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27 偽装工作をしてみる

 翌朝目覚めるとリアナが布団の中で丸くなって眠っていた。これが同サイズだったらケモミミ女子が丸まっているという萌えシチュなんだろうが、残念ながら俺の視界だとただの肉の塊だ。


 部屋の中を見回すと、昨日使って浮かべていた光球は消えている。持続時間がどのくらいなのかはこれから確認だが、一晩は保たないということだな。水浸しだった部屋のほうはちゃんと掃除をしたのか、乾いただけなのかはわからないが、とりあえず現状回復されていた。


 あくびをひとつ漏らし、大きく伸びをしてからベッドを飛び降り、テラスへと続く窓へと近づいてみる。

 窓には鍵がかかっていて俺の体だと自力で窓を開けるのは難しい。幸い透明度の低いガラス越しだがかろうじて外は見える。太陽の位置からするとまだ夜が明けて間もない時間か……

 馬車の時間はだいたい宿の朝食後に出れば間に合うという話だったから、とりあえず食事が終わるまでは大丈夫だろう。


 このソバモリの街からは定期乗合馬車が四カ所に向けて出ているらしい。それぞれが、海辺の街、鉱山の街、交易の街、辺境の街へと向かう馬車で、それぞれの街にたどり着くにはいくつかの村を経由して、数日かかるらしい。

 俺としては、魔法を買い集めるためにも交易の街とやらに行きたいところなんだが、リアナが追われている可能性を考えると単純に街へと向かうのは憚られる。


 となれば……


◇ ◇ ◇


「あの……マサヤさん。どうしてまた私たちは走って移動しているんですか?」

「……どうしてだと思う?」

「えっと……ソバモリから出ている乗合馬車を四つとも確認してましたよね」

「ああ」


 あれからすぐ、リアナを叩き起こしてもう一度風呂に入れ、そのあと運ばれてきた朝食を食べてから俺たちはこの街から出ている四つの乗合馬車をすべて確認した。


「ん~、馬車が気に入らなかった、とかですか?」

「違うな、むしろ初めての乗り物だから乗ってみたかったくらいだ」

「じゃあ、馬車が汚かったとか、御者が気に食わないとか、同乗者が臭かったとかですか?」

「違う!」


 俺は駄々っ子か! 

 まあ、おバカの子であるリアナに聞いた俺が悪いってことか。


「お前は鼻のいい同族に追われているかも知れないという意識が薄すぎる。お前らの嗅覚がどの程度のものなのかはわからないが、俺が知っている犬の嗅覚レベルから考えれば、普通に馬車に乗っただけでは臭いを辿られて追いつかれる可能性を捨てきれない」

「犬じゃなくて狼です!」

「ふん、それはどっちでもいい。だから俺はうまくいけば儲けくらいのつもりで偽装工作を施した」

「……馬車の車軸にこっそり結びつけてたあれ(・・)ですか?」

「そうだ、お前の汗が沁みこんだくっさい服を斬り裂いた布を四つの馬車に結んで出発させたんだ」

「そ、そんなに臭くありませんから!」


 顔を赤くして抗議するリアナを無視してさらに続ける。


「そのうえでお前には高級宿で貧乏人が使えないような石鹸を使って体を洗わせた。この状態で街についたお前の同族が、お前を探そうとしたらどうする?」

「……あ! たしかに、私の臭いを見つけて追いかけるとしたら四つのうちのどれかの馬車」


 つまり俺は、追手の鼻の良さを逆手にとって乗合馬車四台を囮に使った。追手がひとりならどれかひとつに引っかかってくれるだけでいいし、複数で追ってきていても臭いが分かれている以上は手分けして追ってくる可能性が高い。それで追手の数が減ってくれればそれだけで生き残る確率があがるし、仮に四人以上追手がいて四つの馬車全部を追ったとしても、俺たちは次に経由する予定地である四つの街すべてをスルーして直接王都に向かっている。


 あわせて追手がリアナという人物を知っていたとしたら、そんな手のこんだ偽装をするとは思わないだろうし、大金を持っているはずのないリアナを探そうと思えば、金のない人たちが行く安宿などを探すだろう。そこで見当違いのところを探していてくれれば、臭いの偽装工作と合わせて、それなりに時間が稼げるはずだ。あとはなるべく痕跡を残さないために、ところどころにある村全部に寄らない予定だ。おかげでまた野宿の日々だがな。


「マサヤさん、す、凄いです! よくそんな底意地の悪いこと思いつきますね。私、尊敬します! あ、冷たい! もう! なんですぐ水をかけるんですかぁ、褒めているのに」

「それは絶対に褒めてない」

「褒めてますよぉだ」


 走りながら頬を膨らませるリアナに小さく溜息を漏らした俺は、次の動きを考える……次の動き、か。この世界にきたばかりの俺が曲がりなりにも指針を持って動けるのはありがたい。


 ……正直リアナと関わってしまったことを最初は失敗したと思ったが、もしリアナに出会わずにひとりで彷徨っていたら…………いや、そんなことを考えることに意味はないな。


 俺は自嘲の笑みを漏らし、改めてこれからの行動を頭の中で考える。

 俺たちが今回選んだルートは川を遡上するルートだ。王都は山の麓にあり、王城は山の中腹に建てられているらしい。そして、その山から湧き出す水が川となり海辺の街のほうへ繋がっているので、川にぶつかるまで進んだあとは川に沿って移動する予定だ。


 本当はそんなわかりやすい指標を辿りたくなかったが、王都に行ったこともないリアナに道案内は出来ないし、信頼に値するほどの地図は手に入らなかった。冒険者ギルドでもらった地図にはだいたいの街の位置が載っていたが、縮尺や地形の描写を見る限り、とてもあてにはできないしろものだった。地理に疎い俺たちが、馬車や街を経由せずに王都まで辿りつくにはこのルートしか思いつかなかった。



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