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ビビリ音にビビる。観戦前に持病に感染して発症したCB 東京→川崎

 それから土曜日までのジムカーナ観戦までの間、律は2日に1回のペースで河川敷へと赴いた。

 そのうちフロントアップが段々とCBでも出来るようになり、15cmほどならタイヤが浮くようになった。


 それまで苦手だった砂利道を克服し、未舗装な農道程度ならかなりの速度で軽々突破できるようになる。

 そういう場所だと凹凸がひどく、シッティングの状態だと跳ね上げによりシートから尻が空中に浮いてしまうほどであったが、バランスを上手く制御できていた。


 ニーグリップとタンクが高熱になる弱点についてはとりあえず100均で購入した滑り止めのゴム板をすぐ剥がせるウォールシールでもって簡易的に装着。

 これにより、タンクと足の間に隙間が出来、滑り止めは適度に穴が開いているのでその中を風が通すことで状態は緩和された。


 河川敷では様々な人間からテクニックを教えてもらえる機会も得て、律は足をついた状態で後輪を滑らすアクセルスライドターンを取得した。


 まだ小回りには不安があったものの、周囲からは「CBでよくやる」と褒められる一方、「ズタボロになって下取り価格が下がらないよう、早いうちに違うバイクにしたほうがいい。ソイツと走りのスタイルとの相性が悪い」と言われ始めるようになっていた。


 スコットオイラーの性能は目を見張るものがある。

 河川敷では泥を被り、黒くなったチェーンはしばらく走行すると元に戻る。

 自宅ガレージでは走行して帰宅した後、すぐにチェーンのオイルを汚れごと乾いたタオルでふき取る作業だけでいい。


 それだけで今までに無いぐらいチェーンが綺麗な状態を保っている。

 スコットオイラー用のチェーンオイルは現在純正だが、この季節やや粘性が強く、律はネットで調べAZのチェーンオイルVG105に切り替えた。


 セッティングも何度も煮詰め、汚れは自動で吹き飛ぶよう調節した結果、より「楽に乗れる」バイクとなった。


「やっぱ楽が一番。車と同じなら、キーだけ持っていけばすぐ動ける状態が理想」


 他の所有者と異なりバイクカバーすらかける必要性が無いガレージを持つ律にとっては、この「楽」という存在は律をバイクに対し前向きにさせたのだった。


 2日に1度のペースで河川敷に向かうようになったのも日ごろのメンテナンス時間が短くなったが故であった。


 ところが、そんな律の走り方にCBは音を上げはじめる。

 ジムカーナ観戦の2日前、いつものように河川敷を走って家に戻り、簡易的な整備を済ませながら車体の状況を見ていた時であった。


「げっ!?」


 アンダーフレームを見た律の手が震える。

 CB400は砂利道の飛石によって、ダブルクレードルフレームのアンダーチューブが傷つき、いつの間にか錆びていたのだった。


 それも裏側を除くようにしてみないとわからない裏面であったため、今まで気づいていなかった部分。


 木の枝などのゴミが付着していたので取ろうと裏側を偶然みた時に見つけたのである。


 ダブルクレードルフレーム。

 正直なところ、完全に時代錯誤なフレーム。


 もし現代でこれを採用するなら、新型PCXよろしく「全てを覆う」しかない。

 というか、2018年になってミドルサイズなスクーターに「ダブルクレードルフレーム」を採用したPCXは国外からは「何を考えているんだ!?」と驚かれたほど。


 ホンダはやたらこのフレームが大好きなようだが、時代はすでにそれを望んでいないのは国外にてPCXをレビューした殆どの人間が「フレームが時代錯誤」と主張している所から裏付けられる。


 かつてトラスフレームの開発者はこう言った。


「曲げたりしない、溶接も少ない、そして≪地面と一切接触しない≫フレームこそ理想」だと。


 溶接が増えれば量産化が難しくなる上、品質維持が難しくなる。

 曲げ加工は絶対的な強度の確保をしようとすると重くなる。

 地面と接触するフレームは「錆びて本来の性能を発揮できなく」なっていく。


 1980年代後半から登場し始めるトラスフレームは、まさにそれを満たしていた。


 そして、今双璧をなしている「バックボーンフレーム」もまたそれを満たした存在。

 バックボーンフレームで最も大勢した存在といえば「スーパーカブ」が有名であろう。


 かつて本田総一郎はスーパーカブをCシリーズから現在のタイプに改良する際、「フレームを徹底的にまで」隠した。


 風雨に一切晒させないよう調整したのである。


 以降、皆がよく知るスタンダードなスーパーカブの意匠となった際に、レッグカバーなどの構造は大幅に改良。


 レッグカバーなどの主要部品を身に着ける限り「フレームは風雨に晒されない」状態となる。

 それこそ、後輪部分にむき出しの後部フレームがあるのと、シートや燃料タンク周辺が露になる程度で、最も重要なパイプ部分は完全に覆い隠した。


 2007年まで販売されたスーパーカブを裏側から見て見ると、とにかくその設計には「汚れても安心で長く使えるよう」考えられた設計となっている。


 そのため、従来のカブ乗りは口を揃えて「後輪付近が錆びてきたらそのフレームは終わり」と主張する。


 これは、最も塗装が分厚いその辺りが錆び始めると、他の部分はガタガタになるほど酷使されているという意味で、ここが錆び始める頃には走行距離20万kmオーバーといった脅威の数値となってしまっていたりする。


 旧来の国産カブがどれだけ錆対策がバッチリかというと、ライトのリムはメッキに対し、ハンドルバー周辺はプラスチック、さらにヘッドライトはプラスチックで覆い、「リムが錆びてもフレームに錆は到達しない」よう出来ている。


 ヘッドライトリムが錆びてるからハンドルバーはひどい事に……なんて思って分解してみるとあら不思議、プラスチックカバーが錆の腐食した液体で汚れているだけでリムを交換すると新品に戻る。


 よくヘッドライトリムが錆びている古いカブに遭遇することがあるが、アレは「問題ない」からそのままにされているのだ。


 設計的にも「ヘッドライトなんて交換可能だし、コイツがあることで防水性能を満たすようにさせよう」ということでモロに水を被ってライト内が浸水することもあるヘッドライトリムは、欠陥品のように見えて「実はリムが先に錆びることでハンドルの腐食を遅らせる」効果を狙ってたりする。


 実はこれ「電蝕」を緩和させようとあえてこうしているのだ。

 船舶の世界では船体に亜鉛プレートを装着し、電蝕を緩和させようとするのは一部ではよく知られている。

 先にコイツが錆びることで船体の腐蝕を緩和させる。


 スーパーカブの場合、ハンドルは「生死」に関わるパーツだが、ここにはメーター類やランプなど合わせ、大量の電気が行き交い「電蝕」が発生する。


 絶縁のためにレバー類やスイッチ類などにゴムを噛ませたりしているのだが、それでも怪しい。

 そこで電気の特性を利用し、最も電力が集中するヘッドライトのリムを「あえて金属性」にして電蝕を人工的に発生させ、その分主要パーツを守ろうというのだ。


 あの銀ピカでやたら重い金属製のヘッドライトリムがあえて金属製なのはそれを意図したものだったのである。


 やれ軽量化だとプラスチックにしてしまうと……タイカブのようにハンドルが錆びて大変なことになるというわけだ。


 こういった設計は随所に見られ、錆びやすいチェーンガードなどもホイールの軸からは絶対に離すよう設計されており、「いかに長く保たせるか」というのを加工技術がまだ未熟な1960年代初頭にして考えぬいて作っていたのだ。


 それが2017年末に再び国産に戻ると、そういう部分の設計的意味というのは薄れ、「すぐ錆びる」「すぐヘタる」「エンジンしか生きていない」というようなお粗末なモノとなってしまう。


 それまで「どういう意図でもって」設計されていたのかを知らない者が作り始めたからである。

 そもそもスーパーカブが国産に戻ったのはタイカブが郵政や新聞配達系の業界から「話にならない」とされたため。


 実際にはタイカブ系列でも国外で販売される高級なタイプは非常によく出来ているので、スタンダードすぎるスーパーカブが駄目なだけだったが、排ガス規制にかこつけて国産に戻した。


 しかし国産のスーパーカブは……隣に並んだC90などが「新車に見える」ほどに劣化が早く、特にメッキパーツの品質がお粗末過ぎて話にならないという。


 一応言うと、今でも旧来のスーパーカブの部品は作られているが、これらは何気に劣化していないので同じだけ保つ。

 つまり「意図的に」品質を下げられているのだ。新型は。


 それはほぼ間違いなく「パーツの値段が旧来の方が高い」ことから、コストダウンの影響によるものというのは理解できるが、ホンダから言わせれば「交換前提だろ?」ということなのだろう。


 実際、クロスカブ、C125はその手の部分が「塗装」に変更された上でかなりの値段の上昇となっているので、「意図的」なのは明らかなのと同時に、クロスカブにおいては「何でもかんでも全部覆った」ことから、「価格=寿命」というのが今のホンダの考えなのだろう。


 ドリーム店員も「今回の新型で最も品質が優れているのはクロスカブ」と言っているが、価格6万円も違うとこうも違うかと言わんばかりに110について「劣化する」といわれた部分が全部塗装になった。(前後キャリア、ボックス、あのチェーンカバーやホイールリム、ドラムブレーキ部分すら塗装に。すごいね)


 やれば出来るのにやらない。

 最近そんなことがにわかに言われるようになったホンダだが、CB400はカブより後の時代に生まれた存在でこそあれ、設計は30年前の代物。


 この当時のネイキッドバイクにスーパーカブのような設計思想は無く、ましてや「ダート走行」など一切考慮などされていないダブルクレードルフレーム。


 律の乗り方、道の選び方にいつの間にか少なくないダメージを受けていた。

 ダメージはフレームだけではない。


 エンジン下部、オイルフィルターの下側もズタボロの状態。

 オイルフィルター自体もズタボロだった。


「あわわわ……どうしよこれ! タッチアップ? でもエンジンなんて高熱になるから……」


 ザラザラとしたフレームの赤錆に触れ、さらにボコボコとなったエンジン下部を見た律はドタバタと周囲を動きまわりながらしばらく混乱状態に陥ったが、すぐさまネットで情報を調べ、「耐熱タッチアップ塗料」などの存在を見つけるものの、他に情報を探った結果「とりあえずドリーム川崎に持っていって修理してもらう」方が良いと考え、持ち込むことに決めた。


 律は急いでCB400をガレージから出すと、ドリーム川崎へと向かっていったのであった――。


 ~~~~~~~~~~~~


 ドリーム川崎へ向かう道中、CB400はさらに悲鳴を出し始める。

 加速時、2000回転~3500回転の間でビリビリと何かカウルが響くような音がしはじめた。


 CB400SBだけの持病である。


「うわっ!? なんでこんなに急に!? 折角の四気筒サウンドがっ!」


 信号停止から青信号になる度に、ビュオオオンという情けない音を響かせるCBに律は目の前が真っ白になりそうであった。


 かつてのフルカウル式バイクはこの持病に悩まされた。

 その持病の影響でカウルを外す者もいたぐらいだ。

 現在のバイクはカウルをユニット化などして上手く設計するため、よほどの事がない限りこのような事にならない。


 CB400SBは設計が古すぎるゆえにエンジンの振動をモロに拾ってしまい、信じられないようなビビリ音を響かせる。


 2014年にフレーム単位でマイナーチェンジが入ってもこの持病は治ってないどころか「マイナーチェンジ後のほうがひどい」と言われるほどであった。


 恐らくフレームをより前方から後ろに重心を傾けた影響があるのではないかと思われる。

 この症状の改善には固体ごとに調整が必要で簡単には行かない。


 走行距離4000km。

 CB400SBは大体のマシンが3000kmあたりからこのようなビビリ音がしてくるようになるが、まさに律のものも例外ではなかったのだった。


 現在時刻4時。

 営業時間終了までに到着はできるものの、今日の修理は不可能と見られる。

 律は事前に戸塚に連絡をとることもせず大急ぎでドリーム川崎へと向かっていっていた――


 ~~~~~~~~~~~~


 ドリーム川崎に到着すると、戸塚が出迎えた。


「音羽さん。どうされましたか?」


 店より出てきた戸塚は店の外に止めてあるCB400の様子について伺う。

 血の気が引いた律の顔から転倒の可能性を疑ったが、転倒した様子がない。

 そのため、クラッチなどの故障を疑った。


「実は……アンダーフレームに錆が……」


 律がフレームについて事情を話し出すと、暗かったこともあり、戸塚はペンライトでフレームを照らしながら状態を見る。


「うーん? こんなところ普通は錆びないはずなんですが……塗装は厚く盛られてるはず……おや、これは……」


 アンダーフレームを見た後で、エンジン側も見た戸塚はエンジンの状態を見てしばし黙る。

 状態からいって、峠の道では簡単にはこうならない。

 段差でも踏み越えて擦った可能性も考えたが、それだともっと全体的にダメージを受けているはずである。


 そうなると答えは1つしかなかった。


「音羽さん、ダート走りました?」


「ええ……」


 律は静かにうなずいた。

 その言葉に戸塚は納得する。


 よくよく見て見るとフレーム下部の裏側には各部に泥などが付着したまま残っていた。


「40kmぐらいの、結構な速度出したっぽいですね。塗装が剥がれたまま油などで磨かずにいたのでこうなってしまったんでしょうね」


「コーティングしてあったはずなんですが……」


 律はコーティングでそれなりに防御力はあったはずなのではないかと主張した。

 確かに、一部コーティングはそれなりに防御力を発揮はする。

 現在のCB400は裏側の一部がベロッと左右共に剥がれた状態であり、そこが赤錆でザラついている状況にあった。


「以前データを見ましたが純正でしたよね。純正オプションのAQULYは樹脂コーティングなんでCR-1とかと違って耐熱性がないんです。CB400はエンジン熱すごいんでフレームに塗布しても殆ど意味なく剥がれてしまいます。熱を帯びなければ凄く良いコーティングではありますが、アンダーフレームやエキパイにも使えるのはガラスビーズ系のタイプだけなんですよ」


「え……そうなんですか?」


 コーティングすれば全て安心。

 そんな購入店の話は戸塚によって見事に打ち砕かれる。

 戸塚はコーティング否定派ではない。


 実際にコーティングすればかなりの間ボディの状態を良いままに保つことが出来るのは知っている。


 だが、純正では守れない部分も認知しており、「正しい事を正しく伝える」ことで客とのトラブルを避ける男故、コーティングする際には注意点をきちんと主張する男であった。


 その男により、事実を突きつけられたのだ。

 純正コーティングは律の乗るCB400や律の乗るスタイリングであるダート系には不向きであるのだと。


 実際にはダートを走るならアンダープレートなどを装備させてフレームを完全にガッチリガードするのが正しい。


 バックボーンフレームやトラスフレームによってエンジンだけが剥き出しという場合ならばそこまで気にする必要性はないが、セミダブルクレードルフレームやダブルクレードルフレームでは必須。


「とりあえず錆を削って再塗装をしてみます。まあそんなに時間はかからないので明日の夜までには直るかと」


「お願いします。修理費は全てきちんと払うので……。それと、なんかビビリ音がするんですがそれも直せませんか?」


「ビビリ音? それはそれは……ちょっとキーを貸していただけます?」


 律の言葉を受けた戸塚は律に対し、キーを要求する。

 律はキーを渡すと、戸塚はエンジンをかけ、ニュートラルの状態でエンジン回転数を上げた。


 CB400はやはり2000回転~3500回転までの間でビビリ音が響く。

 戸塚は音が出る状態でカウルや、フロントに二箇所あるラゲッジボックスを押さえつける。

 しばらく試すとフロントウィンドスクリーンを押さえると音が消えることが判明した。


「フロントスクリーンだけで引き起こされているならどうにかなりそうですね。こちらも見ておきます。それじゃ中に運ぶんで、終わったら連絡しますね。」


「それでは宜しくお願いしますね。あ、急いでないんで後回しで大丈夫ですので……」


 律の言葉の意図には「ゆっくりでいいから丁寧にやってほしい」という意味が込められていた。

 他にも問題が生じている可能性があったためである。


「わかりました。 いろいろ状態を見て見ます。 ちょっと走ってみてもよろしいですか?」


 戸塚は律の言葉から律の思いを察し、返答した。

 その上で前々からクラッチが気になっていたので、一度乗って見ようと考えていた。

 修理ついでにそちらの状態も見ることを試みる。


「はい。お願いします」


 律が丁寧に頭を下げると、戸塚も会釈をしながらCB400をドリーム店内へと持ち込んだ。

 律はその姿を見送った後、そのままドリームを後にする。


「はぁ……ジムカーナ観戦はGL1800で行く事になるかもしれないな」


 本当はCB400で向かいたかった律であったが、突然のトラブルによって状況が不透明となった。

 ただしサブ機としてメイン機並みの大型車両があるため、特に不安もなかったのだった。

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