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つぼみひらくまで  作者: 真山咲
第一章
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初めての学園祭

西山高校では、五月の下旬の土曜日に学園祭がある。

五月も中旬すぎると、準備が始まる。

部活に入っている生徒たちは、それぞれの部活での出し物の準備で忙しそうだった。

純もクラスの準備をするために、放課後の教室に残った。

クラスメイト達が、軽音楽部とダンス部の「合同発表会」について話している。

むろん、貴久も出演するから、純は皆が話す内容を興味ぶかく聞いていた。

話題の中に貴久の名前も出ていている。学園祭が初めての一年の女子の間でも有名らしかった。


学園祭の前日、純は貴久からメッセージを貰った。

『必ず合同発表会を見に来い』

いつものように、命令口調だ。


学園祭当日は、朝早くの登校だ。いつもと違う雰囲気の校内。

合同発表会の時間になると、自分のクラスの出し物も放っておいて、ほとんどの生徒が会場の体育館に行ってしまう。

純もクラスの女の子たちと共に、当番を放り出して体育館に向かった。


体育館の入口で配られていたプログラムを一部貰って、中に入る。

人気の出し物だから、座席はすでにほぼ満員だった。

純は運よく、後ろから二番目の列に一つ空席を見つけて座る。

プログラムを確認する。

貴久の出番は六番目で、初めの方だ。

貴久の曲を聴いたら別の出し物を見に行くつもりだ。


オープニングはダンス部と軽音楽部のコラボ。

そのあとは、ダンス部と軽音楽部の演目が交互に進んで行く。

ダンスも音楽も、とても上手くて、見ごたえ充分だ。

もうすぐ、貴久の番。

幕が開く。

貴久はギターを抱え、椅子に座っていた。


曲が始まる。

一人の人をずっと想い続けるという内容の歌詞。

メロディアスだけれど、貴久のハスキーボイスが曲のせつなさを増す。


純は貴久の演奏を見て、一緒に住んでいたころを思い出した。

彼の部屋からギターの音が響いて来たこと。

普段はクールな表情を装っているけれど、貴久は本当は茶目っ気たっぷりで、ボソッと冗談を言って人をを笑わせていたこと。


曲が終わると、一斉に拍手が鳴り響いた。

純も『貴兄さん』に向かって、思い切り手を叩いた。


貴久の曲が終わって純が席を立とうとしたときに、次の演目が始まった。

客席から「おお~っ」という、男子生徒の低いどよめき。女子生徒の黄色い叫び声も上がる。

テクノポップが流れて、舞台で踊り始める二人は、女装した男の子だ。

純も知っている有名なテクノポップグループのダンスをコピーして踊っている。

一人は背が高くて茶色のロングストレートのウィッグを着けている。

もう一人は可愛らしい黒い巻き毛のウィッグで、小柄な男の子だ。

純はストレートヘアの男の子から、目が離せなくなった。

恥ずかしそうに踊るその男の子は、大人っぽくて綺麗で、何よりとても優しそうに見える。

『あんなお姉さんがいたらいいのにな・・・』そんな気持ちだった。

『お兄さん』ではなく、優しい『お姉さん』が欲しかった。

女装する男の子に、そんな気持ちを抱いて釘付けになるなんて、純は自分の気持ちに戸惑う。

歓声も上がる中、演目が終了して舞台の幕が閉じると、純はすぐにプログラムを確認した。

二人は一年八組の村上敏むらかみさとしと一年五組の新井良太あらいりょうただという。

純には、どちらが敏でどちらが良太なのか分からなかったけれど、不思議な高揚感を感じて、彼らが出演する演目を全て見終わるまで、座席から離れられなかった。

ただ、ダンス部の一年生の中に、純と同じ福山中学から来た神山明和かみやまあきかずがいることがわかった。

神山は中学三年の時、同じクラスだった。気さくで冗談が好きで明るい神山。彼に『あの人』の名前を教えてもらえたら・・・。そう思ったけれど、中学時代、無口な純は神山と話した覚えもない。そんな自分に、純は心底がっかりしてしまった。

『すこしでも神山君と親しかったら、ちょっと聞いてみることも出来るのに・・・』

自分の引っ込み思案な性格に初めて焦燥感を覚えた。



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