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19 宿を確保してみる

 と、まあ詩的に表現はしてみたが、街並み的には物珍しさはあるが驚くほどのものはない。パッと見、大通りにあるような建物は軒並み二階建て以上で石造り、レンガのような四角い石を積み重ねているように見える。これが板壁の飾りとして取り付けられたのか、本当に石を積み上げているのかは俺には分からないし、知りたいとも思わない。


 だが細い路地から見える街の裏側は江戸の長屋のような、木造平屋の建物が多いように見える。この世界においても貧富の差が歴然と存在しているのかもな。

 残念ながら田舎者のリアナはこの街が地政学的にどんな場所にあって、政治的にどんな位置付けにあるのかをまったく知らなかった。知っていたのはこの国がホワイテスラ王国だということと、この街の名前がソバモリの街だということだけだった。


 街中を歩く人の数は……さびれていない商店街の夕暮れ時ぐらいか? 人種も地球でいうところの人間以外に、半人系の人種も普通にいる。リアナのような半獣系はもちろん、リザードマン風の人種や、半植物系の人種もいるし、エルフやドワーフというような半妖精系もいる。


 幸いなのは少なくともこの街では、どの人種も取り立てて差別を受けているような感じがないことだ。これからはリアナを操縦して行動せざるを得ない俺にとっては、獣人が差別とかされているようだと面倒になるところだった。


「えっと……これからどうしますか、マサヤさん」

「そうだな……ここでやりたいのは、魔法を売っている店で魔法を買うこと。お前用の食料品や日用品の買い出し。宿の確保……あとは情報、だな」


 雑踏を歩きながら、なるべく口を動かさないように小声で話しかけてきたリアナにこの街で、最低限これだけはやっておきたいことを伝える。


・魔法屋にいく

・リアナ用の買い出し

・宿の確保

・情報


 魔法については純粋に俺の戦力増強、あとは巨大化できるような魔法でもあれば俺が自由に動けるようになるから必須。リアナ用の買い出しについては、干し肉くらいしか持っていないリアナを連れて旅をする以上は必要だろう。かかる費用は、馬車馬の餌代だと思えば惜しくないしな。


 宿については、さすがにそろそろテント以外で寝たいから泊まるのは決定だ。どうせなら高級宿で構わないから、部屋に風呂とかが付いているようなところがいい。そして、最後は情報。この国の情勢は勿論、近くにどんな街や国があって、どこが危険でどこが安全なのか、俺が求める知識がどこにありそうか……欲しい情報は無限だ。どこかで情報収集できる場所があるといいんだが。


「えっと、どこからいきます?」

「場所、わかるのか?」

「いえ、まったく」


 ったく、この馬鹿が!


「あ、痛い! 髪を引っ張らないでくださいよ、マサヤさん」

「場所を知らねぇんだったらどこにも行けないだろうが! まずは宿屋の場所でも誰かに聞いてこい。金は俺が出す、なるべく高級で風呂が付いているようなところを探せ」

「えっと……誰に聞けば?」

「そんなの、その辺の店の店員にでも聞け」

「ひゃい!」


 結局、メインストリートにあった串焼き屋で大量の串焼きを買い込みつつ宿の情報をゲット。一番いい宿の場所を聞く。買った串焼きは一本をリアナに渡して残りは人目につかないところで【無限収納】にしまう。これもまあ、食料品の買い出しになるからな。


 店で聞いた宿は、最低でも一泊二食付きでひとり金貨五枚もする高級宿だったが、その中でも俺は部屋風呂があるスイートルーム的な部屋を金貨十枚で取った。リアナのみすぼらしい格好を見て敬遠されるかと思ったが、さすがは高級宿でちゃんと金を払ったら嫌な顔ひとつせず対応してくれた。なかなかいい宿だ。勿論俺は、意味もなく高い宿に泊まろうとしているわけじゃなくて理由はある。簡単に言えば追手を撒くための一手だ。


 部屋を確保した俺たちは、宿で店の場所を聞く。魔法屋、本屋、服屋、八百屋、肉屋、魔道具屋そして雑貨屋。そして、やっぱりあったね冒険者ギルドだ。ただ、この世界のギルドは依頼がどうとかはあまりないらしくて、おもに素材の買取を仲介しているだけらしいけどな。それでも旅をしながら魔物を倒して素材を納品してくれるということで、ギルド員には身分証を発行してくれるらしい。街への出入が楽になることを考えれば登録だけはしておく必要があるだろう。


「さて、今度こそ、どこに行きますか?」

「そうだな、もし存在していればだが、できれば真っ先に欲しいものがある」

「え? それはなんですかマサヤさん」

「魔法鞄、アイテムバッグ。呼び方はなんでもいいが、見た目と内容量が違う入れ物がこの世界にはあるか?」

「あ、はい。ものすごい高価ですけどあります。狼牙族もひとつだけ持っていますけど、街への買い出しのときとかだけ族長から貸与されるような貴重品です」


 種族全体でひとつか。だが、まあ狼牙族は街から離れた場所で半閉鎖的に暮らしているみたいだから、そもそも必要性が薄いということもあるだろう。


「よし、じゃあまずはそれを買いに行く。魔道具屋だ」

「でも、本当に高いみたいですけど……大丈夫ですか?」

「ふん、せいぜい金貨数百枚だろ? 問題ない」

「す、ひゃ!? ……あはは、なんだか私、いろいろ早まった気がします。マサヤさん」


 この世界では見られない、こんな体のくせに金貨数百枚をぽんと出せるという俺に、さすがにリアナも俺自身に特殊な何かがあるということに気が付いたらしく、引きつった笑みを浮かべている。だが、どうせなら『奉名』をする前に気が付いて欲しかった。



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