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つぼみひらくまで  作者: 真山咲
第一章
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『あのひと』の名前

学園祭が終わって、日常生活が戻って来た。

学園祭の余韻など、感じている暇はない。


西山高校は二学期制で、四月から九月末までが前期。十月からは後期だ。

だから、六月に中間試験で、期末試験が九月にある。

年に四回しか試験が無くていい・・・なんていう甘い考えは許されない。

四回しか無いということは、試験の範囲が広くて。小手先の勉強では間に合わないということだ。

それに、頻繁に小テストはあるし、模試もある。

純の高校生としての生活は、とにかく忙しい。


六月に入って、中間試験が目前に迫っている。

純は『あのひと』を、学園祭以来、見かけることはなかった。

あのダンスのせいで、敏と良太のことは、生徒の中で有名になったようだ。クラスの女子生徒の話題に上がるのを、純は素知らぬふりで聞いていた。

『あのひと』のことが気にならないわけではなかったけれど、純は目の前の試験勉強で精一杯だった。


高校生になって初めての中間試験は、勉強しても勉強しても、し足りないような気がする。

高校受験の時は、自分の希望通りにならなかったけれど、大学は音楽を専攻したい・・・母が通った大学に行きたい。それには、父を納得させるだけの成績を取りたい・・・。

純は、固く決心をしていた。


試験が始まった。

月曜から木曜まで、午前中は試験だけ。

試験が終わったら急いで家に帰って、試験勉強。

火曜日のバイオリンのレッスンは休んでしまった。

『音楽がやりたいから、勉強をする。そのために音楽教室を休む・・・』

純は、その矛盾に目をつぶらなければならなかった。


木曜日の四時間目の試験で、すべてが終わった。

試験勉強をしている間、ずっと読みたくて我慢していた本を借りようと、純は図書室に寄ることにした。

純のいる校舎は一年一組から五組までが二階にあって、三階には男子のみの六組から十組までの教室がある。純の三組の教室を出て四組の前の階段を降りるとすぐに図書室だ。

純が階段に向おうとしたとき、『あのひと』とダンスをした可愛い男の子が、女子生徒二人と話しながら、五組の教室から出て来た。彼が新井良太だと知った。

消去法で『あのひと』が、八組の村上敏だと、初めて分かった。


次の日の授業から、次々と試験が返されて来る。

純の試験結果は、数学と物理、英語関係の試験が満点。

しかし、社会科系の科目は満足できない点数だった。

水曜日、登校すると、廊下の掲示板に試験の結果が四十番まで張り出されていた。

純は、総合点数が学年で二番。

二番は同点が二人。

『あのひと』も自分の名前を目にしてるのかな・・・。純が順位表を目にして考えたことは、そんなことだった。


『あのひと』が『村上敏』だと分かったところで、見かけることはなかった。八組は三階にあって、女子がいないクラスが並んでいる階だから、よほどのことがない限り、クラスの前を通ることもない。

駅で見かけることも無いから、電車通学でもなさそうだった。

純は帰宅部だから、部室の並んでいる裏門の方角にも行かないし、階段付近でも見かけなかった。

純は、話したこともない『あのひと』のことを、ぐずぐず思っている自分自身が理解出来なかった。


七月になり、あと二週間あまりで夏休みになるという、ある日。

化学実験室で授業を受けるため、移動していた廊下で、純は村上敏とすれ違った。

心臓がドキリと音をたてる。

『本当に胸が痛くなるんだ・・・』

純は、その事実に驚く。

友達と話しながら通り過ぎる『あのひと』

純は緊張して震えそうになる。

初めて聞く声。

「そうだね」という優しい相づち。

純には彼だけが周囲と違って見える。

「そうだね」という音が、純の胸の中で温かくリピートした。


でも、夏休み前に純が村上敏を見かけたのは、その一度きりだった。




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