13 取りあえず街を目指してみる
ひとまず現状確認を終えた俺たちは、明日から街を目指して移動するということを決めて休むことにした。
食事についてだが、俺の持っている食料は俺が食べることにして、基本的にリアナには自分の手持ちの保存食を食べてもらうことにした。これは別に俺がケチっているわけじゃない。体のサイズが違いすぎて肉を999キロ出しても三食分? だいたい一キロが一グラムくらいの感覚か? まあ、俺が寝そべるとだいたいリアナの手のひらくらいだからそんなもんだろう。
そうなってくると俺の食いもんをこいつに分け与えるのは効率が悪すぎる。こいつが持っていた干し肉をひとつ見せてもらったがそれすら俺よりでかい。最初に見たときは十分すぎる量の食材だと思ったが……あのくそ女神め。
幸いポーションなどの薬関係については、地球には無いものだったせいだろう。くそ女神も曲解をいれる余地がなかったようで、こっちの世界基準で準備されていた。だいたいリアナにとっての小瓶サイズ、これが一般的な薬のサイズらしい。
であるならば、最悪こいつらを売りさばけば資金を補充することも可能だろう。エクスポーション、エリクサー、蘇生薬あたりはこの世界でも貴重なはずだからな。
水については魔法の水筒(水無限湧き)が有能だったので問題がなかったのは助かった。
魔法の水筒:S
給水能力:SS 状態変化:S
無限に水を供給する水筒。水筒のサイズは所有者の意思によって変化する。ただし、サイズの変更に応じて魔力を消費する。中身の水も所有者の意思によって温度、水質などを変化させることができる。
こいつがあればお湯を沸かす必要もないし、氷も作ることができる。それに、昨日はテンパっていて気が付かなかったが……水質を変化させることができるということは、硬水、軟水程度の話ではなく、温泉水に変化させることすら可能ということだ。ということは容器さえあればいつでも温泉に入ることができる。
俺には温泉水の詳しい成分はわからないが、変化させるときに『草津温泉の水で四十度』と指定すれば、なんとなくそれっぽいのが出てくる。本当に同一かどうかは知らん。
問題は風呂桶代わりの容器だが、俺の場合はそのへんの石を削ればなんとでもなる。だがリアナを風呂に入れるのはなかなか難しい。大岩でもあれば、中身をくりぬいてやってもいいが……大岩か、どっかで一個見つけて風呂に改造しておけば、あとは俺が無限収納で持っていけるな。同行者が不潔なのは困るし、見つけたら作ってやるか。蚤とか飼われてたら、俺にとっては天敵レベルに危険だ。血でも吸われたらあっというまに干からびてしまう。
極論的な解決方法として、水筒をリアナが入れる風呂サイズに大きくしてそのまま水筒に入るという案もあるが、俺には女の入った後の入浴水をご褒美だと感じる感性はない。それに基本的に飲み水として使うものだし、衛生面からいってもNGだ。
というわけで、俺たちは各自で食事をとり、俺は入浴まで済ませて天幕の中で眠りにつく。
ひとりで森を彷徨っていたリアナは、いままでゆっくり休むこともできず緊張と疲労で困憊していたのだろう。横になると同時に電池が切れたように眠りについた。
そんなリアナの寝顔を眺めながら、俺は溜息をつく。
「なんの因果だろうな。梨菜……名前と面影がよく似たこいつに、お前が引き合わせたのか?」
さっき、リアナには牛肉二十キロ(約一口分)をおすそ分けしてやったんだが、そのうまさに感動し、笑いながら涙を流していた。その嬉しそうな顔が…………別れたくなかったのに離れ離れになってしまった、地球に残してくるしかなかった俺の彼女、といっても正式に彼女になってから数時間で俺は死んでしまったが……その梨菜と一瞬だけ被ってしまった。
梨菜も食べることが大好きだった。高級な料理はまったく喜ばないくせに、場末のラーメン屋や定食屋の焼き魚定食を喜んで食べる……そんな女だった。
「まあ、いいか。男と一心同体になるよりはましだ」
俺はリアナの寝返りに巻き込まれないように距離を取って横になると、ゆっくりと目を閉じた。
◇ ◇ ◇
「…………なんだ?」
翌朝、目を覚ますと正座したまま俺の顔を眺めていたリアナが、白い尻尾を振っていた。
「おはようございます、マサヤさん」
「ん、あぁ、おはよう。早いな」
この世界にきてから常に薄暗かったため時間の感覚はおかしくなりつつあるが、俺の感覚だとまだ早朝、もう少し寝ていたかったんだが……。
「まあいい、とにかく早く街まで着きたいしな。悪いがお前に走ってもらうぞ」
「はい! 走るのは好きなので頑張ります!」
奴隷と同等の待遇になった割にはずいぶんと機嫌がいいな……。一応これからこき使う気、満々なんだが?
「まあいい、確認しておくがお前の事情の中に誰かに追われているとかいう要素はあるか?」
昨日は面倒くさかったから、リアナの事情を詳しく聞いてはいなかった。本人に焦っている素振りがなかったから緊急性はないと判断したせいもあるが、よく考えればこいつは馬鹿だ。確認しておいたほうがいいだろう。水筒から水を飲みながら問いかけた俺にリアナは輝くような笑顔で頷いた。
「はい! たぶんたくさんから追われていると思います! あ、冷たい!」
飲みかけていた水筒の水を思わず吐き出してしまった俺は、即座に水球の魔法を十連発でおでこにお見舞いしてやった。
「馬鹿か! 追われているんだったらなんで昨日のうちに言わないんだ!」
「え、え? 聞かれなかったので……」
「……くっ、お前へのお仕置きと事情を聞くのは後回しだ。すぐに出発するぞ」
「え? は、はい!」
朝食も取らずに天幕を片付けると、靴を履こうとするリアナに待ったをかける。追われているなら少しでも早く街へ向かったほうがいい。
「いいか、お前に俺の装備を貸してやる。こいつを装備するように念じろ」
リアナの手の上に火滅の長靴を取り出すと装備を指示する。
「こんな小さいのは履けないと思うんですけど……」
「いいから早くやれ。昨日から貸してやっている剣もサイズが変わっただろうが」
「あ、はい。そうでしたね、では……えっと、装備。ひゃ!」
リアナが宣言したと同時にリアナの両足にメタリックレッドな伝説の装備が装着される。
「あ……これも凄いです。布の靴を履いているみたいに違和感がなくて……体が軽い」
「よし、こいつを装備してお前の【脚力強化】と【長駆】のスキルを併用すれば一気に距離が稼げるはずだ。追手がどこにいるのか知らないが、ひとまず引き離すぞ」
「はい!」
俺はリアナの靴を無限収納に収納すると、リアナの肩へと乗る。それを確認したリアナは嬉しそうに微笑むと最初はゆっくりと、そして徐々に速度をあげて走り出した。




