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15 さらに事情を聞いてみる

「そんなの他の種族は納得しないだろう?」

「私もそう思いました。ですが……影狼、藍狼、紅狼、橙狼の四種族が賛成票を投じたんです」

「すでに根回しは終わっていたってことか……でも、それならもう決まりじゃないのか?」

「はい、悔しいですが掟に従うしかない。そう思ったときでした……蒼狼族のひとりが私を指さして叫んだんです」


『わたしは【鑑定】持ちだ! そしてこのナシャリアナの種族は白狼族である! 彼女には白狼族として一票を投じる権利がある』


「私は驚きました。自分ひとりが違う種族だったなんて、そんなこと知らなかったんだから当たり前です。どうして陽狼族の両親から白狼族が産まれてきたのかはわかりません。でも、【鑑定】を持っていた蒼狼族の人がおそらく思っていたように、私も大好きだった族長を殺したかも知れない人たちに狼牙族を好き勝手にされるのは嫌だったんです……だから私は反対票を投じました。勿論、影狼族たちは抗議しましたが、そのあと鑑定紙を使って私のステータスが公開されると、認めざるを得なくなりました」

「それで同票、か」

「はい」


 なんとなく話が読めてきたな……こいつが死ねないと言っていた意味もこれならわかる。


「それはいつの話だ?」

「三日前です」

「再投票の日は?」

「投票から百日後、あと三カ月くらいです」

「白狼族は本当にお前だけか?」

「はい」

「ひとりしかいない白狼族のお前が死んだら投票はどうなる?」

「……また七種族で執り行われると思います」

「里で命を狙われたな?」

「……はい、私を守ろうとした父が大怪我をしました」


 種族として数がいれば皆殺しにはできないが、ひとりしかいないなら説得するよりも殺してしまった方が早い。そういうことだろう。


「つまりお前を追っているのは、影狼、藍狼、紅狼、橙狼の刺客たちってことか」

「おそらくは。影狼は闇に潜むのがうまい種族で社会の裏の仕事に就くものが多く、そのせいかやや歪んだ思想の持ち主が多いです。私が死んで、このまま影狼が族長になれば間違いなく独裁が始まり、狼牙族全体がどうなってしまうかわかりません」

「ということは……お前は百日後の再投票まで生き延び、再投票で再度反対票を投じる。さらにそのあと行われるであろう族長争奪戦に参加したい。そういうことか?」

「いえ、私に族長は務まりません。辞退が可能なら辞退するつもりですし、それがダメなら即棄権……ですか?」


 俺に聞くな、俺に。


 さて、これでこいつの事情はわかったが……やっぱり面倒なのは変わらない、か。追手も狼系獣人ってことになれば、リアナが持っている【嗅術】スキルくらいは持っているだろうな。となると、いま距離を引き離しても、臭いをたどって追いかけてくる可能性が高い。

 だが、これからいく街に人が多ければ、臭いの特定は難しくなるだろうし、風呂に放り込んで臭いをリセットして、香水なんかでごまかせば次の目的地を悟らせないこともできるはずだ。

 そうやって追手を撒きながら、あっさり死なないようにリアナが強くなってくれればベストだな。さて、どうするか……


 すでに森は抜け、いまは草原をリアナは走っている。リアナのあてにならない説明からすれば、このペースならまもなく街道にぶつかるらしい。街道にさえ出てしまえば明日には街につけるはずだとのことだが……無理をさせて追手から逃げても、疲れて動けないときに魔物や盗賊に襲われたりしたらつまらない。そろそろ一回休憩をいれるか……


 そんなことを考えつつ、リアナの肩に腰かけながら周囲を見回していると【完全察知】に反応があった。


「リアナ! 止まれ。魔物がくる、お前のレベル上げも兼ねて迎え撃つぞ」

「ひゃい! でも、だ、大丈夫でしょうか、私で……」


 俺の指示で立ち止まったリアナはやや乱れた息を整えながら不安そうな視線を向けてくる。


「知らんな。戦うのはお前だし、強くならなきゃいけないのもお前だろ。お前に死なれたら俺もまずいみたいだから、手伝えるなら手伝うがこんな体の俺に頼ってるようじゃ、狼牙族を救うなんて到底無理じゃねぇのか」


 これから追手をかわしつつ三カ月を生き抜き、いつ暗殺されるかもわからない場所に戻り、一族の半分を敵に回して戦おうって人間がこんな街道近くにいる魔物くらい倒せないようじゃまずいだろう。

 ま、こんな偉そうなこと言っても俺の力は女神からもらったチートで、努力は皆無だけどな。


「そ、そうですよね! わかりました。私、頑張ります!」

「よし、剣と靴はそのまま貸してやる。これからくるのは草狼(グラスウルフ)、レベルはお前と大して変わらない。剣と靴で十分戦えるはずだ」

「は、はい!」


 視界に入った魔物の姿を【鑑定】してみたところ、グラスウルフという草原に住む小型の狼系魔物だった。特殊なスキルも持ってないみたいだし、落ち着いて戦えば問題ないだろう。


「一応、確認しておくが狼系の魔物に同族意識とかはないよな?」

「マサヤさん……獣人系の人に対しては同じ質問をしないほうがいいですよ。人族が獣人系の人たちを見下すときの常套句ですから」

「なるほど、獣人系の人にしてみれば魔物の仲間のように思われるのは危険だってことか」


 そんな考えが広まれば、差別の対象にされかねない。そうなれば種族全体が暮らしにくい世界になっていくだろうしな。


「なので、狼系の魔物に対して同族意識はありません。魔物化していない野生の狼種ならある程度意思の疎通も可能なので交渉もできますけど、魔物は無理です」

「わかった。それならここはお前ひとりでやってみろ。危なくなったら助けてやる」

「はい!」



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