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旅立ち


宴は深夜まで行われた

数少ない保管してある酒を惜しみ無く振る舞う


生きる喜びに浸る者

安堵から泣き出す者

中にはあわよくば、相葉の環境を望んだ者もいた

事は確かだが酒がひと時の連帯感をもたらした

それは『明日も生きられる事』

当たり前の環境が激変し一歩間違えばすぐ隣に

自分の命が脅かされる環境に戸惑いながらも

適応しようと足掻く者達……


御堂さんや奥さん以外にも相葉の奥さん

や照子さん達の取り計らいによりコミュニティーを

出るのは翌日の昼からとなった。


朝になりハク達は出発の準備に取り掛かっていた。


あの夜、宴の後、相葉の指示通り会合が行われ

相葉と御堂さんの話に、にわかには信じられない

集会所の人達ではあったが、中にはそれを信じ

ハク達に罵倒や物を投げる者もいた。


御堂さんも此処からは手出しはしなかった。

彼は此処から皆を率いて行く立場にある、無闇に

ハクたちの側にいる事は無くなった。

ひたすらに下を向き拳を握る姿が痛ましかった。


そして……


クリスは姿を集会所から消した……

健はクリスを探し周るも姿が見えない

突然の別れに戸惑いハクの下へと急ぐ、


健「クリスさんが居ない!ねぇ!ハクさん

何処にいるのか知ってるの?ねぇ!ねぇ」


彼はどうしてもクリスに礼が言いたいようだった

彼にとってクリスは信用できる大人であり友人

だからだろう……」


「……何で?ねぇ!知らないの?

友達じゃないの?」


ハク「ん?」


「んー友達かどうかは彼が決める事だから、

僕は親友だと思ってるけど、想いは片側だけでは

成り立たないからね」


健「……ハクさん冷たいね」


ハク「ニャハハ、共に居る事が仲間って訳では

ないよ?離れてても仲間は仲間、彼が危険になり

僕を必要としてくれた時は僕は何処でも駆けつける

彼もそうじゃないかな」


「僕は仲間と言う存在をそう思ってる」


健「複雑だね……」


ハク「単純だよ?すべての根本は全て単純、

健の中の複雑になった気持ちは自分で複雑に

してるだけだと思うけどなぁ」


健「……よくわかんない」


困惑する健に頭を傾げながら言った。

ハク「友達が困ってる」


「どう思った?」


健「……助けてあげたい」


ハク「はい終わり」


唐突な答えにどう考えていいのか困惑する健、


ハク「じゃあ……その友達がさ、お前の助け何て

いらねぇ!って言ったら?」


健「……助けてはいけない理由とか、余計なお世話

なのかな?とか色々悩む」


ハク「それが人が複雑にしてる事だよ」

「まず最初に思った気持ちが心の本心で後に

考えたのは架空の自分が生み出した複雑な想像力

て言うのかな?邪魔じゃない?その内、助けるって

事さえ見えなくなって目的を見失しなうよ」


健「そうか……そうだよね」

「でもでもそれが本当に余計なお世話だったとして

状況が悪化する事態を招いたら?」


ハク「ふふふ……先ず目的を見失わず助けたいと

思ったら其処から考えを派生させるんだよ」

「目的を外れて考える事は結果成り行きで助けると

言う最終目標に到達できる可能性は低い」


「……難しいかな、迷路想像してみて

出口から辿った方が答えはでやすいでしょ」


「要は其処からさっきの戦い方みたいに

どうするかを考えるんだ、そして視点を変え考える

最善の策を、目的が決まってる以上ブレないから」


「どうしたら助けられるのか」


「助けるにはどうしたら」


「意味は同じでも、この2つの言葉の意味の

違いがわかれば迷わないさ」


健「……二つの違い」

「うん何と無く聞いててわかった」


ハクはニコリと笑った。


ハク「それにね……誠もいないでしょ?

クリスは帰ってくるよきっと」




□□クリス□□


クリス「……」

お礼に集会所の人達に隠れて貰った

ドラグノフライフルの弾に拳銃の弾、7、62㎜と

大きな荷物を抱えて彼は歩いていた。


吹き荒ぶ風が頬を冷たくする

「……」


見上げた空は青かった……今まで空なんて見ても

何とも思わなかった、ただ青く雲が流れて風が吹き

当たり前のように見る度に姿を変えてゆく雲の

行末なんて気にも止めなかったし視界に入っても

それを記憶に留める事など一度も無かった。


彼等と会うまでは……


町外れにいた彼の目にゾンビ一体が映る、目的等

無く、ただひたすらに彷徨うゾンビ……

「俺もアイツと変わらないよな……」


健に貰ったおにぎりを頬張り再び空を見た。

「元々1人か……この後どうすっかな」


「あの戦い俺が居なくても問題無かったな

ハクと誠だけで事足りたな」


銃を取り出し廃墟の壊れた土塀に腰掛け、

弾を込めながら溜息をつく……


風だけが聞こえそうな空虚に思わず俯く

クリスの背後から声が……


?「んな事無いと思うぜ」

クリス「……」


「何となく、お前が居る気がした……誠だろ」


誠「よっこらしょ」

「俺もおにぎりくれよ」


クリスは健に貰ったおにぎりを放り投げた

誠はそれをキャッチ、誠は照子さんから渡された

温かいお茶の入ったペットボトルを

クリスに投げた。


暫し無言の空気が流れる。


クリス「温かいな、ん……美味いな」


クリスが座る壊れた土塀の

上部の瓦礫に誠は腰をゆっくりと落とした。


クリス「……俺は戻らねぇよ」


誠「……そうか」


クリス「俺は、お前らと仲間になれる

資格はねぇからな」


誠「……」


「仲間に資格なんかいるのか?」


クリス「俺個人の決断だ、ほっといてもらおうか」


誠「そうか……じゃこれ選別だ」


そう言うと誠はクリスの頬を思いっきり殴った。


地面に叩きつけられるもクリスは口から出る血を

冷静に拭い再び腰を下ろし

誠の方を見る事も無かった。


クリス「……ぺッ、のらねぇよ俺は去る、そして

お前らは元通りだ、何が不服だ」


誠「不服?んな事はしらねぇよ、約束通り俺と

タイマン張れや」


クリス「のらねぇって言ってんだろが」


誠「お前はあーだこーだ言いながら結局逃げてる

だけじゃねぇか約束も守れねぇただの

中途半端者なんだよ!」


クリス「あ?中途半端だ?約束?ケッ約束って

部分なら守ってやるよ、此処でお前ぶちのめして

綺麗に去ってやる」


誠「おー言うねぇ立てや」


こうして喧嘩が始まった。


クリス「ハァハァ……」

(コイツやっぱり強い……)


誠「ハァハァ……」

(コイツやっぱり強い……が)

『足りねぇ……』


誠「よう?面白いか?つまんねぇだろ?」


クリス「……どう言う意味だ」


誠「お前は俺には勝てねぇてこった」


クリス「あ?俺がお前に勝てない?俺は戦場で

生き残った、お前達あまちゃんに負ける道理は」


誠「あるさ」


クリス「……」


誠「それにな今の世の中じゃ戦場なんてみんな

経験してるようなもんだ、だが、そんなのは

問題じゃねぇんだ」


「お前は強い……力は俺と同等か、それ以上だろう

……だがな、お前は俺には決して勝てない」


「お前が勝てない理由はこの喧嘩がつまらなく

感じてるからだ」


クリスは意味は解らずいたが誠の言うこの喧嘩が

つまらないという真実は確かだった。


誠「お前、熊と戦ってる時と今の違いわかるか?」


クリス「……決意か」


誠「正解、が、まだだ」

「まだ足りねぇ」


「足りねぇ理由体で教えてやるぜ」


そういうと誠は髪をかき上げ腰まであろうかと

思う鉢巻を頭に括り付けた。


全身に気合を入れる誠、刺されようが撃たれようが

引く事が一切感じられない彼らしい一途な姿勢に

気負わされるクリスだった。


誠「……わかるか?」


クリス「……」

(何だ?コイツの威圧感は……)


全身にオーラを纏いゆっくりと歩を進めクリスに

近づく誠


あまりの気迫にクリスは後退りする。


誠「どうだ……お前に俺を倒せる気持ちが

今あるか?」


クリス(なんだ!確かに勝てる気がしねぇ……

熊の時もそうだった、コイツから異様に放たれる

気に気負わされた)


誠「お前もあの戦いの最中、俺と同じ威圧感が

あった」


「言っとくがな、俺は今、決してお前に負けねぇ

倒されても倒されても何度でも立ち上がる

俺の言ってる事が真実だって事位お前なら……

わかるよな」


確かに彼は立つだろう何度倒されても俺の前に

立ちはだかり最後は俺はコイツに負けるだろう

そう確信できたクリスだった。


クリス「……」


誠「お前は!理屈っぽいんだよ!

お前の本心はどうだ!俺達と一緒にいてぇんだろ!

仲間だ?んな薄っぺらい言葉で俺達を片付けんな!

俺はな!お前と一緒にいてぇ、それはな、

お前もそう思ってるからだ!」


「だから」


「俺は……」


「……」


『負けないんだ』


彼に心を見透かされたクリスは拳を下に下ろした

「ははっ……勝てねぇ訳だ」


誠「仲間になんのに許可が必要か?クリス……

一緒にいてぇ……それが自然とつるむ

事になんだろ?」


「お前の過去に何があったかしらねぇ、ハクとの

間に何があったかもだ」


「俺は今のお前だから一緒に笑いてぇと思った」


「どうだ?あ?俺に勝てるかは、お前次第だ」


振り絞る様な声で誠に呟くクリス


クリス「……俺が」


「俺なんかが……」


「いっ……一緒に居てもいいのか?」


誠「相変わらず面倒臭え奴だな、いたきゃいれば

いーのさ!そういうもんだろ、言葉じゃねーわ

お前の心に聞いてんだ俺は」


「それにどうだ?資格だゴチャゴチャいってるが

お前の目に映る俺やハクはお前を邪魔者や一緒に

居たくねぇと見えてんのか!

逆だろ!お前がその思いに同じ事思いながらも

ケチつけてんだよ!

想いはな……互いが想って初めて成り立つん

だろうが!」


「お前の本心聞かせてくれや……

勘違いだったらすまねぇ俺が謝る」


クリス「……」


「一緒に……」


「……」


「なっ……」


「あぁオマエの言う通り仲間になりてぇよ!」

「あぁ本心で言うさ!俺はな、お前達といて

楽しかったさ!」


「誠!お前とのタイマンもあんなに楽しかった

喧嘩はした事がねぇ!

いつも恨みや悲しみ、嫌悪感しか生まない

殴り合いに、そんなもんカスだと思う位に!」


『……楽しかった』

「仲間に……仲間になりてぇと

なりてぇって!あぁ、本心から思ったさ!」

(今わかったよ……お前に勝てない理由が、心から

戦ってなかったからだな、そうだろ?誠)


「これで満足か!」

大声で腹の奥から出た言葉は辺りに響き渡る様な

心の叫びだった。


クリス「ハァハァ……」


クリスは誠を恐る恐る見た

其処には……


顔を真っ赤にした誠がボーと立っていた。

誠「お前は何つー恥ずかしい事を叫んでんだ」


意外な展開に顔を誠以上に真っ赤にした顔のクリス


クリス「ちょ!お前が……お前が

言えっつーたんだろが!」


からかい上手な誠にクリスも赤面しながら

アタフタする。


誠「ハクに言っちゃおーと」

クリス「……殺す」


誠「はははっ!じゃ戻るぜクリス」

クリス「……」


クリス「お前後で必ずタイマンな」


誠「あぁ必ずだぞ……

これからもタイマンしような」


クリス「……あぁ」


今日も空が青かった、先程見上げた青空と何も

変わらない筈の青空ではあったがクリスが再び

見上げた青空は先程までの青空よりずっと

地平線まで届きそうな位、広く、その目に映った。


ーー集会所ーー


ハク「照子さん有難う御座います、

大変お世話になりました」


照子「私こそお世話になりっぱなしで、貴方が

言ってくれた言葉や行動のお陰でこの先もこの

コミュニティは以前よりいい雰囲気にもなったよ」


誠「そりゃ良かったな!俺達も照子さん達に

会えて良かったと思ってるぜ!」


クリス「私も感謝しています……心から」


照子「それに何より私みたいな老婆でも戦えるって

自信が湧いたさ、こんな事、今まで想像も

しなかったよ」


クリス「て……照子さんの一番の武器は優しさ

じゃないですか」


恥ずかしそうにボソッと呟くクリスに肩を置き

照子は言った。


「アンタもだよ……アンタが必死だったから私も

気持ちに応えてあげたくなったんだから」


誠「必死だったかそうかそうか!」

ニタニタしてクリスを見る誠に肘打ちをかます


誠「オエッ……不意打ち……反則」


こうして照子さんに健、沖高先生や相葉の言葉を

信じなかった集会所の皆に見送られながら

コミュニティを後に旅立つ彼等だった。

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