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18 街に入ってみる

「マサヤさん! 街が見えました!」


 リアナがレベルが上がったせいか、初日よりも軽快な走りを見せてペースアップしたため、翌日の昼下がりには街の外壁が見えるところまで来ることができた。

 どうやら、あの辺一帯はあのグラスウルフの群れのテリトリーだったらしく、その後は魔物や盗賊に遭遇することもなかった。野営に関しても、魔法の天幕の結界と俺の【完全察知】を寝ている間も常時発動にして、敵性反応が引っかかったら警告をしてもらう設定にしたため、交代で見張りをするようなこともなくしっかりと休養も取れた。

 そのあたりもリアナのペースアップの要因かもな。


「リアナ、おまえは街に行ったことはあるのか?」

「はい、二回だけですけど、両親と一緒に来たことがあります」


 どこか寂し気な表情で答えるリアナ。しばらく里に帰れないということは、当然家族や友人にも会えないということ。状況的には俺と似ているような気もするが、こいつは時期と条件がそろえば帰れる。

…………ま、不幸自慢をしたいわけじゃないがな。


「街に入るために何か必要なものはあるか?」

「えっと……たしか、身分証とお金が必要だったと思います」

「俺はこのまま髪に隠れていくから必要ないが、お前は大丈夫か?」


 わざわざ姿をさらして見世物になるつもりも、変な噂が立つのも御免だ。基本的には表には出ないで活動していく。


「あ! ……大丈夫じゃありません、慌てて飛び出してきたので身分証がないです。お金も銅貨数枚しか……身分証がないと中に入るために銀貨数枚は必要だったような」

「金があれば、身分証はなくても街に入れるんだな?」

「は、はい!」

「よし、それなら問題ない。金は俺が出してやるから、到着したらそのまま街に入る手続きに並べ」

「え? マサヤさん、お金持っているんですか?」

「お前が想像もつかないほどの大金を持っているぞ。安心しろ」

「ふぇ~、マサヤさんってお金持ちだったんですねぇ。あ! だから私みたいな奴隷を?」

「ちょっと待て! そもそも奴隷は関係ない。勝手にお前が勘違いして『奉名』しただけだろうが」

「あはは、そうでした」


 ったく、自分のボケさ加減を棚に上げて人聞きの悪いことを。


リアナは小さな体の俺がお金を持っているようには見えなかったのだろうが、俺の【無限収納】には駄女神からせしめた五十万枚の金貨が入っている。これは地球での五十億円の価値があるはず。ということは金貨一枚で一万円、とりあえず一枚渡しておけば街に入るのは問題ないだろう。


「おい、リアナ。これからは基本的に返事は首の動きか、小声でしろ。でないとぶつぶつひとりごとを言う危ない奴に思われる可能性があるからな」

「……!」


 街に入る人達の列に並んだリアナに注意を促すと、やっぱり気が付いていなかったらしくこくこくと頷いている。


「よし、まずお前の財布を出せ」

(こく)


 頷いたリアナはおもむろに自分の胸元に手を突っ込むと、口を紐で縛った小さな布袋を取り出した。その際に意外と豊かだった白い双丘がちらりと見えたが……等身大のバランスボールなイメージでいまひとつ得した感は薄い。っと、そんなことはどうでもいい。どうやらリアナは財布を落としたり無くしたりしないように首から下げていたらしい。自分のことをよくわかっているようだ。これが、腰とかにぶら下げてたりすると街でスリに遭うようなテンプレが起こりかねないからな。


「よし、財布の口を開け」


 俺の指示通りに紐を解いて口を広げたリアナの財布に、俺は【無限収納】から取り出した金貨を一枚落とし込む。ガチッっという鈍い音と共に飛び込んだ金貨を目を見開いてまじまじと凝視しているリアナ。


「ん? もしかして金貨を見るのが初めてなのか?」

(こくこくこく!)


 まあ、街から離れた森の中で育ったんだから、大きな買い物はしないだろうし、下手すりゃ里の中では物々交換が主流だった可能性もあるからわからなくはないが……


「ちょっと落ち着け! せっかくひとりごとを回避しているのに挙動が怪しすぎる」

(……こくこく)

「街の中に入れば、ひとりでぶつぶつ言ってる女がいてもそんなに目立たないような気がするから、街に入るまでは任せるぞ」

(こくこく)


◇ ◇ ◇

 

「よし、次」

「は、はい!」


 街へとつながる門の前で、金属鎧を着て槍を持った衛兵がリアナに声をかける。


「ほう、狼牙族がひとりで街にくるのは珍しいな。買い出しか?」

「は、はい……えっと……そう! お父さんが怪我をしてしまったので街でポーションを買いに」

「そうか、そいつは大変だったな。薬草だけじゃ大きな傷は治せないからな。それじゃあ、身分証を出してくれ」

「あの……それが、慌てて飛び出してしまったので……」

「ん? …………まあいい」


 もじもじと明らかに挙動不審なリアナに衛兵は首をかしげるが、その後ろにはまだまだ街に入りたい人たちの列が続いている。見た目は無害そうなリアナに時間をかけているわけにはいかなかいらしい。


「身分証がないなら、定額の銀貨二枚に加えて保証金として追加で銀貨五枚。合わせて銀貨七枚を払ってもらうことになるが大丈夫か?」

「あ、はい。払えます」


 リアナが財布からさっき俺が渡した金貨を取り出すと衛兵へと渡す。


「よし、じゃあ銀貨三枚のお釣りと……この木札を持っていけ。これが街の中での身分証になる。これがないと宿にも泊まれないし、買い物も出来ないから失くすなよ。街を出るときには衛兵に返却しろ。よく勘違いするやつがいるが、この札を返却しても払った金は帰ってこないからな」

「はい、わかりました」

「では通ってよし。ソバモリの街へようこそ」 


衛兵が門の前から移動したのでリアナは小さく頭を下げて街へと向かう。俺の目からみたら過剰にも思える大きな門を通り抜けたその先。


そこには初めて見る異世界の街並みが広がっていた。


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