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16 狼狩りをさせてみる

「さあ、くるぞ。体力は大丈夫か?」

「は、はい! この剣のおかげでもう息が整いました」


 さすがは神級の剣だ。ん? つまり天破の剣はいわゆる神剣ってことになるのか。それなら強いのも当たり前だな。今のところリアナに預けてあるのは天破の剣と火滅の長靴だけだが、それでも近接戦闘に重要な敏捷、腕力、体力に大補正がかかっていることになる。グラスウルフのレベルはリアナよりも高く、すべての個体がレベル十以上だが、リアナは【剣術】のスキルもあるし、ビビらなければ問題ないだろう。


「いいか、焦る必要はない。お前に預けてある装備はどちらも凄い性能だし、危なくなったら俺も助ける。それに怪我をしても俺が持っている薬ですぐに治してやる。最悪死んでも生き返らせてやるから安心して戦え。落ち着いて戦えば負けることはない」

「は、はひ!」


 まだ幾分硬さが残るリアナだが、装備の効果は実感できているだろうし、俺が魔法を使えることも、薬を大量に持っていることも知っている。それを再認識して、少しは落ち着いてきたようだ。

 リアナを取り囲んだグラスウルフはその数二十一頭。……さすがに少し多いか。


「よし、後ろは俺が足止めする。お前は好きに戦え」

「わ、わかりまんしぁた。い、いきまひゅ!」


 全然呂律(ろれつ)が回ってないが、やる気はあるみたいだからまあいい。俺は動き始めたリアナの肩の上から振り落とされないように髪の毛をつかみつつ、リアナの周囲を警戒する。俺の【完全察知】MAXがあれば前を見ていても全周囲の状況は把握できる。

 リアナは高い敏捷性を生かすためか、足を止めて戦うのではなく、常に動き回って戦い続けることを選んだらしい。


 グラスウルフたちは突っ込んでくるリアナを警戒して、囲みを変形させて距離を保とうとしているようだが、もともと高めの敏捷性を火滅の長靴で強化されたリアナの動きには対応しきれていない。まず、リアナと正面から向き合っていて一番後退がしづらい体勢だったグラスウルフが追いつかれて頭部を割られた。


 その生死を確認することなく、すぐにステップを踏んだリアナは、速度をほとんど落とさずに右に跳んだ。その角度は恐ろしいことにほぼ九十度。さすがに肩の上から投げ出されてしまうが、腕に絡めた髪の毛にぶら下がって落ちることだけは防ぐ。ついでに後ろから襲いかかろうとしていたグラスウルフ三匹の鼻っ面に【風刃】を二十連発ずつ叩き込んでおく。

 

 ほぼ裸だったゴブリンと違い、毛皮に覆われたグラスウルフには【風刃】を連続で放っても大きな効果は期待できないだろうが、目や耳の内側、そして鼻などの毛に覆われていないところなら多重起動で重ね撃ちすれば足止めぐらいはできる。

 ただ、このリアナの動きは……やばいな。振り回されたからと言って、痛いとか痒いとかはないが、振り回されるのはあまり気持ちのいいものではないし、魔法を放つにしても狙いがつけにくい。まあ【完全察知】で着弾点を指定して打てば、どこに打っても当たるっぽいが、リアナに向かって打つのはまずい。リアナの戦闘スタイルでも大丈夫な定位置を、肩に座る以外で考えなきゃな。  



◇ ◇ ◇

 

「…………これ、で……終わり、です、か?」


 神剣を手に肩で息をしながらリアナがつぶやく。ああ、そのとおりだ。そう答えてやりたいのはやまやまだが、戦闘中に散々振り回されたおかげで完全に酔い、髪の毛に絡まった状態でぐったりしている俺には答える元気がない。


「……あれ? マサヤさん? どこにいます?」


 俺を探してリアナが顔を右、左と巡らせるが……その勢いでまた俺も振り回される。もう、やめてくれ。こんなことなら状態異常系の無効スキルをもらっておけばよかった。


 あれ? でも待てよ。俺には【状態異常無効】はないけど、健康系の【無病息災】はあったはず。だったら状態異常も無効化できるんじゃないのか? 【鑑定】してみるか。


【無病息災】

 発動させることで体を蝕むあらゆる病及び状態異常を癒す。また発動中はあらゆる環境の変化に耐えられる。病や環境の程度によって発動にかかる必要魔力は変わる。


 くっそ! あの駄女神やりやがったな! 普通そういうスキルは常時発動のパッシブスキルだろうが! もし俺がアクティブスキルだってことに気付かなかったら、永遠に死にスキル状態で、麻痺や即死なんかの攻撃受けたら死んでた可能性もあるじゃねぇか! 

 あいつ次会ったらぜってぇ殴る! ……ただ、あんな奴でも神だ、殴っても確実に身を守れるくらい強くなったら召喚してやる。


 とにかく、【無病息災】がアクティブスキルなら魔力が無限状態の俺なら常時発動しておいたほうがいいな。酒とかで酔いたいときだけオフにすればいい。【無病息災】、発動。


「ふう、さすがだな。一気に楽になったぜ」

「あ、マサヤさん。えっと、声がこの辺から……あ、いました。あぁ! すみません! 絡まっちゃったんですね。いま助けますから」


 リアナが俺を見つけて、絡まった髪の毛から解放していく。リアナの肩よりも長く伸びた白い髪は肩に座る俺を隠してくれるいいアイテムなんだが、やっぱり戦闘中は下りるか。

もしくはシートベルト付の専用席かなんかをリアナの体のどっかに設置するとか?  作ること自体は俺のスキルでなんとでもなるからな。


「ふぅ、助かった。戦闘中は居場所を考える必要があるな」

「ふぇ? 頭の上とかですか?」

「ま、候補ではあるが、いろいろ試してみないとな」


 俺を肩の上に戻しながらリアナが候補地をあげてくる。確かに視界の確保という意味では頭上もありだが、揺れという点では肩よりも悪い可能性もあるから次の戦闘時に確認してみないと決められない。頭が駄目なら胸ポケットとか作ってそこに入るとかもありうる。リアナは結構いい胸をしているし、この世界にブラジャーはないだろうから、いいクッションになるはずだ。ぜひ試さねばならないだろう。


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