side 信志
黒、黒、白。
黒、白。
あ、緑。
白、白、黒、白。
一面黒に染まった中、幾つもの光がボクの周りで弾ける。
(……え?なんだこれ?)
自分以外の物体が見当たらず、光が瞬き続けると言ったおおよそ現実ではあり得ない現象。
普通なら恐怖などで叫んだり悲しみに暮れそうなものだが、ボクの心は落ち着いていた。
なぜかって?そりゃあ−−−。
(あぁ、ボク死ぬのか。)
ここまでの異常事態ともなれば返って冷静にもなろう。
それにボクにこの状況を覆すような力があるわけでもない。
ならば足掻くだけ無駄というものだ。
そうして結論付けたボク、椿信志はとりあえず目を閉じる。
しかし、そのまま待てど暮らせど一向に変化は起ず、
うっすらと目を開けてみるも周りの景色はほとんど変わらない。
まるで信志の思考を読み取ってそうはすまい、と何かの意思でも働いているかのように
空間は静寂が満ち、景色も変わらない。
しかし前述の通り信志には現状を打開する術がない。
それならば、暇つぶしに妄想の世界にでも浸ってみるかと、
もう一度しっかり目を閉じる。
(こういう空間ってファンタジー小説とかだと、どこかに転移させられる時にありそうだよなぁ……。)
転移。
異世界なんかから、かわいい巫女さんあたりが主人公を召喚したりする、あれ。
もちろん実体験なんてないのでどんな風になるのかは知らないけど。
(もしそうだとすると次に起こるのってなんだろ?
んー誰かが呼ぶ声がするとか、落下、とか……?
…………落下!?)
自問自答し最後に驚愕までした直後。
まるで測ったかのようなタイミングでそれは起こった。
すなわち…………落下。
「やっぱりいいいぃぃぃぃぃ!!」
すごい勢いで周りの光が上に流れていく。
そう、思うことで自分が落ちているのではなく、周りが上昇しているのだと自分に言い聞かせても、
頭上でわっさわっさと荒ぶる髪の毛が落ちていることを証明してくる。
先ほどまでの諦観と落ち着きはどこかへ消え去り、原始的な恐怖が信志を支配していた。
そんな中、信志の目が、自らに近づいてくる光を捉える。
それはどんどん近づいて、遂には……。
「わぷ……。」
意味不明な音を漏らした信志を飲み込み、
そのあまりの眩しさにとうとう信志は目を閉じて意識を手放してしまった。