4 さらに女神にたかってみる
第4話、プロローグ的なものはここまでです。
「あとはそうだな……カリスマ的なスキルをつけておいてくれ。女にモテるようにな、もちろんオンオフは自在にしとけよ」
「……はい」
「思いつくチートはだいたいそんなもんか?」
「じゃあ! これでおとなしく転移してくれるんですね!」
……なんかむかっときた。お前のミスのせいで俺の絶頂人生がリセットされたっていうのに、なんだその態度は?
「あと魔物の技も覚えられるようにしておけ。ラーニングってやつだ。肉体的に無理があっても魔物の技を使う時だけ瞬間的に体を変化させるくらいのことはできんだろ? なけりゃそういうスキルを作っておけ」
「えっと……ブレスを吐くとか、酸を吐くとか、泥を吐くとか、臭い息を吐くとかですか?」
「なんで『吐く』限定なんだっつうの! 全部だよ、ぜ・ん・ぶ! あるだろ! いろいろ。迷彩して隠れるやつとか、再生するやつとか、吼えるやつとか、溶けるやつとか、そういうやつ全部な」
「あんまりかっこいいとは思えませんけど……」
金髪女神が首をかしげてやがるが、それでもいい。使うか使わないかは俺が決める、使えないのと使わないのでは大違いだからな。
「構わないから付けとけ」
「……はい」
さて、こんなもんか? 不老不死とかも考えてはみたが、くそみたいな世界だったら死ねないのは地獄になる可能性があるからいらない。あぁ……あとはあれだな。
「あと、病気にならない体にしてくれ。向こうについて流行り病でぽっくりとかいくらチートなスキルを持ってても意味がないからな」
「レベル99に到達した人が生半な病で死ぬとは思えませんが、わかりました」
「よし! 次で最後な」
「え? は、はい!」
ちっ! また喜びやがったなこいつ。まあいい、正直チートスキルもこれ以上はあんまり思いつかないしな。
「まず、向こうに着いてこっちの要望どおりに力が付与されていなかった場合は、おまえは俺のところにきて絶対服従の奴隷な」
「な! そんなことできません!」
「だろうな、だからしっかりと言われたことをやれ。そうしたらそんな契約無いも同然だろ。別に無理やりこじつけて奴隷にしようとしたりはしねぇよ。保険だ、保険」
「……わかりました」
いまのはただの嫌がらせみたいなものだが、思ったより効果があったみたいだな。これでちゃんと言われた通りやるだろ。
「いまのが前置きで、本当の最後の要求は『俺が呼んだらこい』」
「え?」
「ああ、勘違いすんな。好き勝手に呼ぶつもりはないし、死ぬまで呼ばない可能性だってある。いつか俺が本当にお前を呼び出したいと思ったときに一度だけこい」
女神は俺の最後の要望になにか裏がないかと真剣に考え込んでいる。だが、裏なんてものはない。こいつも保険のようなものだし、嫌がらせでもある。24時間365日、どんなときでも俺から呼び出されるかも知れないと気にさせることができるし、本当にどうにもならない危機があった時に呼び出して巻き込めば助かる可能性もあるだろうさ。
「一瞬だけ姿見せて帰るのはなしだぞ。俺がいいというまで、もしくは……そうだな俺の許可がなくても最大1日経過すれば帰っていい。ただしその間は俺が見えるところにいろ。出てきてどっかに消えられて1日後に勝手に帰られたら意味がないからな。ただし、二度目以降は俺の呼びかけに応じる必要はない」
「わ、わかりました。一度だけ召喚に応じる条件もお受けします」
「よし、決まりだ。いつでも転移させてくれ……いや、ちょっと待ってくれ。最後にひとつ教えてくれ」
「? ……なんでしょう」
まだなにかあるのかという苛立ちがありありと見えるが、これは別に無理難題じゃない。いざ異世界に行くとなったら、彼女の顔が浮かんだだけだ。
「地球での俺はどういう扱いになるんだ?」
「……もともといなかった。という扱いにもできますし、地球であり得る形での死因で死体を残すこともできます」
「そうか……じゃあ死体を残す方向で頼む」
「……ちょっと意外ですね、もうひとつの方法を選ぶと思っていました」
「言ったろ、人生絶頂だったって。俺には結構な財産があるんだよ、死体がありゃ、その財産は親が相続する。ちったぁ恩返しになるだろうさ」
「…………」
嘘ではないが、それが全部でもない。もしかしたら悲しませることになるかも知れないが、俺という人間がいたことをどうしても彼女に忘れてほしくなかった……みっともねぇ未練だけどな。
「…………」
「じゃあ、やってくれ」
「はい」
にこやかに女神がほほ笑むと俺の周囲が光で包まれる。外から見たら光の柱の中で佇む俺が見えるだろう。試しに光に手を伸ばしてみるが、突き抜ける気配はない。
「ふぅ、やれやれですね。本当にさんざん言いたい放題、やりたい放題で、神様の私もさすがにちょっとムカッとしちゃいました」
さんざん悶えて乱れていた髪を片手で整え、もう片手で自分の肩を揉む女神。おいおい随分と態度が変わったじゃねぇか。約束を破ったら奴隷だぞ、奴隷。
「ああ、安心してください約束は守ります。でも、本当はさっきまで生物といえば知能のない不定形生物しかいない星に飛ばしてやろうと思っていましたけど」
な、なんだと! あ……確かにスキルやレベルがある世界とは言ったけど、生態系や文明の進捗度までは指定していなかった!
「でも、確かに私があなたの人生をめちゃくちゃにしてしまいましたからね……本当に申し訳ないとは思っているんですよ。ですから、きちんと人型生物のいる世界に転移させてあげます」
ほっ……どんなに無双できたって周りがスライムしかいないなら、なにが楽しいんだって話だ。この駄女神、弱気なふりしてそんなこと考えてやがったのか。どうりで途中から物わかりがよくなったわけだ。
「だからといって、簡単に無双できるとは思わないでくださいね」
「な! どういうこ」
女神らしからぬニヒルな笑みを口元に浮かべた女神にどういうことだと叫ぼうと腹に力をこめたがすべてを言い終わる前に俺の意識は光の中に吸い込まれていった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次話は0時の予定です。以降はなるべく0時更新の予定です(あくまで在庫があるうちは、ですがw)。