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蔵とミイラ

作者: えりんぎ



"連続殺人の容疑者が逃亡しております"


姉とテレビを見ていたら、そんなニュースが流れてきた。

「うわっ!これうちの家の近くじゃん!」

「えぇ〜…怖いねぇ…」

近くに殺人鬼がいるなんて、恐ろし過ぎる。

そう思いながらニュースをぼうっと眺めていた。

すると、バタバタと音を立てながら母が部屋に入ってきた。何事かと私と姉は母を見る。

「ねぇあなた達、近所の人たちの話聞いた?」

母は顔を強張らせている。

「何?殺人鬼の話?」

「違うわよぉ!最近ね、近所のおばあちゃん達が"気味の悪いものを見た"って言って体調を崩して入院しているらしいの。何人もよ?どうしちゃったのかしらねぇ」


私はニュースを見ている時も母の話を聞いている時も、家の隣にある二階建てで江戸時代に造られたような白塗りの立派な蔵のことが気になっていた。

あの蔵から嫌な雰囲気が漂っているのだ。

ニュースをきいた時、私はあの蔵に殺人鬼がいるとなんとなく思ったし、母の話を聞いて"気味の悪いもの"は蔵にいる殺人鬼のことだとほぼ確信していた。

でも、確認してみないことにはわからない。

私は蔵へ向かった。


木でできた両開きの扉を開ける。

中は扉から差し込む光しか照らすものは無く、暗くて

埃っぽい。普段はひんやりとした空気だが、その時は違った。

乗り物に酔ったときのような息苦しさと

気持ちの悪い温度、ゆらゆらした生温い空気が二階から漂ってきたのだ。

二階に何かいる。

明らかだった。


二階の入り口は人が一人入れるくらいの正方形の穴が空いており、そこに梯子がかかっていて、それを上るしか二階へ行く方法はない。

梯子を上る。

嫌な空気が近づいてくる。

私は入り口から顔だけを出して、目だけを動かし、

二階の部屋を見渡す。

もう使わなくなった机や箪笥、古い雑貨類が置いてある。

おかしい所は何もない。

ならば、この雰囲気は何?この空気の異質感は何だ?

私はもう一度、じっと見渡す。

すると、一点が揺れた気がした。

箪笥の上の奥にある丸いものである。

何だろう?ボール?あんなものあったっけ?

私の目はその一点をじぃっと見た。

次の瞬間、丸いものはくるっと回転し、こっちを見た。

目が合ったのだ。黄緑色に光る目と。

丸いものは人の頭部だった。殺人鬼の頭部である。

私は体が固まり、汗がどっと噴き出した。

姉を、誰かを、呼ばなくちゃ。

私は目を殺人鬼の頭部から外さずに、梯子にかかっている足の片方を徐々に下ろしていった。

足が1つ下の段にかかったと同時に、

殺人鬼が箪笥の奥から、四つん這いでずるりと這い出て、此方へ向かってきた。

殺人鬼はミイラのように干からびており、引き攣った僅かな肉を骨に付けて、服とも言えないボロ切れを纏っていた。

目には瞼などなく、窪みに黄緑色の光がぼうっとあり、此方を見ている。本当に人なのかと思った。

逃げないと。早く。この化け物から。

そう思った私の身体は弾かれたように、忙しなく動き出す。

梯子を下りて、一階の床に足をついた瞬間、

頭上の正方形の二階の入り口、その暗闇の中から、

黄緑色の目をした殺人鬼が私の方へ、

落ちてきた。

目の前は何がなんだかわからない黒で覆い尽くされる。


そんな夢を見た。



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