置いたのだった。


クリスは少しでも手首の炎症を抑える為に布を外し

比較的冷たい場所で露出した鉄部分に

手首を当て休ませた。


「お前も右手パンク寸前だろ、切り傷が無いのなら

濡れた地面に腕を浸して冷やし休めとけよ、

武器を持ち帰ったら直ぐに出発だ」


声をかけモスは東通路を一気に駆けて行くのだった


ボルド「クリス……いいか、西には行くな」


クリス「……さっきも西で言葉を濁らせたな

何がある?」


ボルド「西には核燃料棒を使った兵器と対放射能

耐性を持つ作業用パワーアーマーがある

だが危険すぎる、お前も汚染の危険は

理解出来る筈だ」


そう言うと傷付いた体を起こしクリスの両肩に

手を置き懸命に訴える様に話す、

身体中の血管が切れ動く度に血が吹き出る

彼の体をクリスは見た。


ボルド「……お前達を殺させたくない」


シッカリとした目でクリスを見るボルド


「私は2度目の生を貰い、この命、教授に捧げると

誓った、だから私の事はもういい、むしろ本懐だ

それに今の私では足手纏いになるだけだ、

此処に置いて行け、お前達は逃げるんだ」


クリス「……」


ボルド「頷くんだ!私を置いて行くと!

……頼む」


クリス「お断りだ、助けられる可能性のある戦友

を置いて行く気は無い」


ボルド「友?……」


「私が、貴方の……?」


「友と……私を友と呼んでくれるのか」


「こんな人生を終え今は人間でも無い私の事を」


彼の胸は一杯だった、再び生を与えられた彼の

施設内にそう言った関係性やコミュニケーションは

無い、彼は使命を与えられた存在、そして実験体

そして……星を救う者


そして……破滅させる者


「なら尚更だ!友として願う!これは……

そう……私の唯一の友としての願いなんだ」


「教授に逆らう行動をするのは初めてだ、

初めてなんだ、だが……だが私は、お前達2人には

生きて生を謳歌して欲しい」


クリス「……」


「良いか教授の頭には人間に対する復讐心が

何処かにある、星を救う為に、お前達の命を

利用しようとしている」


「暴走化したゾンビには手立てはあるが実験体の

多くはまだこの施設の整備では止める手立ては

無いんだ、私も含め、知的生命とみなされるまでは

身体を神経ガスに浸され指を動かす事も出来ず

暗い巨大な試験管の中で何年もかけて人の様に

知的生命体としての活動が出来るかを

調べられるのだ……」


「其処から放たれたモノはいくら施設の隔壁を

閉じても下水道や配管を伝いやがて外へ出るだろう

我等クラスターは感染源として、そして強化は

されているが奴等は人や動物を殺傷するのみこそ

作られたと言っていい、その戦闘能力はクラスター

の比では無いのだ」


「無事に此処から出て外の軍隊に支援を

要請するんだ、この人数で太刀打ちできる

モノでは無いのだ」


「現実を言おう活動出来る私達クラスターゾンビが

纏めて相手しても勝てるかどうか解ら無いんだ」


クリス「……」


「それに核は人が使うものでは無い、その汚染は

守べきこの星すら破壊しかねない、人や生物が持つ

神への贈り物、形成する遺伝子を歪めるモノなど

あってはならないモノなんだ」


「私もお前達と会うまでは新人類の形成に疑問すら

持たなかった……だが何なのか

私は……私の心がお前達を生かしたいのだ」


「頼む……私の最後の願いだ、私の生きた人生は

2度あっても短い、思い出など辛い過去しか無い

その中で、お前達が私に与えてくれた恩に

報いたいのだ」


「それが私の小さな……短い人生の……お前達と

比べるには余りにも小さくてすまないが……

願いなんだ」


クリスの目には体躯の大きいボルドが

体を縮こませ小さく震える子供に見えた。


クリス「……了解だ、だが此方の意見も

聞いて貰うぞ?」


ボルド「解ってくれたのか!そうか……」

彼の目には涙が流れていた、興奮状態なのか鼻水を

垂らし無様にも見える彼の優しさにクリスの心は

逆に怒りに満ちた。


何に対してか、ドロアに対してか、迫りくる

無秩序なゾンビにか、ボルドを生贄に捧げた

ラルやロフエルに対してか、答えは解らなかった

だが彼の心は怒りに満ちた。


クリス「俺の要求は一つだ、お前を連れて行く」


ボルド「!」


「何故だ?何故お前は自ら苦境に進む!俺が居たら

足手纏いだ!俺はソレを望んではいない!」


クリス「お前が望んでいようがいまいが俺には

関係無いな、俺は俺のやりたい様にさせて貰う

俺は我が儘なんでな、お前の意見は聞いてやる、

が俺のしたい事をお前に否定される道理は」


「無い」


ボルドの目に強く激しくそして澄み切ったクリスの

揺るが無い輝く目に恐怖を感じた。


が……その恐怖の中に人生の中で初めて安らぎも

覚えたのだった。


「私の中には、クラスター皆の身体には

反乱を防ぐ為に爆弾が仕掛けてある、

ソレでもお前は……私を」


クリスは微動だにせずボルドの瞳を見続けた。


「……愚問だった」


クリス「お前と一緒に行動してる限り俺を利用

しようとしているドロアが、お前を爆破する事は

無ぇ、そして俺はまんまとお前のファーザーの

希望を叶えてやる事になるだろ?

そのクエストクリアすれば丸く収まるじゃねぇか」


「何も最初からやる事は変わらねぇさ、

熱くなんなよ、クールに行こうぜ」


その時、突然側面の壁が崩れ大型の

リミッターゾンビ一体が姿を現した。


クリス「!」

咄嗟に銃を拾うが念の為モスに渡したマシンガンで

其処にあるのは弾が3発しか無い短銃のみであった


即座に銃を構えリミッターゾンビの額に向け

立て続けに3発を撃ち尽くす、正確無比な弾は

一点にめり込むかの様にゾンビの額を捉えた。


だがボルドがすかさずリミッターゾンビに

身体事ぶつかり動きを止める。


額を撃ち抜かれ動か無い筈のリミッターゾンビが

ボルドの動きに呼応するかの様に動き出した。


クリス「!」


ボルド「実験体の中でも大型は急所が狙い易い為

身体の急所部分には防護金属を埋め込んであります

短銃如きで貫く事は出来ません……」


クリスは銃を捨てコンバットナイフを両手に持ち

すかさずボルドが抑え込んでいる脇をすり抜ける

様にリミッターゾンビの腹を切り裂いた、

内臓である腸が垂れ下がるも痛みの無いゾンビの

動きは変わら無いが脇を裂かれ筋力はかなり低下


が動きは止まる事は無い、片腕で巨軀を支える

ボルドの顔が苦痛に歪む。


痛みの無い彼が苦痛に歪む顔をする事は非現実的

だった、モニター越しにソレを見るドロアにも

不可解な現象を目の当たりにして困惑していた。


彼の苦痛の顔の原因はただ一つ

守れ無いかもしれ無いクリスの身を案じた心の

痛みだった……肉体の苦痛が全てでは無い

心の苦痛を初めて感じたボルド


ボルドは動く右手でゾンビの頭を鷲掴みにすると

側面の壁へと勢い良くぶつけた、手が離れた

ボルドは直ぐ様クリスの胸倉を掴むと後方へと

突き飛ばすのだった。


そのパワーに滑り込む様に地面へと這いつくばる

クリスは顔を挙げ叫んだ。


クリス「イッテェ!何しやがる!

テメェ1人でどうする気だ!」


ボルドは振り向きクリスを見て


笑った……


ボルド「私は……」


「いや」


「俺は……」


「俺のやりたい様にやらせて貰う!」


先程クリスが言った言葉と同じ事を皮肉を混じり

ながら言い放つとボルドは笑った……


そして哀しげに染まった背中をクリスに見せ、

彼の最後の力を振り絞り、唯一使える右手の

最後の一撃で剥き出しになった側面の壁に

剛拳を穿つ、襲撃は波となりクリスまで届く

凄まじいモノだった。


けたたましい音を立て粉ぼこりが辺りに舞う中

次々と崩れ落ちる壁や側面のコンクリートが

視界を防ぐ。


ボルド「さらばだ……友よ」


「私は笑って逝ける……」


土石が雨の様に降る中その声はクリスには

届かなかった、だがその心の声は彼の行動が

クリスの心にしっかりと気持ちを伝えたのだった。


ナイフを持つ両腕を交差させ、その視界の先を

見ようとするが進む事も出来ずただ道が塞がれる

のを待つしか無かった……


クリス「……」


「……」


「ふっ……」


「ふざけんじゃねーぞ!ボルド!」

「お前その一撃……」

「……」


「ゾンビに使えよ……」

うな垂れ腰を落とす様に下を向き呟いた。


「手はまだあったんだ……」


「……あったんだよ!」


叫ぶ声が廊下に木霊する。


(俺はまた友を守れなかった……)


クリスの視界から色が消え始める……

やがて色が戻り始めた時にはモスに支えられ

ボルドの居た場所から既に遠く離れていた。


クリス「……」


「……ボルドはどうなった?」


モス「……」


会話は無く廊下を進み静かな中に彼等の

靴音だけが響き渡った……


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