22 魔物を売ってみる
「さて、じゃあ出してもらおうか。最近じゃ素材ばっかりで解体の腕がなまっちまってしょうがなかったんでちょうどいい。ギルドはわかりやすく使える素材だけの納品を推奨しているが、魔物っていうのは魔力を持った化け物だから魔物って言うんだ。魔力を帯びたもんは砕いて土に混ぜるだけでも畑にいい効果があるし、種類と調理法によっちゃ人間が食うことだってできる。俺は常々、丸ごと納品した場合の買い取り額を上げるべきだってギルマスに言っているんだがな」
「……あ、はい、そうですね。……えっと、じゃあ、ここに並べますね」
おっさんの勢いに押されていたリアナだが、話が途切れた隙をついて地面に魔物を並べるフリを始める。俺はそれに合わせて【無限収納】からゴブリン五体とグラスウルフ二十一頭を出す。
「おほ! すげぇな、その魔法鞄の容量もだが、どれもほとんどひと斬りで倒してある。そのうえ、火系の魔法も使ってないから毛皮や肉にも驚くほど傷が少ない。これなら弟子たちの指導にも持ってこいだ。しかも……こいつらまだ時間があんまり経ってねぇな。長くても一日ってとこか? となるとこれだけの数の魔物が近場にいるのはやばいな。冒険者たちに調査依頼をかける必要が」
「あ! いえ、その! 私! 足が速いので……群れがいたのは、だいたい森との中間地点くらいでした」
街の近くにグラスウルフの群れとゴブリンがいたということで、危機感をあらわにするおっさんの様子に狼狽えたリアナが慌てて説明をするが……【無限収納】の時間停止機能については説明できないのでいささか苦しい。俺たちはどうせ明日には街を出る。だからおおごとになってもまったく構わないから、放っておけばよかったと思うんだが……それは生真面目なリアナには難しいことらしい。
「そうか……森ってのは狼牙族がいる七狼の森だよな」
「は、はい」
「ふむ、中間ってぇと馬車で二日くらいか。確かにあの辺でグラスウルフ目撃の話が出てたな……あのあたりの群れだったら、これだけ一気に減らされりゃ活動も鈍るし危険度は下がるか。なら注意喚起くらいで十分だな」
おっさんの態度が軟化したのを見てリアナの肩から力が抜ける。不必要に街の住民たちに不安を与えなくて済んだことを安堵しているんだろうが、考え方によっちゃ事実ではなくても街が警戒度をあげるのは悪くないと思うんだがな。
「おっと、話がそれちまってすまねぇな。買い取りのほうは問題ねぇ。肉もまだ新鮮だし、ゴブリン一体で五千エルネス、グラスウルフは一頭で一万五千、いや二万エルネスで買い取らせてもらう」
おっさんは魔物を検分すると四角い木板に墨のようなもので金額を書きなぐって、自分の名前を記載すると木板をリアナへと渡す。
「ほら、こいつを受付に渡せ。いい仕事だったぜ、余裕があればまた丸ごと納品してくれ」
「は、はい! ありがとうございました」
装備の力を借りたとはいえ、まがりなりにも自分の実力で倒した魔物がお金になって、その功績を認められたことが嬉しいのだろう。リアナはほんのりと白い肌を赤くしながら頭を下げる……って、馬鹿! だから頭下げたら俺が落ちるだろうが!
慌てて髪を掴んでリアナの首周りにしがみつく……くそ、この体もなんとかしないとな。
◇ ◇ ◇
「うふふ」
冒険者ギルドで換金を済ませ、次なる目的地に向かう途中だが……にへらとしているリアナが気持ち悪い。
……きっと今まで『色なし』と馬鹿にされることはあっても、褒めてもらったり、認めてもらったことがないんだろう。一種のぼっちってやつだ。
「いつまでにやにやしてる。陽が沈む前に買い物を終わらせるぞ、次は魔法屋にいけ」
「は、はい、わかりました。それにしても最初に魔法鞄を買いにいったのはそういうわけだったんですね」
「まあな、魔法鞄があって助かった。もしなければ俺の【無限収納】が人前で活用しにくいところだったからな」
代理人としてリアナを立てるのはいいが、もし魔法鞄のようなものがなければ、俺が収納した明らかにリアナが持ち運べないようなものを人前で出すことができなくなる。だが、魔法鞄があれば、そこから取り出すかのように装うことができる。この違いは大きい。
まあ、金はあるから無理に稼ぐ必要はないんだが、せっかく異世界で魔物を倒すなら活用しないとな。
「マサヤさんは魔法が得意なんですね。魔法が使えるなんて凄いです!」
「ん? ああ。でも魔法よりも武術のほうが得意な設定だな。だが、魔法も才能だけは飛びぬけているはずだ。いまは四属性の初期魔法しか持っていないから、とにかく魔法を集める必要がある。できれば巨大化する魔法でもあると助かるんだがな」
「はあ……なんだか他人事みたいですね」
「まあな、ちょっと事情があってな」
「そうなんですね…………あの、私たち一応、一心同体的な感じですし、なにかお手伝いできることがあればなんでも言ってくださいね」
「……ああ、そんときは頼む」
「はい!」
気持ちは殊勝だが、どうせ『奉名』の効果で逆らえないんだから言葉としては軽いな。リアナとの件は面倒事に巻き込まれたという実感はあるが、結果として人のいるところで役に立ってくれるのは助かる。
「あ、ここですね。魔法屋さん」
リアナが立ち止まった店先には水晶玉を模した絵が描かれた看板がぶら下がっている。さて、街の規模としてはさほど大きい街じゃなさそうだが、どんな魔法が売っているのかちょっと楽しみだな。




