表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
つぼみひらくまで  作者: 真山咲
第一章
11/74

似て非なる同じ道

次の火曜日、純がバイオリンのレッスンに行くと、辺見憲人が待っていた。

仲間うちで、バイオリンとピアノの両方を習っているのは、純と憲人だけだ。

「相談があるんだ」

一つ年下だけれど、いつも憲人は純に対してタメ口。

「なに?」

他の生徒の邪魔にならないように、レッスン室の外の廊下に出た。

「うちの母さんを説得してほしいんだ」

憲人が神妙な顔つきで純に頼み込む。

「説得?」

「僕、高校は、音楽科を受けない・・・」

「え?なんで?」

憲人の母親は、上原大学の音楽科で教えるバイオリンの先生だ。憲人が音楽の道に進むのを応援しているはずだ。

「僕、西山高校に行きたいんだ」

「うちの高校へ?なんで?」

「なんでって・・・それは・・・」

レッスン室から誰かの弾くバイオリンの音だけが響く。

「憲人はこの先、音楽でやって行くんじゃないの?」

「それは、そのつもりだけど、高校は西山高校に行きたいんだ。だから・・・」

憲人はすがるように純を見つめた。

「それで、私に説得して欲しいのね?」

純は暫く考えてから、返事をした。

「それは、無理」

出来るだけ優しい声で、でもキッパリと言う。

「え?どうして?どうしてダメなの?」

いつもは気の強い憲人が、涙を見せるのではないかと思うほど震える声。

「私が、自分自身が・・・行きたい高校に行けなかったの、分かってるでしょ?自分の父ですら説得できなかったのに、小母様を説得できるわけ・・・無い。違うかな?」

「ダメ、かなぁ」

憲人は純の手を握りしめ、すがりついた。

二人で泣きそうな顔で、お互いの手を握りしめたまま、立ち尽くした。

『何か、いい方法はないのかな?』

純は必死で思いを巡らす。

「ね、私、音楽科を受けさせてもらえなかった理由が『音楽ばかりだと視野が狭くなる』だったの。これ使えないかな?」

憲人はしょげた顔のまま、純を見返した。

「音楽ばかりじゃなく、ほかの勉強もしたい・・・ってこと?」

「西山高校に入って、音楽だけじゃなく色んな経験したい・・・とか?」

憲人を励ます。

「なんとかなるかな?母さんを説得出来るかな?」

自信たっぷりのいつもの憲人が別人のようにうなだれている。

「自分の将来のことだから、自分で説得出来ないとダメじゃない?」

「そうだね・・・そうだよね。頑張ってみる。やっぱり純ちゃんに相談してよかった」

少し自信を取り戻したようだ。純もホッとした。

「頑張ってね」

「うん」

憲人はもう一度ギュっと純の手を握りしめ、大げさな握手をするようにブンブン振り回した。


純が、その週の土曜日のピアノのレッスンに行くと、すでに憲人がレッスンを受けていた。

翔も、いつもいるはずの渡も、まだ姿を見せていない。

純はレッスン室の隅にある椅子に座って順番を待つ。

憲人のピアノの音色は格別だ。同じピアノを弾いているのに、こうも違うものかと、改めて純は思う。

しかも、憲人はピアノよりバイオリンの方が得意なのだ。

純は自信を失くしそうになる。


憲人の順番が終わった。

冷房が効いているはずなのに、汗を拭きながらやって来る憲人。自分より背が低くて子供だと思っていたのに、いつの間にか背丈も追い越されている。特に、今日は大人びて見えて、純は目を見張った。

憲人は純に気が付くと、満面の笑みを浮かべた。

「報告があるんだ。母さんを説得したよ。純ちゃんのおがげだ。ありがとう。

「よかったね。西山高校、受けるの?」

「受験するのは、西山高校と菊川学園、上原大学付属の音楽科の三つ。母さんが上原はすべりどめに受けなさいって。でも、西山高校が受かったら、行っていいって言ってくれたんだ」

「よかったね」

純も笑顔になる。

「うん。でも、受かったらってことだよ。勉強頑張らないと・・・純ちゃんみたいに勉強ができるわけじゃないから」

「頑張ってね、勉強。待ってるから」

憲人は、純の『待ってるから』の言葉に破顔した。


純は、上機嫌の憲人を見ていると、入試もまだまだ先なのに、すぐにでも入学して来そうな気がした。

親も希望していて音楽科に入れるのに、西山高校に入りたい憲人。

音楽科に行きたいのに、受験さえもさせてもらえず、西山高校に入った自分。

似ているような、違うような・・・。

純は笑顔の憲人を見つめて、考えに沈んでいた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ