番外編:一足速い岐阜の春
夕食が終わり数時間が経過したこちらは岐阜の音花家。
光はいつものようにPCでバイク情報を集めていた。
とにかく気になるのは、風呂が終わったと見られる娘がドタドタと部屋の外の廊下を走り回っていることである。
当然そんなものはいつもの綾華の姿ではない。
思えば律が無事であるという報告は律の両親とも相談してしばらく口外しないように努めていたことをいまさらながらに思い出す。
退院したばかりの律を綾華が見てもショックを受けるだけだろう。
病的にまで痩せ、そして体中傷だらけ、そしてなによりも――
「――ん?」
PCを見ながら律について考えていた光は、周囲が突然シンッと静まったことで我に返った。
「光くん! 光くん! ちょっとええかな! こっち!」
静まり返ったと思ったらすぐさま娘より呼び出しを受けた。
やれやれとばかりに席を立ち、部屋に出て彼女の自室に向かう。
コンコン
「―入るぞ」
娘とはいえ年頃の女の子。
光は入る際、念のためノックして入る癖がついていた。
ガチャッとドアを開けて入った光は部屋の中に広がる光景に唖然とする。
ベッド、床、周囲に散らばる「下着」
「光くん! 律くんってどっちが好みなんやの!? 私、こっち、こっちの色の方が可愛いと思うんやけど!」
綾華が両手に持つのは当然下着。
それは光をして「ティーンエイジャーがその若き想像力をめぐらせた上で勝負を考慮するモノ」と判断できうるものだった。
普段の綾華といえばバイクにいつも乗っている関係で速乾性のある地味なスポーツ系下着を好んで着用する。
その姿だと親に見せても気にならないのか、その姿で家中を歩き回ることもあった。
しかし光が初めて目にするその下着はなんと言うか、女性なら間違いなく「可愛い」と太鼓判を押すような一般的なそれなりの年齢向けの可愛いデザインの下着。
その2つを両手にそれぞれ持ってどちらがいいかと、30過ぎたばかりでまだそれなりにそっちも現役である男に問いかけてくる。
その姿を見た光は頭痛が襲った。
軽い貧血か何かを起こしているとも思えるかのような症状である。
確かに光は律の好みをそれなりに知ってはいる。
男同士で年齢も近い関係もあってか、恋と女の相談については双方がよくやりとりを行っていた話題。
そのため律が「色よりデザイン」を重視することを知っていた。
「やっぱローライズ気味で平べったい綺麗な三角形を描いてるのが可愛いって!」なんて、その頃の話が頭を過ぎるがそれをそのまま綾華に伝えるのは律に失礼すぎるので出来ない。
(そもそもこの下着をどうするつもりなんだ綾華……)
光は綾華の行動原理がまるで理解できなかった。
彼女はバイクで200km以上を移動して律のいる烏山まで移動する予定である。
そんな長時間を移動して下着がまともな状態なわけがない。
例えば最高の状態に着飾っても、ムレなどによって大変なことになるのは男女共に同じ。
だからこそ普段速乾性の高いものを身に着けていたはずである。
戸惑う光にはある架空の産物が過ぎった。
薬によって小学生になった眼鏡の少年探偵が使う時計型麻酔銃だ。
これをそのまま綾華に使ってしまい、頭を冷やさせつつ烏山の律のいる場所まで運んで置き去りにするほうが正しいのではないかと。
律の性格からいって綾華が本気でこの発情した岐阜犬ともいうべき状態で突撃してもドン引きするだけであり、これでは説得も何もなく自身が批判の的とされるのは間違いない。
(やっぱ俺が行くかぁこれ……かといって今更反対できんしな……)
「ねね、光くん!」
そんなものはお構いなしとばかりに綾華は光に迫った。
その目は本気である。
そして恐らく瞳の奥には炎と共にハートのようなものがあることを光は読み取った。
「いいからとりあえず清楚なのにしとけ」
光はとりあえず綾華の手に持つモノを否定しつつ、部屋の中に散らばるモノの中から一番まともそうなのを選んで指を刺した。
一番驚いたのは知らぬうちに娘がそんな下着をそれなりに集めていたこと。
大人の階段を上りつつあることを光は知らなかったが、それと同時にその選択について親に伺うというあたりがまだ子供であるという認識をもった。
向かう先が律という知り尽くした男でなければ怖い。
(む……)
突然光は頭に電撃が走る。
光は今まさに、自身が綾華をこの世に誕生させることになった原因に気づき始めた。
もしかしてこんな感じであの時のデートに及んだのではないかと。
最近、ややボヤけてきた記憶であるが今の綾華の行動と、彼女の母の姿がピシッと重なり合う。
(いやー……惚れてたのが律で助かったぜ……)
最悪の状況を想定していないわけではないものの最悪にいたる可能性が非常に低いことからホッとすると同時に、間違いなく自分とアイツの子だと確信できる姿が目の前の綾華にはあった。
「そんなモンはどうでもいいから、はよ寝ろ。そんでもって後で俺が見舞い品をもってくるから、忘れずにもっていけよ。部屋の外に置いとくから」
「な、なんよ。これって大事なことやんか!」
「はいはい、せやな。じゃ戻るぞ」
すでに十分な回答をしたと判断した光はあえて冷ややかな態度をとることで娘に自制を促すと同時に頭を冷やせと誘導する。
「あ、ちょっと」
「律に会えるのが嬉しいんはわかるが、期待値高めすぎんようにな~」
「もうっ、光くんのバカッ!」
トテトテとそのまま部屋を出て行った光を見た綾華はガシャンと強めの力でドアを閉めた。
そしてせこせこと広げた下着を片付け、ベッドに転がり込む。
すでにある程度の荷支度は終えていたのだった。
着替え、その他一式を詰め込んだバッグはすでに完成。
あとはそれこそ最も重要なモノだけに悩んでいたのだった。
ベッドに寝転んで天井を見つめていた綾華は独り言を呟く。
「何年ぶりやろ……もうずっと会ってない気がする……そっか……律くんこっちに戻ってこれたんか……」
律の現在の姿を想像しようとすると顔の周辺が熱くなった。
「あーーーーもうっ、早く朝にならんかね!」
顔に枕を押し付け、ゴロゴロとベッドを転がりまわりながら強引に寝ようとする綾華。
一応、光の言いつけ通り一度寝てから向かう予定ではあった。
頭の中によぎるのは幼い頃の思い出。
小さい頃、物心がついた時にはいつも傍に律がいた。
親戚とはいえ血の繋がりがやや薄かった影響なのか律は常に綾華に優しくしてくれていた。
とはいえ、怒る時は当然怒ったし甘やかすということはせず、
あの時は褒めて伸ばそうと律が常に配慮していた様子であることを今の綾華は感じ取っている。
しかし実は綾華がとにかく律が好きで好きでたまらなくなった要因は光の知らぬ所にあった。
綾華はさきほどまでの行動から疲れていたのか、そのまま意識を失って眠りについていく。
そしてまたいつものようにあの時の夢を見る。
もう何度見たかわからない律との思い出。
色あせることが一切ない綾華が律に心底想いを寄せる理由となった思い出。
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「え、なんねこれは?」
「いりません。返します」
まだ寒く雪が周囲に積もる岐阜の一角にて、燐として胸を張るまだ幼さの残る律の姿があった。
新しい年が始まってまだ数日が経過したばかり。
そんな律は5000円ほどか1万円ほど入った小袋をバシッと突きつけるようにして渡した相手につきつける。
「綾華の分がないなら受け取りません」
「い、いや律っちゃん。落とし玉はね、光君に渡しているんよ」
その言葉に騙されるもんかと律は目を細める。
「俺は光兄とはそれなりに仲がいいんです。そんな嘘がまかり通る歳じゃない。綾華と光兄を同じ家族と認めない人のお金は受け取りません」
それは溜まりに溜まった鬱憤によるものであった。
綾華を身ごもって以降、毎年のように一部の親戚が邪魔者扱いするようになった光の姿を見せられ続けた律はとうとう反逆という形で行動を起こす。
元々、父方である岐阜の方はギスギスした関係からさほど行くことのなかった律達ではあり、もっぱらこの時期に向かうのは母方の方であったものの、綾華が生まれて以降は綾華が律の両親に預けられた事もあり、こちらにも訪れるようになっていた。
名家というほどでもないにも関わらず、血統と世間体を重視する父方一族の一部は光の行動と光自体を認めず、村八分に近い状況。
そのため、お年玉やプレゼントを律は受け取ることが出来たが、光と綾華は除外された。
しばらくの間は「綾華ちゃんはまだ幼いから」と言い訳していたが、それはもはや通じない年齢となってきている。
文字の読み書きが多少出来るようになった綾華はすでに小学校入学前。
間違いなく物心ついてきた頃である。
そんな時期において彼女を追い込むようなトラウマを植えつけるぐらいなら、そのような者はすべて排除する。
律は例え父方から全否定され、父方一族より光らと共に除外されるような事があっても、「親戚一同にあっては公平にあれ」という先祖から伝わる家訓のようなものを重視した。
そのため、やや穏便に済ませようとする両親に先立って両親のいる目の前でお年玉と書かれた金銭の入る封筒を突っ返したのである。
綾華はそれを遠くから覗き込むようにしてみていた。
「綾華は俺の妹みたいなもの。おばさん達がどう思ってるか知らないが、俺に渡すなら綾華に渡すべきだし、綾華に渡さないなら俺らに渡すべきじゃない」
「あ、ちょっと」
律はそのままこれ以上の話し合いは不毛とばかりに席を立ち、後の事後処理については両親に委ねて立ち去ってしまった。
「ちょっと、勉さん、なんなんあれ? 一体どういう教育をなさって――」
律の怒りをまだ理解できない親戚の叔母は矛先を律の父である音羽勉に向ける。
「千恵子おばさん。申し訳ないが謝罪はしませんよ。息子の律に先に行動されたのは私の失態だが、息子以上に私も憤っている。貴方の光と綾華に対する陰口は律に届いていた。ウチの子供はそういうのを許さない真っ直ぐな心の持ち主だ。いや、そういう風に育ってくれたんだ」
律の母、音羽夢は自身の夫に全てを任せ、胸を張って律の盾となる気で構えていた。
ただし口を出す気はなかった。
自身の家は名の通った「旧家」。かつて佐竹藩に所属していたが、新たに水戸藩が統治する際、水戸徳川家が「お前を北に飛ばすのは惜しい」とあえて常陸の国に残した元武家でかつ、関ヶ原の後に帰農組として地主となった一族の出身。
よってこの手のいざこざについては鼻で笑いたい立場にあった。
所詮、音羽家などそこらにいた豪族の一部が旧家であるかのように装っているだけ。
特に厳しい家訓も、厳しい仕来りもなく、律の母のように旧姓を名乗れば周囲の旧家が「うそ!あそこの娘さんなんか!?」などと驚くようなものもない。
今まで散々この手の醜い争いは見てきたが、そこで部外者が口出しするとこの手の者達は血の繋がりだけを見ていて、ある程度の立場を持つ者による仲裁などを拒むことは熟知している。
夫は愛しているが音羽家の適当さ加減についてはホトホト呆れており、夫を旧家関係の冠婚葬祭、つまり公の集まりの場にも出ても不足がないよう再教育を施したこの女性は、日本人女性の妻としてあるべき姿を弁えており、肝が据わった彼女はどんな言葉にも動じない精神でもってこちらに会話を振ってこられることすら拒否する姿勢で全身にオーラをまとう。
その気迫たっぷりの姿に叔母と叔父は一切彼女に言葉をぶつけることが出来ず、勉は総攻撃を受けていたが、勉もまたこれまで母方の旧家で鍛え上げられた侍魂ともいうべきものによってそれを跳ね除けんばかりの様子で反論していた。
感情的にならず、冷静に、そして相手に突き刺すように言葉をぶつけるのだ。
「律の何が間違っているのか、率直に申し上げて理解しかねます。光も立派です。綾華には毎月のように養育費を送ってきています。責任を取ろうと奮闘し続ける者を後ろから尻を叩くようにして否定する姿には違和感を感じえません。音羽家はそこまで器量の小さい一族ではないと思っていますんで、今後、綾華や光に対しての行動を改めないというならば我々としてはそれで結構ですが、こちらもそれ相応の対応をとらせていただくことについてご理解いただきたく思います」
「あんね、どこの馬の骨ともわからん子を律っちゃんと同じに見ろというのは無理があるんやって」
すでに相手側は感情的になっていた。
少しでも刺激すれば物でも投げんばかりの形相で怒り狂っている。
音羽家の純血は美しいものでなければならないとばかりに坊主憎けりゃ袈裟まで憎いの精神でもって光と綾華を否定しようとする。
その言葉の応酬を遠くから聞いていた律は綾華を外に連れ出した。
外に出た律は、綾華とよく遊ぶ近くの公園に彼女を連れて行く。
数分後、公園に到着した律と綾華だったが、綾華は遊具に向かうことなくベンチに向かった。
ベンチに座った綾華は状況を理解しており、泣き崩れた。
その泣き崩れた綾華を律はやさしく抱きしめる。
「別に犯罪者から生まれたわけじゃない。光兄も相手の人も、悪いことなんてしてない……綾華は泣くことなんてないよ。俺がお前の兄なのであって、お前は音羽家の立派な娘なんだから」
「でも……私いなかったらみんなは――」
「――幸せになるわけがない。あの人は自分が優秀だと勘違いし、自分の息子もまた優秀で日本一だなどと勘違いしている可哀想な人だ。以前から母さんに対しても嫉妬の眼差しをぶつけていた。母さんが正直羨ましいと思ってるのさ」
「なんで……?」
綾華はまだ幼いので律の母である夢がどれほど凄いのか理解できていなかった。
「母さんの一族は本物の藤原北家の一族の出、このニッポンの地で、王様のような存在になることを許された血筋をもってる……だから当時の王様である水戸黄門様ですら大切にしなさった一族なんだよ……」
律の言葉は微妙に間違いが混ざっていた。
確かに元藤原北家なのは間違いないが、水戸黄門は割と関係がない。
とはいえ、わかりすい言葉でもって綾華に伝えようとしてそのような人物が浮かんだのだろう。
「僕を認めて、綾華を認めたくないのはそういう所があるんだ……でもこれっておかしいことなんだ。母さんはもう嫁入りしているから、世間的にはもうあっちとは一切関係がない……それでも旧家というのは、ああいう人達にとっては喉から手が出るほど欲しいのさ……人は生まれた親と一族を選ぶことなんてできない……」
背中を震わせ、ヒンッヒンッと呼吸が乱れる綾華の背中を律はトントンと叩いて落ち着かせようとする。
「いいか、これは誰にも言うなよ。実はな、綾華……君のお母さんに当たる人は実はかつてこの地を納めた名家の片割れだ。母さんはそれを知ってる。あの人らはそれを知らない。だから君が、あの人達がいう血統においてあの人達に劣るなんて事はないんだ。だから自信をもって」
教育熱心な母、夢によって律もまたそれなりに鍛えられていた。
そのため、実は母は絶対の守る秘密として綾華の出生についてよく教えていたのだ。
分家のまた分家ではあったが、家柄が不明瞭ということはない。
元々そういうことで人に価値を見出すことはない音羽夢ではあったが、その素性を調べるぐらいはお手の物で、密かにそれを理解していた。
一方、その件については光にも話したことがなく、認知しているのは律と夢と勉の3名。
夢は律に対し、「口外はするな」と約束を取り付けていたが、綾華に対してまで言うなとは言ってなかったので、律は思い切って綾華を奮い立たせるために彼女に説明する事にした。
「今のニッポンにおいて、生まれた立場で上とか下なんてないはずなのに、おかしいよね……でもまだそういう所がある。綾華、そういうのに絶対負けちゃダメなんだぞ。兄ちゃんはそんなのどうでもいいと思ってるし、そんなことで他人が下だとか上だとか思ったこともないし……さ、元気になったら遊ぼうっ!」
明るく綾華の目の前で綾華の憧れる男でいつづけた律。
律本人はそれを「格好つけたがりの10代の時の汚点」としているが、綾華にとっては理想の兄そのものであった。
だからこそ、この男に密かな想いを抱かないわけがなかった。
親戚には律や綾華と同年代の子供達もいたが、とにかく律はこの者達と綾華を対等な扱いをさせるよう努めていたが、親戚の子供達もまた親の気持ちなど考えることもなく綾華を同等に扱っていた。
それだけでなく母方の田舎でも綾華は特段妙な扱いを受けることがなく、次第に綾華はそのことについて後ろめたいものを感じる事がなくなっていた。
「本当はお小遣いをいつも分けていて不足しがちだったはずやのに……律くん……」
夢としてその光景を遠くから見ていた状態であった綾華は公園で駆け回る子供の頃の自分の姿と律の姿を見て幸せな気分になる。
チューブに繋がれ、生きる屍になった時はどうしようかと悩む日々もあったが、その時もかつて傍にいた律の言葉を思い出して懸命に生きようと努めた。
律は常日頃「誰に何があっても、最後は自分だから」と強く生きることを綾華に望んでいたからである。
「おっ……もう朝なんやないの……外の音がよう聞こえる」
カーカーと、聞きなれた音が聞こえる。
眠気が冷め、自分が目覚めようとしていることに夢の中で気づいた。
「さぁて、律くんに一体なんのバイクに乗ってもらおっかなあ」
一段あがった声のトーンでもって気合を込めつつ、綾華は意識を取り戻していった。
~~~~~~~~~~
「んじゃ、行ってくるで!」
ドッドッドッドッとアイドリングするエンジン音にかき消されんばかりに、元気一杯の声で光に今の体調と気分を伝える。
「ぉ…ぉぅ……勉叔父さんと夢叔母さんによろしく言っといてーな……」
一方、0時頃まで起きていた光は4時間ほどしか寝ておらず寝不足気味だった。
栄養ドリンクを飲んでいるが意識はやや朦朧としており、2度寝は間違いないといった様子である。
しかしよく目をこらして綾華の乗るバイクを見るとすぐさま異変に気づいた。
眠気が一気に覚める。
「ってちょっと待たんかい! お前CBRってそっちで行く気か!?」
ようやく眠気が覚めかけてきた光は綾華が乗るバイクが愛車でないことに驚いた。
彼女が乗るのは店の試乗車「CBR400R」である。
最新型は二眼のイケメン、扱いやすいパラツインのNinja400のライバル。
意外と街中で見るバイクである。
「250RRじゃ中央道なんて怖くてたまらんよ。やっぱ高速は400クラスやって」
「いつの間にかGIVI箱までつけちまって……はぁもう……気をつけて行って来いよ」
本来は店の商品かつ試乗車のソレを乗っていくのは許したくない光であったが、仕方なく許す。
実は綾華、昨日の時点で試乗車件展示販売車両のCBR400Rをツーリング仕様に改造していた。
スマホホルダーを愛車のCBR250RRから拝借して移植。
店の在庫品からCB400F用のGIVIフィッティングを装着。
下取りとしてバイクを預かった際に手に入れ、今や綾華の私物となったGIVIのE55の箱をそこに装着。
さらになんと店の在庫からギアポジションメーターまでいつの間にか装着されていた。
実は綾華、この道13年でかつジムカーナをやるだけにバイク整備は殆ど一人できちんとできる。
普段はお小遣いを自給換算で貰いつつ店の手伝いもしていた。
一連の作業を僅か1時間で行い、CBR400Rは彼女の一時的な愛車として化けてしまっていた。
「じゃ、今度こそ行ってくるっ!」
「……おう、絶対に倒すなよ!」
グオォォンと勇ましい音を響かせながら立ち去る綾華は光に背を向ける状態のまま左手でサインを送り、「任せて」と言わんばかりにそのまま光の視界から消えていった。
「うーむ……事前に400Xに乗ってけと言うべきだったかな……」
その姿を見送った光は、もう1台ある下取り車の400Xの方が良かったのではないかとやや不安になるが、彼女はカウル付きスポーツ車が大好きだったので恐らく400Rの方を選んだのであろうと彼女の選択を尊重することにした――
次回「難しいのはクランクと平均台と……」




