side アイリス
「魔族の大群が王国に侵攻を……!」
その兵士の言葉はしたたかに私の頭を打ちました。
そのせいで体から力が抜けて倒れこんでしまいます。
「あ、アイリス!」
近くにいた信志さんがなんとか支えてくれますが、お礼の言葉も出ません。
「……状況は?」
「はい、国の郊外に転移陣が出現。そこから魔族が溢れてきています。
今はまだ、数が多いだけなので、戦線は破られていませんが、それも時間の問題かと。」
「わかりました。テト。……先行、お願いできますか。」
「オッケーにゃ、ナルメアねぇ。」
その間にナルメア姉様がテト姉様を呼びます。
軽業師は足の速い役割なので先に状況を確認してもらうのでしょう。
「待った、それには俺も同行しよう。」
そこに待ったをかけるのは小太郎さん。
「……うん、お願いコタロー。」
「ふっ、無論だ。」
二人はそのまま駆け出しました。
……すごい、テト姉様について行ってる。
「……大丈夫?アイリス。」
そこまで考えたところで、信志さんに支えてもらってたままのことを思い出し、慌てて体を起こします。
「す、すいません、ありがとうございます。」
「……うん、無理はしないようにね。」
神殿から出て、馬車のところまで戻ると、すでに出発の準備ができており、あとは私たちが乗るだけでした。
「では、急ぎましょう。」
4人が乗り込むとナルメア姉様が御者の人に出発を促します。
先に行った二人はもう見えません。
私たちも急がなくては。
行きよりも揺れる馬車の中、私はその気持ちでいっぱいになっていました。
「こっちはダメだ、もう火が……!」
「まだ子供がいるんです!誰か……!」
近づくにつれて人の声が、物の壊れる音が大きくなります。
「では、これからのことです。」
ナルメア姉様は冷静に今をどうにかしようとしてる。
私も……。
「お父様、……国王は有事の際、国民を城へと避難させるでしょう。
なのでまずは、そこへ向かいましょう。」
「わかりました。ではそこまでの間、魔族は俺が引き受けます。」
「……勇者様。力があると言っても、それはまだ得たばかりのものです。
あまり無理はなさらないでくださいね。」
「ボクは戦闘には不向きだけど、最低限周りには気を配っておくよ。気をつけて。」
「ああ、ありがとう。」
私にできることは……。
「傷ついたら、私に言ってくださいね。すぐに治しますから。」
「そうね、お願いアイリス。でも使いすぎないようにね。
城にどれくらい負傷者がいるか分からないから。」
途中でけが人に出会っても足を止めないようにナルメア姉様から釘を刺されます。
うぅ……、確かにその通りです。でも、応急手当なら、いいです、よね?
「ここでいいわ、停めて。」
「は?しかし……。」
「いいの、停めて。」
城までもう少しというところでナルメア姉様が馬車を止めます。
姉様もけが人を放っておくことはできないみたいです。
「ここからは歩いて向かいます。
あなたたちは、けが人の搬送を。」
「は、はい!」
私たちが乗っていた馬車は、そのまま街の中へ向かいます。
では私たちも……。
「見つけた!ナルメアねぇ、アイリス!」
城へ歩み出そうとした瞬間、声と一緒に二人が降ってきました。
先に駆けつけていたテト姉様と小太郎さんです。
「お疲れ様、テト。どうでした?」
「うん、町の中にいた魔族はあらかた片付いてるみたいにゃ。
でも、城の方にも何人か行ったみたい。」
「そう、ありがとう。ではこのまま城へ向かいましょう。」
5人の顔を見回してナルメア姉様が方針を決めます。
城には精鋭の部隊が控えているはず。
そう、思いながらも私たちは足を速めました。
「これは……。」
城にたどり着いた私たちが見たのは、『いつもと変わらない』景色。
「おかしい。街の方は火の手まで上がっていたのに。」
正輝さんの言う通り、どこも壊されてなく、争った形跡もありません。
「……今は進みましょう。」
「っ!あれは!」
ナルメア姉様が進み始めるのと同時に、正輝さんが声をあげます。
「今、向こうの部屋で何かが光った!」
そう言って指差す先は……、お父様の部屋!
「っ!」
私はついに、一も二もなく走り出しました。
『いつもの』廊下。『見慣れた』中庭。『通りなれた』道順。
いくつもの『普通』が心を焦らせます。
ハァ、ハァ、ハァ……!
息せき切ってたどり着いた扉。
この中に、お父様が……!
「アイリス!」
後ろから信志さんたちが追いついてきました。
その勢いのまま。
バンッ
開いた扉に流れ込み、そして。
「あら、もう来たの。」
うつ伏せに倒れ伏したお父様と、そばに立つ女魔族。
「「「お父様!!」」」
姉様二人と私の叫びが重なります。
そんな私たちを尻目に、
「そっちの三人が勇者か。さすがにこのまま戦うのはまずそうね……。」
魔族がつぶやきます。
「逃すと思うか?」
一歩前に出た正輝さんが剣を召喚し構えます。
「お前はここで倒す!ハァ!」
そのまま切り掛かります。が、
「フフ、まだまだ甘いわね。『コール・アビス』!」
魔族は剣戟を躱した後、手を突きつけて呪文を唱えます。
「これは……。」
その手から黒い煙が出てきます。
「させません。『クリア・ウィンド』!」
視界を奪う煙を退けようと、ナルメア姉様が魔法を取り消しにかかります。
しかし、
「目的は達成したし、今回はここで引かせてもらうわ。」
その一言を残して、魔族は姿を消していました。
後に残ったのは、私たち六人。
そして。
この騒ぎにも身じろぎ一つしない、倒れたお父様だけでした。
一応、学生の身なので急いでもこの辺が限界ですかね。
なんとか定期更新していきたいところです。
隔週更新にしようかとも思いましたがこれなら毎週、ぐらいならなんとかなりそうです。
それではまた来週、この時間で更新予定としておきます。
お読みくださってる方、ありがとうございます。
もう少しで主人公が主人公し始めるかと思うので、ご期待くださいね。