新たな生存者
夜が明け、窓からそっと辺りを見渡す美優。
美優「……何……これ」
彼女が見た光景は 驚愕するものだった、昨日ま
で少なかったゾンビが大量に発生していたのだっ
た、おぞましい声にならない恐怖が歩くその様は
彼女にとって初めて見る現代には無い地獄絵図で
あった。
鈴「どうしたの?みーちゃん」
駆け寄る鈴を抱きしめ窓を見せない様に振舞う。
ハク「……見せた方が良いよ」
美優「何でよ!あんなモノ見せたら怖がるじゃな
い!」
ハク「初めてでも無いし、怖いって感覚はとても
大事だと思うよ、平和な時代ならまだしも、今は
命に関わる事だから」「怖いモノを知ってそれに
対処する事を、考える事を放棄したら先は無いよ、
本当に妹が大事なら見せた上で共に乗り越えるべ
きだと思うけどね」
美優は睨みながらも現実にハクは正しい事を言っ
ているのは理解した、甘やかせは美優には自己満
足、鈴には命に関わる事である事を……
ハク「初めての大群に足がすくむ前に慣れておいた
方がいい」
美優「……もういい」
顔を赤らめて怒りを露わにする彼女。
気まずい雰囲気を気付いてないのか、理解してい
ないのか……鈴と楽しそうにゲームをするハクの
姿に、また怒りが込み上げる美優だった。
ようやく雨も上がり、虹がかかる、
美優「虹何て平和な時にはあまり意識して
なかったな……」
怒りを忘れしばし自然の美しさに見惚れる。
そして下を見るとゾンビの群れ……
「もー嫌!何なのコレ!意味わかんない!」
ハク「吐き出す事も重要、怒りたまえ」
美優が思わずハクの頬に渾身のビンタを食らわせ
る。
ハク「にゃはは、でも痛い……」
自分のした行動に思わず驚く美優「あ……」
思わず口に手をやり謝ろうとするが、素直になれ
ない美優だった。
ハク「スッキリした所で出発だ!」
ハクは何も気にして無い様で……
美優「やっぱり何かムカつく」
内心は少しスッキリした美優だった。
今日の拠点からほど近い薬局を回る。
ハク「風邪薬とか頭痛薬、後、痛み止めとか有れ
ば良いんだけど、必要なモノがあったら回収しと
いて、特に鈴ちゃんに必要と思われる物を中心に」
美優「駄目、荒らされてて何も無い……」
ハク「そうだね……あるのは処方薬のみか、一応
回収しておこう、薬は貴重なものだし本屋に何か
薬辞典でも有ればいいけど」
一旦外に出て本屋に向かう、しかし本屋は無く、
途方に暮れる2人だった。
「医療関係者と出会うかも知れないし、一応持っ
てくよ、後、コミュニティとか有れば何かと交換
できるかも知れないし、重さも軽いし」
美優「コミュニティて?」
中には人間だけで集まって暮らしてる人もいるん
だよ、公民館の人達の様に、人は1人では生き辛い
世の中だからね」
「シッ隠れて!」
ハクが小声で美優の頭を下げた。
美優もその行動を察し、静かに体を小さくしたの
だった。
「ヌオォォ……」
低い呻き声、そうゾンビだ。
美優「良くわかったわね……」
ハク「影だよ、今は夕方、日は西に沈む、察知を
早くする事はとても大事だから、覚えておくと良
いよ、こういう外から丸見えな所は特に、向こう
にとっても気付きやすいから」
美優そう言えばアンタ、探すときも表示を見てる
時も外が見える場所にわざわざ行って見てたのは
その為ね」
その時、突然外から銃声が鳴り響いた。
「パンパン!パパパン!」
美優「な、何!今の音、じ……モゴモゴ」
美優の口に優しく手を被せ更に身を低く取らせ、
視界の良い場所へと隠れながら移動、慎重に外に
出て音のする方へ回り込む2人、細い路地を抜け、
一体のゾンビはハクがビリボ君で足を折る。
ハク「足取られない様に気をつけて」
直接銃の発砲音の鳴った場所ではなく、音のする
方が見渡せる場所の近辺の家の2階から様子を伺う
2人。
美優「2人襲われてる!男の人と女の人!」
ゾンビも12体いるわ!どうしよう……」
ハク「銃声を聞いてゾンビが集まってきたんだね、
年は僕位か……もう1人は少し上って所か」
観察するハクに美優が問う、
美優「助けないの?」
ハク「鈴ちゃんの事もある、しばらく様子を見る、
もし危険人物だった場合取り返しがつかないから、
それに向こうは銃も所持してるからね」
美優「……人は良さそうな感じだけど」
ハク「人間は信用出来ないからね……」
銃を持った青年の弾はゾンビ3体を撃つも痛みの無
いゾンビには後退りさせる事位しか効果は無い。
やがて弾は切れ虚しく撃鉄の音だけが聞こえてき
た。
ハク「……ここに居て、何かあっても出て来ない
でまっすぐ鈴ちゃんの所に戻って、地図渡しとく、
車の運転も教えた通り、今までの教えた事生かし
て先に進まず必ず公民館に戻る事、いいね?」
美優「わかった早く行ってあげて!」
その言葉を言い終わる前に窓から飛び出し、家の
壁をひと蹴りしたと思えば猫の様に身を丸めなが
ら地面へと着地、同時に身を低く構え素早く移動
するハク。
怯えながらも後に女性を庇い弾の出ない銃に顔は
真っ青な青年、オロオロするばかりで銃をブンブ
ン振りゾンビを威嚇するもそんな脅し微塵も役に
は立たない。
青年「駄目だもう……」
女性「しっかりしてよ!銃が駄目なら!」
原付のエンジン音が彼等の耳に入った瞬間、ハク
がゾンビの固まった所で停まった。
美優「え、そのまま突っ込んでくんじゃないの!?
えー!しかもバイク細い!もっと大きいのあった
じゃない!」
2人もハクを見て、その様に思ったのだろう、いき
なり来てゾンビの横で普通に降りるハクにしばし
呆然とする。
アクセルを吹かし威嚇するハクに群れが襲い来る。
女性「危ない!」
ハク「名付けて……原付ハンマー」
ハクは原付のアクセルを回し軽く前輪を浮かせ原
付を少し横倒し状態にし軽いウィリー状態を維持
し前輪を浮かし回転するよにゾンビをなぎ倒す、
雨上がりもあり路面が濡れて滑りやすい状態での
攻撃にうって出たのだ。
【原付乗った人なら解るだろうが足を地面に、そ
してアクセルを吹かすとバイクだけが先行する、
おっとっとなった事があるような感じだ、面白動
画でテレビでも見た事ある人も多いと思うが、そ
れである】
単体を相手であろうが多人数であろうが武器と同
じ、直線の破壊力しか生まない攻撃は危険極まり
ない、ハクはエンジン付きハンマーを手に入れた
かのような動きでゾンビ一体にぶち当てると回転
する後輪がゾンビの服を引き千切りなが大きく弾
け飛んで行ったのだった。
だが、動いているバイクを手足の様に上手く操作
は出来ないもの、確実に一体一体当てる事で、バ
イクの勢いは殺され再びフカす所から同じ事を繰
り返す、1、2度転けるものの起き上がっては倒し
転げたゾンビにも追撃が出来るこの方法でゾンビ
を撃退した。
残り一体、ハクはゾンビめがけ最後にアクセルを
全開、己も回転し勢いの増した原付を一気に手放
すとゾンビに向け飛び出した原付と共にゾンビは
吹っ飛んでいった。
ハク「フッ……名付けて原付大砲」
美優「……ださっ」
ハク「……ふーん」
女性「あ、ありがとうございます!」
青年「助かりました!」
ハク「お礼は其処のツンさんにどうぞ……」
美優「……ふーん」
ハク「銃も弾切れなのは知っていますが銃……こ
ちらに渡して貰っていいですか?初対面なので、
念の為」
青年「あ……あぁそうだね、渡すよ」
中身を確かめ、予備弾が無いか、危険な物は持ち
合わせて無いかを調べる。
女性は美優に任せチェックした後、鈴の元へ美優
を帰し、ハクは違う家で彼等と対談する、信用が
おけるまで、鈴に会わせる訳にはいかなかった。
女性であっても、信用は出来ない、この時代生き
残る為に、平和な時代にはお金、無秩序な時代で
は力に惹かれるものも少なくは無い誰かの指令で
ある事も含めだ。
残念ながら、世界でも日本でもこう言った歴史は
繰り返される、それは隠された事実とは違う人の
歴史でもある、ハクは用心深い、それは誰に対し
てもだ、老人、男性、女性、子供、問わず、それ
は人間だからだ。
子供の安全が何よりも優先すべき事だった。
【今日のポイント】
使える物は使え、第2弾、それを生かし切る
物の使い方次第で何にでも化ける。
ハクは何故、車を使わなかったか
車で引いた場合、ゾンビがフロントガラスに
当たり割れるリスク、引いた後の横転の
可能性、下に詰まり車が動かなくなる
可能性、そして、全体を一気に始末できない
さらに車が無事であったとしても何回
Uターンしなければならないか、
その間に2人は襲われていただろう。
あらゆる事にマイナスしかないからだ。




