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20 魔道具を買ってみる

20話目

「よし、あとは……そうだお前の背中の袋の口をちょっと開けておけ。あとで値段分の金貨をそこへ移すからバランスを崩さないように気を付けろよ」

「ひゃ、ひゃい」


 辿り着いたのは、魔道具屋と雑貨屋が一緒になっている複合施設の前。リアナと中での動きを軽く再確認してから店内に入ると、やや広めのスペースは仕切りで綺麗に区切られ、三分の一ほどを魔導具屋、残りを雑貨屋として使用しているらしい。店内の雰囲気などを見る限り、二店舗の間には提携しているような雰囲気はないから、これは単純にスペースを分け合っているだけっぽいな。大通り沿いで好立地なのに建物が大きすぎて一店舗では購入できなかったとか、そんな事情があったのかもな。


 店内は日本のように商品が陳列されているようなことはなく、いくつかの商品の現物はカウンターの向こう側に飾られているが、客の手が届く場所には商品の名前と値段が書かれた札だけが並べられている。店に陳列ができないのは、日本のような治安や道徳が期待できないからだろう。


「リアナ、魔法の鞄を探せ」

「はい……えっと、あ! ありました、これです。えっと一番拡張率の高いやつですよね?」

「ああ、どうせ買うならいい物を買う」

「わかりました……だとすると、これですね『魔法鞄-拡張率二百倍-肩掛け・背負い兼用-二千万エルネス』うわ……金貨二千枚ですよ、これ?」


 この拡張率というのは……サイズの説明は難しいんだが、俺の感覚でいうとこの世界はざっと地球の十倍くらいの大きさの世界だ。認識的には俺が小さくなったと考えたほうがわかりやすいか。その前提に立てば、だいたい大きめの鞄一個分の内容量、五十センチメートル四方×五十センチ程度の内容量があるものが一倍。これが二百倍だと……二十五立法メートルか? はっきり言ってとてつもない大きさだ。それだけの内容量があって二千万円、そんな魔法鞄をたった二千万円で買えるなら安いもんだ。


「その下は?」

「はい、『魔法鞄-拡張率百五十倍-肩掛け-一千万エルネス』ですね」


ほう……拡張率が七十五パーセントになったのに値段は半額か。どうやら拡張率が上がっていくと値段も跳ね上がっていくらしいな。逆に百倍付近は多少前後しても値段がほぼ変わらない。ということは、百倍前後が流通のメインでしかも作りやすいんだろうな。


「わかった。じゃあ背負い袋に金貨三千……と余分に五十枚を入れておくからそのふたつの鞄はキープしておけ」

「き、金貨三千枚……」


 リアナが呆けている間に【無限収納】から金貨をリアナの荷物袋に写しつつ、魔道具屋のラインナップを確認していく。結構なんでも置いてあるが……特に必要なものはないな。テントも水筒も灯りも俺の持っているもののほうがはるかにチートだ。

 

「おい、いつまでもボケボケしているなよ。せっかくきたんだから、お前が必要なものを買っておくぞ。隣の雑貨屋で食器類と、寝具、調理器具なんかを買っておけ。タオルなんかもあれば、使い道は多いはずだからがっつり買え」


 俺も風呂代わりに、目玉の妖怪が入っているような器をひとつ買っておくか。食器としてはデカすぎるけどな。


「私が好きなものを選んでいいんですか! 選んで買える買い物なんて初めてなのでわくわくします。……でも、マサヤさん。背中が、ちょっと看過できないレベルで重いんですが……紐が食い込んで肩が痛いです」

「ま、金貨三千とび五十枚だからな。そりゃ重いだろうさ。どうせすぐに支払いで消えるから少しの間だけ我慢しろ」

「大金背負っていると思うと、背中が気になって落ち着きませんけどわかりました」


 結局、結構な時間をかけ、ときには店員に実物を見せてもらいつつ、好きなものを選びつくしたリアナは満足気だった。

 みすぼらしい恰好のリアナがたくさん買い物をするということで、最初は疑いの目を向けていた店員も、リアナの背中がジャラジャラと音を立てているのを聞いてからは手のひらを返すように親切になっていた。現金なもんだ。


 雑貨屋での買い物を終え、買ったものを袋にいれてもらう。大きな袋をぶら下げたリアナの姿はちょっとした買い物帰りの主婦のようだ。……どう考えても魔法鞄を買ってから雑貨屋だったな。

 ま、リアナは気が付いていないし、嬉しそうだからいいか。そのまま魔導具屋に移動し、キープしていた商品札をカウンターに出させる。


「じゃあ、これください」

「はい、お買い上げありがとうございます」


 リアナがカウンターに置いた商品札をホクホク顔で受け取ったおっさん店員が裏から小奇麗な肩掛け鞄をふたつカウンターに置く。


「ち! どこの世界にもせこいやつがいるな」


 その鞄を見て思わず舌打ちをした俺にびくりと反応したリアナだが、いまは店員が前にいるので問い返さずにじっとしている。


「魔法鞄がふたつでございますね。それではちょうど三千万エルネスです」

「はい、ありがとうござ(リアナ、待て!)へ?」

(いいか、いまから俺が言う通りに話せ)

(こくこく)


「あ、あの……こちらの鞄、取り替えてもらえますか?」


 並んで置かれた鞄のうちのひとつを指さしたリアナの言葉に、店員の笑顔が引きつる。


「おや、デザインが気に入りませんでしたか? ですが、拡張率二百倍の魔法鞄は希少でして、他のデザインはないんです」

「デザインは特に問題ないんです。でも、この鞄の拡張率は百五十倍です。デザイン以前の問題ですので交換をお願いします」


 そう、こいつは普通の人が【鑑定】を持っていないことを承知の上で、拡張率百五十倍の鞄をふたつ持ってきやがった。拡張率も百倍を超えてくると実際に内容量をその場で確認することは困難だ。仮に購入者が後日、なんらかの事情で拡張率が低いことに気が付いたとしても、その時には『確かにその倍率のものを売った、それは本当にうちで購入したものですか?』とか言って、とぼけるつもりだったのだろう。


「い、いや……そんなはずは、確かにそれは」

「ここまでの流れるようなやり取り、過去にも同じことを何度もしてますよね。このまま(しら)を切るようなら衛兵を呼びます。さらに町中にこのことを吹聴して回ることになりますが、それでもいいですか」

「ぐ……く、あぁ! そうでした、そうでした! すみません。こちらの手違いだったようです。確か、二百倍はこっちの」

「あ、ちょっと待ってください。今回の件はそちらの|勘違いということで構いません《・・・・・・・・・・・・・・》ので、代わりの品はあれ(・・)でいいです」


 悔し気に顔を歪めなら店の奥に戻ろうとするのを、呼び止めさせて棚に飾ってある鞄を指さすように指示する。


「な! 馬鹿を言うな! あれは! めったに出ない拡張率三百倍のものだぞ! 最低でも五千万エルネスはする逸品だ」

「いえいえ、それはあなたの勘違いで、あれは二百倍(・・・)のものですよね? ゲレス・マクトーさん。うまいこと【偽装】スキルで隠しているようですが、【詐欺師】のスキルがレベル3ですね。スキルとして覚えているだけでも問題でしょうに、ここまでレベルを上げるには、相当あくどいことをしないとならないはずですけど……言う通りに勘違い(・・・)してくださいますよね?」

「うぐ! ば、馬鹿な……レベル6まで上げた【偽装】スキルでも隠せないほどの【鑑定】持ちが、なんでこんな街に……」


 がっくりと肩を落とすおっさんの目の前に金貨を三千枚を山にして積み、百五十倍の鞄にリアナの荷物を入れ、三百倍の鞄を遠慮なくもらっていく。とどめを刺すなら、このあとちゃっかりと衛兵に通報するという流れもあるが、俺がここで買い物することはもうないだろうから別にどうでもいい。

 まあ、これに懲りれば健全な商売をするだろうし、この損失を更なる詐欺で一気に補おうとするなら、行き過ぎた不正がさすがに発覚して、なんらかの罰を受ける可能性が高くなるだろう。



ここまでで20話です。

話としてはあんまり進んでいないですね・・・^^;


街を出たあたりからいろいろ動き出す予定なんですが、ストックも間もなく尽きるのでペースが落ちるかもです。


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