そして権利が舞い降りる。(中編)
今回のコースは1だった。
このコースはまず右折して外周を一周走る。
そしていきなりそこで40km出さなければならない。
右ウィンカーを点灯させた律はそのまま右に寄せて右折する。
そこから一気に加速。
ガシャコォォン ヴァン ヴァァァァオオオ ガシャコン ヴァァァァァアアア
カーブを超えた先で二速、そして三速へ。
(ちょっと待て……赤タンクより、ずっとはやい!!)
NC31が「ヨヨ…じゃなかった、CBXカラーの新人てめぇぇぇぇ」と叫びそうなほどNC54は速く、律の心をワクワクさせる。
ヴァンヴァン
やかましいほどの排気音は「これが教習車なのか!?」と律を驚かせるほどであり、ストレートで40km出した律はポンピングブレーキで減速しながらカーブへと進入していく。
そのままほぼ一周する形で発着点近くの丁字路を通過。
最初の課題は坂道発進である。
そのまま2回目のカーブを通りすぎて直線に入る。
そのまま進んで坂道近くでウィンカーを点灯。
その時であった。
プフッ。
案の定ホーンを自爆した。
(うは……こんなの意識したって無理だよ!)
減点を覚悟の律は気にせずそのまま右に寄せて坂道発進のスタート地点へ右折して進入。
その際、左ウィンカーを出すことも忘れない。
今度は自爆しなかった。
スタート地点にて一時停止した律は、後方確認後、右ウィンカーを出し、そのままいつも通り発信。
ヴァン ヴァオオオオ ガシャコン ヴォオオオ。
二速にギアチェンジしつつ坂を超え、坂の頂上にて左ウィンカーを出す。
左右を確認しつつ、坂を下りながら安全確認。
四輪車はまだ試験を開始していなかったのかまるで走っている様子がない。
そのまま内回りで外周コースを回る。
そして障害物があるため、右ウィンカーを出しつつ障害物を避け、そのまま左ウィンカーを出してもとの左側に寄せたポジションへ。
試験監督は先ほどの試験スタートからずっと無言で律の後ろについてきていた。
律は左ウィンカーを一旦消すが、交差点を越えたあたりで再び側方確認の後、左ウィンカーを点灯。
左にさらに寄せる。
次の課題であるクランクが待っているためだ。
そのまま三速から二速へシフトダウンしクランクへと進入する。
(ああもう! 半クラの位置がまるでわっかんね!)
フラフラになりながら二速でクランクへ突入。
しかしここで律は気づいた。
(あれ……パワーあるからか……アクセルそんなに弄らずともクラッチ操作だけでいいのか……)
NC54はヴァン ヴァンとけたたましい鳴き声を響かせながらクランクをフラフラと進んでいく。
律はパワーがNC31よりあることで、アクセルを殆ど煽らずともクラッチ操作だけで低速走行を維持できることに気づき、その徐行状態を活かして何とかクランクを突破。
(おっしゃあ!)
律は心の中で吼えた。
第一の難関を突破したのだ。
クランクの出口付近で左ウィンカーを出す。
プヒッ。
まともや自爆。
左右確認で意識がやや薄れたため本能的に操作してしまった影響だった。
気にせず左側の縁石に沿う形で左折。
次の課題はスラロームとS字である。
交差点に入った律は赤信号のため一時停止。
この時きちんと一速に戻すことを忘れなかった。
そして青信号になると同時に左右確認し、再び発進。
交差点を通過しつつ右ウィンカーを出しつつセンターラインにバイクを寄せる。
そしてそのまま進み、右折。
右折の先は一時停止があり、左折することになっている。
すぐさま左ウィンカーを出して左に寄せる。
一時停止も問題なく行えた。
左右を確認すると左側に内回りを進む四輪試験車両を確認。
すでに通過済みなので気にせず、そのまま発進し、スラロームのスタート地点へ。
「こちらは準備できました。準備が出来次第どうぞ」
律が左折した際に先行して律を追い抜いた試験監督はストップウォッチで計測するための所定の位置に向かい、その後にスタート地点にて停止した律に言葉を投げかけた。
律は目を閉じて一旦一呼吸を入れる。
そしてそのまま目を見開いて発進。
とにかくいつも通りを心がけた。
どうせ努力しても1秒程度しか縮まらず、点差は5点。
ならばとばかりにいつも通りのペースでバイクを傾けつつスラロームを突破した。
(うん10秒余裕でした)
間違いなく8秒のペースでなかったことに自分を笑いつつも、スラローム終了地点で左右を確認する。
この時、優先関係が重要となる。
左折しつつS字に入るのだが、車が来ている時のみ停止が要求される。
ここをミスると20点減点。
一本橋でミスする余裕がなくなるどころかホーンの減点がすでに20点蓄積されていれば減点はこれ以上不可能。
ここでミスは出来ない。
左右確認を行うと右側から内回りを進む車を確認。
急いでコースアウトしない範囲で一時停止し、通り過ぎるのを待つ。
しかし、なぜか四輪が停止してしまった。
(え? 俺コースには出て……いないよな)
一旦自分の位置を確認するがコースに出ていることはなく、車が来た際のいつも通りの停止位置である。
どうやら四輪側の方が危険を感じて一時停止したのだった。
あちら側の試験監督が先に向かうよう促す。
「あちらはこれから坂道発進なんで先に行かせたいようですね。音羽さん。行っちゃいましょう」
実は相手側はこれから坂道発進なのであった。
これから律が挑むS字の出口付近は坂道のすぐ近く。
そこから左折して入っていく。
左に寄りながら減速しつつカーブを曲がる。
となると律がS字を攻略すると再び遭遇して面倒なことになりかねない。
それを避ける目的で試験監督が一旦停止を指示させたのである。
例えばの話、同時に進行するような形になって律が出口付近に再び現れた四輪車を左右の確認不足で「突如現れた」とパニックになり転倒などされると、坂道発進の課題のためにスタートラインに立つのが非常に困難となるからだ。
特に四輪はこの時、3台体制で試験を行っており、坂道で四輪同士が交差するケースがある。
律の転倒が仮に生じて、それを避けるように大回りしてスタートラインにたった際、センターラインにより過ぎたまたはセンターラインをオーバーしたという事になると、対向車と接触する事になる可能性もある。
その場合、律含めた3人が試験中止。
試験監督は鬼ではないので流石に危険すぎる状況では停止を促すのだ。
これがただの周回であったならば停止を促したりなどはしない。
試験監督がそのような進言をすることは認められている。
四輪が停車していたことで律の不安は少し減る。
S字の先に再び四輪が来るリスクが消えたからである。
そのままS字に突入した律は難なく突破。
一旦停止し、右側と左側、坂道など含めてどちらも確認する。
四輪は先ほどの位置より移動し、律のいるS字出口近くで再び一時停止している。
その様子を見ていた律の方の試験監督が先に進むよう促し、四輪はそのまま坂道へと入っていった。
「では状況をみつつどうぞ」
試験監督に促された律は再度左右を確認した後に発信。
そのまま再び障害物を越え、左ウィンカーを点灯したまま左側に寄せる。
今度は先ほど通過した交差点に左折して入るのだ。
交差点の先は左折。
次の課題である一本橋を攻略しに行くのだ。
交差点の信号は青。
交差点を越えた後に確認を行って左ウィンカーを点灯。
左ウィンカーを点灯しつつ左に寄せ、交差点の先の丁字路へ。
こちらは一時停止がないため、左右を確認し、問題がなかったのでそのまま左折した。
左側に左折した律は二速から三速へ。
そしてある程度走ると左ウィンカーを出して左側に寄せる。
そしてそのまま左折し、一本橋のスタート地点へ。
「いつでもどうぞ」
先ほどと同様、先行していた試験管が所定の位置につく。
律は旱魃入れずそのままCBを走らせた。
最初に加速を見せたCBであったが、すぐさま加速を終了させ、惰性走行させる。
前傾姿勢になりながら前を向き、後は天に祈りながら前に進む。
その時であった。
(ん? こいつ……もしかしてアクセル入れなくとも一速ならクリープみたいに進むのか?)
NC54のパワーは走り始めると1速でアイドリング状態のまま進むほどのトルクがあった。
律は心の中で「助かった」と叫び、そしてアクセルオフのままクリープだけで進むことにした。
(8秒……いけた……か?)
今までにないぐらい上手く行ったという感触があった。
特に問題なく一本橋を低速で越えられたのだ。
そのまま律はCBを右にカーブさせ、出口へと向かう。
「急制動はそのまま行きますから!」
左右確認を行って自動車の姿が無かったのを確認させ、右折させた律に対して試験監督が言葉を投げかけた。
律はここまで来るともはや不安要素が無いので、緊張がほぐれてくる。
左ウィンカーを出し、そのまま急制動へ。
ヴァン ヴァオオオオオ ガシャコン ヴァァオァッアアアアアア!
二速、三速と上げ、40kmまで加速。
キュオオオという風きり音が律のヘルメットの中にまで響く。
そのままパイロンを見逃さなかった律はブレーキを踏む。
前ブレーキと後ろブレーキのバランスを考えつつ、いつもより強めにブレーキをかける。
後輪も前輪も同時に強めにブレーキを入れた。
グオオオン。 キュキュッ
停止する瞬間、一瞬目をつぶってしまったが、目を開いた律の目の前に広がる光景は1本目のラインで停止するNC54型CB400SF-Kの姿。
律はふぅと一息入れたあと、三速から一速に戻し、左ウィンカーから右ウィンカーに入れ替えて左右を確認し、再び外周コースへと戻った。
外周コースへと戻ったら右ウィンカーを一旦消し、すぐさま確認の後、再び右ウィンカーを点灯。
最後の課題「踏切」の攻略である。
踏切の先が終点だ。
右に寄せた状態で踏切に差し掛かった律は対向車を確認して一旦停止した。
対向車の四輪は加速して律の横を通り過ぎる。
それを確認した後、律は右折し、踏切へ。
ウィンカーを消しつつ左に寄せながら進んで踏切の前で一旦停止し、オーバーアクションで左右を確認しつつ、
踏切を越えた後に再び右ウィンカーを点灯、右に寄せながら右折。
さらに左ウィンカーを点灯。
終着点に停止させる。
終着点に停止させた律は一呼吸入れた後、ウィンカーを消してNにし、それをきちんと確認してからキーを捻ってエンジンを停止。
そしてまずは右ミラーを見て、さらに目視で右後方を確認。
そのまま降車。
その時、すこしバランスを崩しかけるもすぐさまバランスを取り直し、サイドスタンドを下げてバイクを元の位置に戻す。
その状態で試験監督の方を向いて一言。
「終わりました」
律のその言葉を受け試験監督は指導員へと戻り――
「はい。これで試験終了です。お疲れ様でした」
――と律をホッとさせた。
「では小林さんを呼んできてください。音羽さんは小林さんが終わるまでお茶とか飲みつつ、ガレージの方で待機しててくださいね」
何やら試験用の用紙に記入しつつ、律に説明した。
~~~~~~~~~~~
ガレージに戻った律は小林に次の番であると言い、試験へ向かうよう促した。
「どうでした……?」
小林が緊張した表情を崩さないまま律に問いかける。
顔はやや青ざめていた。
「アレ新型なんでホーンとウィンカーの位置普段のヤツと逆かもしれません……気をつけて」
その律の助言に小林はCBXカラーのCB400を一旦見た後に再び律の方へと振り向き――
「えっ……? どちらがウィンカーになってます?」
律の質問の意図について理解し、自分がそもそも旧型に乗っているのかわからないので、位置がどうなっているのかについて状況を聞く。
「ホーンの下がウィンカーです。いつもはどちらでした?」
「あ……普段のと逆ですね……ありがとうございます」
小林は会釈をするとそそくさと試験車両に向かっていった。
(顔色悪いな……大丈夫かあの人……)
トボトボと進んでいく小林に律は不安感がよぎる。
一方自分はすでに左手も右手も体温が回復していた。
しばらくすると小林の試験が開始される。
開幕からいきなり「プァァァッァア」というホーン自爆が発動。
律と違い、あからさまな失敗であった。
(あーあ……)
ほぼ10点減点が確定的な様子であった。
そのままの様子で右折。
右折時もかなりフラフラしていた。
右折後、そのまま小林もストレートを飛ばしていくも律と比較するとギアチェンジがドギマギしていた。
(大丈夫かな……ギリギリで試験受けさせられていないか?)
その様子に律は不安が強まっていく。
そして――。
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ガシャァァァァン
「なんだ!?」
しばらく試験中の様子を見ていた律であったが、喉が渇いていたので冷蔵庫に向かいお茶をカップに入れて飲んでいた。
休憩しながらお茶を飲みつつ、待機用の椅子に座っていた律は思わず立ち上がる。
そこからは死角となる位置から明らかに転倒したと思われる衝撃音が聞こえた。
「この位置は急制動か!? あっ……」
律が見た先には、急制動のブレーキを失敗し、盛大に転倒した小林の姿があった。
課題としては後半の山場。
そこで転倒。
もし自分だったら立ち直れないほどの精神的ダメージであるだろう状況が律の目線の先に広がっている。
転倒とはつまり、試験中止である。
この時点で小林の合格は無くなった。
クランクは突破できていた様子であったものの、それ以降は特に見ていなかった律は「あちゃー、最後にやらかしたか」と思わず口元に手を添えた。
しかもどうやら完全に足を挟まれており、一人では立ち上がることが出来ていない様子である。
(俺も行った方がいいかな?)
律がそのようなことを考えていると試験監督がヒョイとハンドルの右側を片手にもって体重をかけ、バイクを起こした。
しばらく小林と会話していると、どうやらそこで試験中止となったらしく、小林は重い足取りでこちらに戻ってきた。
試験監督はCBXカラーの試験用車両に乗り、こちらのガレージに向かってくる。
「小林さんはケガしてるかもしれないんでプロテクター外して受付で見てもらってください。音羽さんは結果報告あるんで待機してた教室へ。私は片付けたらすぐそっち向かいますんで」
指導員はそう言うとCBXカラーのCB400を一旦その場に置き、試験監督として業務中だった際に使用していた指導員用の青いタンクのCBを取りに行った。
「大丈夫ですか? どこか痛みとかは……」
「まぁ足は痛みますけど……はぁ……」
小林は耳まで赤くなり、目も真っ赤な様子だった。
それでも涙は流していない。
30代は過ぎていると思われるその女性はどういう理由にて二輪に乗りたいのか不明だが、その覚悟と信念と努力は本物であり、律はその様子に共感してしまう。
自分と同じく、二輪に強い思いを寄せているのだ。
でなければ出遅れていた状況から自分に追いつくまで巻き返すわけがない。
そう思うと律も顔が熱くなった。
「また次がありますから……がんばってください……」
律はそう言って会釈すると、その場から離れた。
ガレージから出て少しした所で振り返ると、小林はトボトボとプロテクターを脱いでいる最中であった。
(今日が駄目だっただけだ……いつか届く……俺だってまだ運転が上手いわけじゃないんだ……それにまだ合格と決まったわけじゃない)
その様子を心に刻み込み律は待機教室へと向かった。
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待機教室にて15分ほど待つと、小林が隣に着席してきた。
そのすぐ後に試験監督であった中年の指導員が続く。
「お二人とも。結果発表です。教室の外へ」
約1名の結果はすでに判明しているが、形式上の問題から両者共に結果発表を聞く。
「えーまず小林さん。転倒で中止なので不合格ですが、ホーンで10点。スラロームでもコーンに接触。スラロームは10秒1。一本橋は7秒2。なので、転倒しなかった場合でも残念ながら55点で不合格でした。冷静になれば合格できるはずなので補習がんばってください」
指導員の言葉に無言で俯きながら小林は頷いた。
「さて、それでは音羽さん。お仕事で運転されていたそうですが、安全確認などは問題ありません。スラローム9秒8、一本橋は8秒1。ホーンの減点2回。70点で合格です。ホーンについては最初に申告してもらったんで減点どうしようか迷ったんですが、減点しても合格だったので厳粛に審査した形で減点として採点させてもらってます。まぁあの程度だと減点するかしないかは怪しいラインなのですが……他には特に減点というほどの項目はありませんでしたので、合格ということで」
ギリギリ合格。
その言葉が律の胸に突き刺さる。
小林の失敗などを見ていた律は素直に大喜びできない。
ホーンについては確かに「突然現れた壁」ではあったものの、律はそれ意外もフラフラしていたので自分でもギリギリの合格という自覚があったのだ。
特に未だに低速の状況での制御に自信がない。
「ありがとうございます……」
そのため、やや元気のない声で律は返答した。
「では、この後卒業式があって、そこで書類を受け取れば晴れて教習所を卒業です。音羽さんおめでとうございます!」
指導員はクラッカーを鳴らさんばかりの声色で律を祝福したが、辺りにはドンヨリとした空気が漂っていた。
「ではこれにて」
そう言うと指導員は立ち去っていく。
「小林もトボトボと無言でその場を去っていった」
律もその後に続き、階段を下りていく。
階段を降りた先にはニコニコした顔をしながら無言で手を振る優衣の姿があった。
律からメールにて昼休み中に試験があると聞いていたので、試験終了を見計らって来ていたのだ。
「よかったねー。合格おめでとっ」
「ギリギリだけどなー」
律は溜息交じりの声を出して落ち込む姿を見せた。
別に慰めてほしいわけではなかったが、その様子に優衣は律の頭を撫でる。
「なははっ。あのねーリッくん。これからの方が大事なんだよ? いつまでも教習所にいたって練習にはならないほど公道の方が大変なんだからね~! 乗ってりゃ上手くなるもんさ! 私だって70点だったんだけど?」
「そうなん?」
「そ~だよ~。お前二輪に向いてないとまで言われて今にまできてんだぜっ! 私もMTだったからさ~」
実は優衣、2年前は本当にヘタクソで話しにならないほどであった。
スクーターに乗ることに決めていたのに「選択肢が少ないのは面白くない!」ということでMTで取得したのだ。
クラッチ操作などに何度も苦労し、課題攻略が遅れ、3時限も通常より多くかかって第二段階の見極めまで到達。
卒研は一発合格だが70点と言われ、指導員からも「気をつけるように」と釘を刺されるほどのギリギリだった。
律のギリギリはいわば突発的事象も影響した部分もあるため、彼女とは状況が違う。
「まぁまぁ、早く卒業書類受け取ってきなよ。府中の受付は16時まで。今13時30分。あんまり遅くならないほうがいいっしょ~?」
パシパシと律の背中を叩き、優衣は律の背中を押した。
優衣の言葉や慰めにより、律も少しずつ合格の実感を得られるようになってきていた。
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合格の人間は1Fの受付から呼び出され、応接室へと向かわされた。
応接室では教習所の局長がおり、局長より直々に合格書類一式を渡される。
「本日から1年以内に免許を受け取っていただかないと無効となるので気をつけてください」
ある程度の話の後、その注意事項を説明して局長からおめでとうの挨拶と共に書類一式を渡された律は応接室を後にした。
どうでもいい話ばかりだったので殆ど話の内容を覚えていなかった。
応接室を出た律は優衣と共に教習所の外に出る。
教習所の外には、今まで誰も使っている様子がなかった二輪用駐車場にあのグレーの美しいボディのVESPAが停車されている。
その姿はとても教習所に合わないほどの美しさであった。
「ほいじゃ行きますか」
「恥ずかしいな……」
「いまさら何を言ってるんだいっ! 私達もう経験済みでしょ!」
「いてっ」
タンデム走行を嫌がる律に対し、優衣は軽いチョップを食らわせた。
――その後、優衣はいつものようにメットインスペースに律の荷物ごと大事な書類その他を入れ、駐車場からバイクを車道側まで出し、律にタンデムシートに座るよう促した。
「ほれっ、いくぞリッくん」
パンパンとタンデムシートを叩き、催促する優衣に律も頬を染めながらいそいそと乗り込んだ。
VESPAはトラァァンという軽い音と共にエンジンがかかり、ボオォォンと300ccらしいやや重い排気音を響かせながら府中免許試験場に向かって進みだしたのだった――




