関心事
「これはこれは田中さんではありませんか?」
「鈴木さんですか。お久しぶりですね。以前あったのは……1万年程前でしたか?」
「いえいえ違いますよ。確か10万年くらい前です」
「あ、そうでしたか。いやはや、時が経つのは早いものですな」
「ところで最近は何をしてらっしゃいますか?」
「死について考えてますね」
「田中さんもでしたか! いや〜実のところもう他にやることがなくなってしまったんですよ」
「私もそうですね。死ぬ以外のことは全て経験したと思います」
「しかしこうして死についてばかり考えてしまうのも必然なんですかね」
「まあ死ぬことができないですからね」
「逆に言えば死ぬこと以外は何でもできるんですが……。ここまで来て全てを知ることができないというのも虚しいですな」
「おっしゃる通りです。私もここのところ虚しさばかりを感じています」
「それにしても興味深いと思いませんか?」
「何がでしょう?」
「死について考えているということですよ。まだ死ぬことが当たり前だった頃も死について考えていたそうではありませんか」
「確かにそうですね。だからこそ不死身を目指してここまで発展することができたのだと思います。結局人はどんな形であれ死から逃れることはできないんでしょう」
「そうでしょうね。そういう生き物なんだと思います。生まれては死んでいくというサイクルから人々は虚しさを感じていたそうですが、死ななくなっても虚しさを感じてしまうだなんて皮肉なものですよね」
「全くですよ。でも鈴木さんのように同じことを考えている方がいらっしゃるとは。ここで出会ったのも何かの縁です。一緒にこれを飲んでみませんか?」
「何です、これは?」
「死の薬ですよ」
「えっ!? 私達も死ぬことができるんですか!?」
「ええ、そのようです」
「それにしたってこんなもの一体どこで?」
「つい先程友人から渡されたものでして、これから家に帰って飲もうと考えていたんです。どうです? 飲みます?」
「はい! 是非!」
「う〜ん、効果はなさそうですね……」
「期待させておいて申し訳ないです」
「いえいえお気になさらないでください。そもそも死ぬなんて不可能なんですから」
「現実はそうなんですよね」
「はい。悲しい現実です」
「死にたいなあ……」
「死にたいですね……」