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14 事情を聞いてみる

 伝説級の長靴と神級の剣を装備して、ステータスに補正がかかったリアナは持ち前の【脚力強化】と【長駆】スキルの効果もあって、かなりの速度で安定した走りを続けている。

 このペースで走れるなら仮に追手がかかっていたとしても、距離を詰めるには馬に乗るとかの人力以外の方法が必要だろう。


 リアナは馬鹿だ。だからおそらく向かっている街も、ただ単純にスタート地点から一番近い街を選択しているはず。となれば街に到着してものんびりしている訳にはいかないだろう、最低限の準備だけして次の街を目指す必要がある。できればその際にさりげなく目的地の偽装工作ができればいい。


 もし、追手がリアナをよく知る人物であった場合、リアナがひとりで行動していると思っていれば、まさかこの(・・)リアナが偽装工作をするなんて思わないはずだ。


 ……ちっ、『仮に』とか『もし』とか言っている時点で、こんな考え自体が穴だらけのざる(・・)だな。しょうがねぇ、事情を確認するか。


「おい、リアナ」

「ひゃい! な、なんですかマサヤさん」

「走りながら話すのは大丈夫か?」

「このペースでいいなら問題ないです。全力で走るとちょっと難しいですけど」


 ほう、これだけの速度で走っていても全力じゃないのか、装備の底上げがあってもたいしたもんだ。まあ、全力を出せばその分だけ持久力が失われるんだろうから今は必要ないけどな。


「いや、このままのペースでいい。そのかわり今のうちにお前が追われている理由を話せ。逃げるにしても戦うにしても事情が分からねぇと、対策が練れないからな」

「……はい。私は狼牙族の人間です」


 俺の問いかけにリアナは一瞬だけ言葉を詰まらせたが、俺の言葉には逆らえない。すぐに頷くとぽつりぽつりと話し始めた。


「狼牙族? 白狼族じゃないのか?」

「え? どうしてそれを?」

「おっと、すまん、話の腰を折ったな。それはおいおい説明するから続けてくれ」

「は、はい。マサヤさんの言う通り、私は白狼族です。狼牙族というのは狼系獣人の種族全部を表す言葉なんです」


 なるほど、つまり狼牙族という大きな傘の下に白狼族という種族と、その他の狼系獣人種族がいるわけだ。


「もともと狼牙族の中には、紅狼(こうろう)族、蒼狼(そうろう)族、藍狼(らんろう)族、橙狼(とうろう)族、森狼(しんろう)族、陽狼(ようろう)族、影狼(かげろう)族の七つの種族がありました。各種族の特徴は……得意とする能力がそれぞれ違うというのもあるんですが、一番大きな違いは色です。紅狼は赤、蒼狼は青というように髪や尾の色が違います」


 ずいぶんとカラフルな一族だな。赤、青、藍、橙……しんろう? しん? あぁ、森で緑か? じゃあよう(・・)ってのはなんだ? 影は黒だろ。


「よう狼ってのは何色なんだ?」

「陽狼は陽の光を意味していて、黄です」

「なるほどね、ん? お前の白狼族はないのか?」

「はい、私は突然変異のようで……両親は共に陽狼族でした。もともと陽狼族は色の濃い種族ではありませんし、子供のころは種族の色が強く出ないことはよくあることなので、一部から『色なし』と蔑まれながらも最近までは一族の下で普通に暮らしていました」


 閉鎖的な社会じゃ、異端を迫害するってのはよくある話だが……それがなぜ急に逃げ出さなきゃいけなくなるほどに事態が急変したのか、それが核心か。


「決して居心地がいいとは思いませんでしたが、いずれ私にも色が出て皆と同じように狼牙族の一員として生きていけると思っていました。そんなとき……狼牙族を取りまとめていた蒼狼族出身のブルアドゥス族長が急死したんです。穏やかで公平無私、お歳は召されていましたがまだまだお元気で、私のことも他の者と分け隔てなく可愛がってくれた立派な人でした」


 ……ちっ、きなくせぇな。


「死因は?」

「わかりません、遺体を検分した影狼族と藍狼族の者は『外傷はない、天寿をまっとうしたのだろう』と……」

「あぁ……テンプレ的に、それはたぶん嘘だな」

「私もそう思います。影狼と藍狼は適当な言葉を並べ立て、不自然なほどに族長の遺体を他の種族から隠ぺいしていました。陽狼や森狼といった回復系の能力を得意とする者が多い種族にさえもです」


 影狼族っていうだけあって黒いな、毒殺あたりかもな。となると目的は……次期族長か?


「次の族長はどうやって決めるんだ?」

「本来であれば、前族長が自分の種族以外の種族から次期族長を指名します。その指名された者が各種族の代表、四名以上から支持を得られれば前族長が引退後に族長を引き継ぐんです」

「へぇ、この文化レベルにしてはまっとうな選別方法だな」


 一族での独占を防止するために指名は他種族からだけ、さらに少数種族間での談合を避けるために過半数種族の賛同がいるのか。


「四名以上の支持を得られなかったら?」

「そのときは再投票になります。その投票までの間に前族長や、指名された次期族長が反対票の種族へ説得にいきます。だいたいこれで問題は片付いてきたそうです」

「それでもだめだったら?」


 リアナは走る足を緩めないまま、うつむき加減に答える。

 

「……各種族で代表を立て最後まで勝ち残った者の種族が族長です」

「勝負の方法は?」

「まだ決まっていません。そもそも再投票がまだ行われていませんから」

「あぁ? ……っと、ちょっと待て。整理させてくれ、つまり前族長は指名をしてから死んだのか?」

「族長の死を看取ったと言い張る影狼族の長が、死の間際に影狼のシャドゥアギナという若者を指名したと……」


 あっちゃあ、黒い! 黒いよ影狼。そんなの誰が信じるんだっつうの。


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