1 人生を絶頂してみる
久しぶりに新作を投稿します。
プロローグ部分は今日中に連投し、書き溜めがあるうちは連日投稿を予定しています。
こちらも応援してくださると嬉しいです。
俺はまさに絶頂だった。
なんの取り柄もない普通の人生を送っていた俺だが、大学に入って知り合った友達と遊び半分で作ったゲームアプリが爆発的にヒットした。ちなみに俺がやったのはそっち系に詳しい友人にアイディアを提供しただけ。
だが、俺のアイディアがなければそのアプリも誕生しなかったわけで利益は当然折半だ。すぐに第二弾を製作したが、第一弾の人気も後押ししてそれもヒットするのは前評判段階で確実。
となれば、もう起業するっきゃないってことでふたりで会社を立ち上げ共同経営者になった。俺の手元には去年までの俺では考えられないほどの莫大な金が入ってくるようになった。
金が入ると余裕がでるせいか、女にもモテるようになった。まあ、半分以上は金目当てなのがわかっているから適当に遊ばせてもらったら尾をひかないように別れる。そんな不誠実なことをしていても金があれば、次から次へと女は寄ってくる。
そうなってくると今度は有象無象の女どもがつまらなくなる。俺は高嶺の花だとあきらめていたキャンパスのマドンナに猛アタック。だが、彼女は俺の金には興味を示さない稀有な存在だった。俺はますます彼女に惚れこみ、ひたすら口説いた結果、今日やっとOKの返事をもらった。
二十歳にして結婚前提の付き合いという、いささか重い交際だが彼女となら問題ない。
明日は恋人同士になってからの初デートだ。いままでも食事には何度か付き合ってもらっていたが、正式なデートは明日が初めてになる。年甲斐もなくウキウキしながら明日のデートプランを考えつつ家路を急ぐ。
今日が勝負と思っていたので食事に誘った彼女を時間をかけて口説き、OKをもらったあともしっかりと家まで送り届けていたため周囲はもう暗い。彼女の家が俺の住んでいる部屋とは離れていたため、ぼちぼち日付も変わるだろう。
「早く帰って、明日の服を選んで風呂入って寝ないとな、ん?」
「こら、バーニィ! 暴れちゃ駄目よ」
寝静まりつつある閑静な住宅街を早足で歩く俺の向こうからやってきたのは、大きな犬をつれた金髪の女だった。
こんな深夜に犬の散歩か? なくはないだろうが女ひとりでこんな時間にとなると不自然な感じは拭えない。……それにしてもでかい犬だな。ロバぐらいあるんじゃないか? あんなでかくなる犬種なんていたか? それになんかあったときに、あんな大型犬をみるからに華奢なあの女が抑えられるのか?
俺はちょっと嫌な予感がして、なるべく道の端に寄ってすれ違う。びくびくしながら警戒していたが、女と犬は俺に注意を払うことなく通り過ぎていった。
「ふぅ、なんだか妙に緊張したな。よし、さっさと帰ろう」
長い吐息と共に、いつの間にか入っていた肩の力を抜くと、再び俺は家路を歩きだす。
「明日は無難に映画からいくか……いま面白いのやってたかな?」
確か入れ替わり系のアニメ映画が人気だったはずだが、初デートでアニメはまずいか。そうすると彼女が見ていれば連ドラの完結編の映画か、全米が泣いた系のやつだな。歩きスマホで上映中の映画を調べながらも、脳内では彼女との映画館デートからのプランを着々と組み立てていく。金目当ての有象無象ども相手にはバカらしくてこんな準備をしたことはないが、彼女のためならいくらでもできてしまう。しかも楽しいのだから我ながら現金なものだ、うぶな童貞でもあるまいし。
「駄目! バーニィ! 食べちゃ「え?」」
闇を斬り裂く叫び声に、反射的に振り向いた俺の視界は獣の牙に囲まれた真っ赤な口腔に埋め尽くされていた。
次話は6時です。