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つぼみひらくまで  作者: 真山咲
第一章
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ひとりの日を重ねて

高校生になった純の毎日は、朝食と自分のお弁当作りから始まる。

金松の家にいたときは、伯母の京子の手伝いをして食事を作っていたから、慣れたものだ。

家政婦の藤井が食材を用意しておいてくれるし、金松家のように食べ盛りの男の子がいるわけではないから、今の方が楽なくらいだ。

父親の勝と二人きりの朝食は物足りなかった。

夕食は午後から来る藤井が用意してくれる。

藤井は物腰の柔らかい女性だった。純は玄関に出迎えてくれる彼女の笑顔に、安心感を覚えていた。

にぎやかな金松の家に慣れていた純には、本当の自分の家の方が違和感を感じていたから。

夕食の準備が済むと、藤井は帰って行く。

勝が早く帰れる日は、一緒に夕食を食べることはあるけれど、ほとんどが純ひとりの夕食だった。


一つ年下の泰久やすひさが邪魔することもないから、読書も静かに出来る。

お風呂の順番も気にしなくてよかった。

毎週かかさず見ていた音楽番組も、あれこれ批評めいたことを言う貴久もいないから、曲に集中して見ることが出来た。

「静かすぎる・・・」

音楽番組なのに、純はそんな独り言を言いそうになった。


高校の授業は、純が想像していたより、充実していて楽しかった。

西山高校は、聞いていた通り授業は厳しいし、宿題もたくさん出た。小テストも頻繁にあって忙しい。

純には火曜日のバイオリンのレッスン、土曜日の午後にはピアノもあるから、そのための練習も欠かせない。

藤井がほとんどやってくれるとは言え、家事も多少ある。

純は時間を有効に使おうと、出来るだけ学校で復習や宿題を済ませることにした。

昼休みは、食事を終えると図書室に向かい、読書コーナーで勉強をする。

最初、自習室に行ってみたのだが、三年生でいっぱいで一年生の座る席などなかった。しかたなく図書室の読書コーナーの隅っこに場所をとることになった。


高校生活の一番の問題は、弁当の時間だった。

三組に十二人いる女子の全員が教室で食事をするわけではないけれど、日にちが経つにしたがって自然とグループが出来てくる。でも、それらのグループのどれにも、純は属することが出来なかった。

入学当日に決められた席順のときには、自分の席に座ったままでも、なんとなく女子に混じったように見せかけて、昼食の時間を過ごせたけれど、席替えをしてからは自然と一人になってしまった。

時間を惜しんで食事をしていた彼女は、それが好都合のようにも思え、積極的にグループに加わらなかった。


四月の終わりには、遠足があった。

遠足はクラス単位で生徒が行き先を自由に決める。

一年三組は、学校からバスで三十分くらいのところにある海浜公園に行くことになった。

海浜公園には、大きな水族館があり、遊園地も併設されている。

一人で水族館で魚たちを見ると、遊園地には入らず、公園のベンチに座った。そして自分で作ったサンドイッチを広げる。

海からの風が心地よい。

スマホにメッセージの着信音が鳴った。

貴久からだ。

『一年三組はどこに行ってるの?』

純は水族館の外観を写真に収めて送信し、

『氷川海浜公園。貴兄さんはどこ?』

と、メッセージを送った。

貴久からは、二つの写真が送られて来た。

どこか緑の豊かそうな場所と、見たことのない校舎らしき建物の画像。

続いてメッセージ。

『緑山公園。緑山女子学園が良く見える』

緑山公園は、なだらかな丘の全体が公園だ。桜の季節は花見客でいっぱいになることで有名だけれど、近隣の男子高生の中では、緑山女子学園高校がよく見える公園として知られている。

そこで昼食をとっているらしい。

貴久の二年七組は男子しかいないから、面白半分で、女子高の裏手に行くことになったのだろう。

純はスマホを見つめ、思わず笑ってしまった。

今日の一番の思い出は、水族館より、この写真かもしれない。

『呆れた!』

一言返信する。

貴久からば、『爆笑』を意味するスタンプが送られて来た。

キラキラ光に輝く春の海に、貴久の笑い顔が映っているような気がした。








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