side アイリス
ユーア大陸の北側。その首都として栄えるのがここ、ユーステス。
その王宮内の一室で私、アイリスは目を覚まします。
「おはようございます、姫様。」
「おはようございます。今日はよろしくお願いしますね。」
部屋に来たメイドと支度を整えていき、準備ができるとそのまま部屋を出る。
「おっはよー、アイリスー。」
「きゃっ。…もう急に抱きつかないでください、テト姉様。」
「にゃはは。ごめんごめん。」
廊下を歩いていたところに姉妹で次女に当たるテト姉様に抱きつかれてしまいます。
もう、相変わらずですね……って。
「ど、どこ触ってるんですか!」
「にゅふふ。アイリスっていい匂いするよねー。」
だんだんエスカレートしてくる姉様の行いから、なんとか抜け出そうとしてると、
「こらこら、そこまでにしておきなさい。テト。」
廊下の先からナルメア姉様がやってきました。
「ナ、ナルメア姉様!」
「にゃはは、ナルメアねぇもおはよー」
その姿を見てテト姉様も一度離れてくれます。
「おはよう、テト、アイリス。二人の仲がいいのは良い事だけど、そろそろ時間よ?」
そのナルメア姉様の言葉にテト姉様がびくりと体を震わせました。
もしや……。
「テト姉様。もしやお父様の元へ行く事を、忘れてらしたんですか?」
「そそそ、そんな事ないよー」
目が明後日の方向を向いている上に、額には汗が。
「そんな事だろうと思ったから迎えに来たのよ。」
はぁ、とため息をついてナルメア姉様が歩き出します。それに続いてテト姉様も。
「どうしたの?アイリス。」
姉様たちが歩くのをぼんやりと見てしまっていた私に、ナルメア姉様が振り返って呼びかけます。
いけない。これでは、また心配させてしまう……。
「い、今行きます!」
わたわたと慌てながらも二人の後をついていきます。そして。
「勇者召喚、ですか?」
お父様からされた話は私たち三人にとっての転機となるお話でした。
「勇者召喚って、あの?」
思わず呟いてしまった私に続く形で、ナルメア姉様もお父様に尋ねます。
「左様。人間と魔族との間で戦争が起こり始めてからもう何年になるか……。」
私たちの住むユーア大陸から海を挟んだ向こう側、アズモ大陸と呼ばれている場所にいる「魔族」。
数百年前に起きた魔族からの侵略によって大打撃を受けたご先祖様たちは、必死に抵抗。
なんとかその場は凌いだものの、以来、ずっと戦争が続いている状態です。
「最近は魔族の力も強まっているようじゃ。星術師の話では、魔王が誕生したのではないかとも聞いておる。
そこで、我が国は勇者を召喚することに決めた。」
この国では過去に何度か勇者を異世界より召喚、そして送還した記録が残っている。
しかし勇者といえど異世界の人物を強制的に召喚し、挙句魔族との戦いに巻き込んでしまうのは、あまりにも身勝手なことです。
そのためお父様もしばらくの間敬遠されてきた技術のはずですが、やはり魔王とはそれほど強力ということでしょうか。
「不甲斐ない事だが、儂には国の民を守る義務がある。ナルメア、テト、アイリス。どうか儂のこの頼みを聞き入れてくれ。」
「もちろんです、お父様。」
「そんなの朝飯前にゃ。」
「わ、私も頑張ります。」
こうして私達は異世界の勇者様を召喚する運びになったのです。
その日の夜。
お父様や大臣達は姉様達や私が断るとは思っていなかったため、早速召喚の儀が行われます。
と言っても、儀式に必要な魔法陣はすでにご先祖様によって引かれ、使用する魔力も夜空に浮かぶ月の魔力を借りるため、私達の役目はほんの少しだけです。
「では、始めましょう。」
ナルメア姉様が厳かに言って陣に手を伸ばします。
テト姉様と私も同様にしたのちに、月の魔力が流し込まれていきます。
カッ。
途端に魔法陣から閃光がほとばしります。
しかし、その目を焼くような閃光も一瞬ののちに収まり、空へと吸い込まれていきます。
そのまま、三つの光の玉を残して完全に消え去りました。
現れた3つの光の玉は、地上にいる私達の前に緩やかに落下すると音もなく割れ、粒子となって消えていきます。
その中にいた三人の人達を見て、私は足から力が抜けそうになりました。
良かった。無事に召喚する事が出来たみたい……。