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9 一夜明け我に返ってみる

 結局、食事は魔法の竃の火口をふたつに増やし、ひとつには鍋を使って米を炊き、もうひとつでは、牛肉と各種野菜を切り分けて石のフライパンで炒めた。肉汁と野菜のエキス、果汁少々の強引な味付けだったが、食えなくはなかったし、米は偉大だった。


 布団については悩んだが、その辺に落ちているようなもので作成できるようなものではなかったし、魔法の天幕の床布がかなりふかふかだったので、テントのど真ん中で大の字になって寝た。


 こんな状況で寝られるのかという心配はあったが、もともと転移前も深夜だったし、こっちにきてからも見慣れぬジャングルの中で、魔物と戦ったりしていたから、ステータス的に丈夫な肉体はともかく、精神的にはかなり疲労していたようだ。結界とやらがうまく働くのかという不安もあったが、結局すぐに眠りに落ちていた。


◇ ◇ ◇


 目が覚めると、頭がすっきりしたのがわかる。栄養と睡眠をしっかりとったことは、やはり正解だった。起き上がり屈伸、伸脚、柔軟などで体をほぐして着替えがないことに気が付く。


「しまったな。どうせなら着替えと、持ち運び可能な風呂の魔導具も要求しておくんだった。しかも着ていた服はそのまんまだが、時計や財布、スマホなんかの所持品は軒並みなくなってやがる。というか昨日の段階でそんなことにも気が付いてなかったのか俺は……」


 想像以上に疲れていたということなんだろうが、人里がどこにあるのかわからないという現状を考えれば、致命的とは言わないまでも十分な失態だ。いっそのことあの場で仮眠を取ってから交渉するくらいの図太さがあってもよかった。

 だがいまさら、たら・ればを言っても仕方がない。とにかく人がいる場所を探して動くしかない。


 溜息を吐きつつ、なにかあったときにすぐに身に着けられるように置いてあったチート装備たちを身に纏うと、昨日の残り飯をかきこんで食器やテントを全部収納する。


「さて……よく考えろ、俺。昨日はテンパっていて気が付かなかったが、おかしなことはいくつもあった」


 俺は周囲を見回してから上を見上げる。


「まず森が深すぎるし、ところどころにある茶色の岸壁……これはまるで」


 いや、待て待て。もしそうだとしたら……いや、まだ結論を出すのは早い。先に気になる点を洗い出しておこう。


「次はスキルだ。まずカンストした【鑑定】の情報がしょぼすぎる。蟻の魔物を【鑑定】して『大蟻:どこにでもいる大きめの黒アリ』だけなのは変だ。レベルやスキルが見えていいはずだ。同じ理由で蟻の魔物が【完全察知】MAXに引っかからないのもおかしい。人や魔物は確実に察知できるはずだ」


 ………………やべぇな。嫌な予感が止まらない。というかほぼ間違いない。完全にあの駄女神に嵌められたな。


「お!」


 嫌な予感に思わず鬱に入りかけていたところへ【完全察知】に反応があった。イメージとしては自分の脳裏に同心円が広がり、その中にいくつかの光点が光っている感じだ。今回は赤い光点がいくつかと、ひとつの青い光点が光っている。光は索敵範囲の端のほうで距離としてはそれなりに離れていると思われるが……光の動きを見る限り青が赤に追われているように見える。


「普通に考えりゃ、赤が魔物だろ? だとしたら青は人間の可能性が高い。人に会えば街にもいける! このチャンスを逃すわけにはいかねぇ」


 幸い、逃げている青はこっちに向かってきている。こっちからも向かえば早く合流できるはずだ。この際、青の奴が善人か悪人かすらどうでもいい! とにかく人に会いたい。


 俺はその思いに突き動かされるように全力で走る。というか、道が悪すぎるので跳ぶ。跳んで、茶色の壁を蹴り、次の壁に跳び、また壁を蹴る。その繰り返しでスーパーボールのように反射しながら加速していく。


 その速度と次々と迫りくる壁に恐怖を感じるかと思いきや、強化されたステータスは動体視力をも桁外れにしていて、なんの問題もなく高速移動を可能にした。問題は……そんな俺の移動と同じくらい向こうの移動速度が速いことだ。俺と同じだけ強い奴なんてそうはいないはずなのに、赤も青も移動速度が速い。みるみるうちに相対距離が近づいていく。


「見えた!」


 と同時に俺の嫌な予感が当たっていたことを知る。だが、それを嘆くのはあとだ。俺は逃げてくる人影に一気に近づいて着地すると耳元で話しかける。


「助けて欲しいか?」

「え? え! え? だれ? どこから?」

「そんなのいまはどうでもいい。助けて欲しいかと聞いている」

「あ、た、助けて欲しいです! あの、私、弱くて……弱いのに武器まで落としちゃって、もう逃げるしかなくて!」

「わかった。なら、俺の武器を貸してやる。そして俺も援護してやるから、この窮地を乗り切ったら俺のいうことを聞け(・・・・・・・)


 全力で走りながら俺の言葉を聞いたそいつは一瞬だけ躊躇ったあと、しっかりと頷いた。


「助けてもらう代わりに奴隷になれということですね……。でも私はまだ死にたくありませんし、死ねないんです。やらなきゃならないことがあるんです! そのために奴隷になってしまったとしても死ぬよりはましです! わかりました! あなたの言う通りにします。助けてください!」


 ん? なんか知らないうちにおかしなことになってるぞ。俺は話を聞いて(・・・・・)欲しかっただけなんだが……


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