第3話 「旅の魔法使い」 エリア:終焉の森
ズシャッ!
何かを切り裂く音が辺りに響き渡る。
俺は走るのをやめ、恐る恐る後ろに振り向いた。
すると、ほんの少し後ろの場所でキメラの頭2つが首の辺りから切断されているのだ。
切り口からは血が噴き出し、地面に真っ赤な水たまりを作っている。
不思議と血なまぐささはしない。
しかし……一体誰が?
「それをやったのは私です」
「え……?」
そう言って俺の前に姿を現したのは闇夜に紛れる漆黒のローブを身に纏い、プラチナのように神々しく輝く白銀の長い髪に目が惹かれる謎の人物だった。
顔には髪と同じ白銀の仮面を着けているため表情が見れない。
俺は鞘から錆びた剣を抜き、身構えた。
「そう身構えなくても大丈夫ですよ。私はキメラに襲われていた貴方を助けたかっただけですから」
「本当に?」
「ええ、本当です」
その答えを聞いて俺は剣をゆっくりと鞘に納めた。
無暗に人を疑うのはよくない。
それにもしキメラを倒したのが本当にこの人なら俺が戦っても勝てないだろう。
「剣を構えてすみません。助けてくれてありがとうございました」
俺は深々と頭を下げお詫びとお礼をする。
「いえいえ、大丈夫ですよ。申し遅れました、私の名前はルーシー、旅の魔法使いです」
それから俺も自己紹介をし、ルーシー(呼び捨てでいいらしい)から色々な情報を聞いた。
「まず、この森についてからですね」
「お願いします」
「はい。まず、この森は終焉の森と呼ばれる場所でアルシア王国という国の南部に位置しています。東西南北を山脈に挟まれているため通常この森には地下にある洞窟を通らないと入れません」
「ルーシーも洞窟を通ってきたのか?」
「ええ、何時間もかかって大変でした。洞窟内とこの終焉の森は高レベルのモンスターが多く現れる危険地帯なので奇襲などに気をつけないと一瞬で殺されちゃいますから」
こ、高レベルのモンスターが現れる危険地帯!?
ルシフェルめ……転移先がランダムだからってとんでもない所に送りやがったな……!!
冷めていた怒りが再び熱を持ったが、ルーシーの前で愚痴を言うわけにもいかず我慢をする。
クールになるんだ、俺!
「次はルーシーについて教えてくれ」
「いいですよ。まず私は旅の途中にこの終焉の森に立ち寄りました。目的は終焉の森中央にある石切り場の調査です」
「石切り場? そこに何かあるのか?」
何の為に石切り場に行くのか疑問に思った俺はルーシーに質問をした。
「実は、石切り場の地下には古代文明の遺跡が存在する可能性があるのです。さらに、その古代文明の遺跡には太古秘法が眠っている可能性があるのです!」
「太古の秘宝?」
「はい。詳しくは言えませんが、太古の秘法というのは大昔に作られた兵器のことです」
「大昔に作られた兵器……か」
この世界は兵器はどんな物なのだろう?
いくつかの疑問が浮かび上がったが、無理して聞くことでもない。
それに、もっと知りたいことがある。
「あと、ルーシーはなんで仮面なんて着けてるだ?」
「そ、それはですね……か、顔を人に見られるのが苦手だからなんです」
ルーシーは恥ずかしそうに答える。
「ルーシーの顔見てみたいなー」
俺はふざけてそう言った。
すると――
「嫌ですっ!!」
断固拒否されました。
悲しい……
「最後に魔王について聞いていいか?」
「魔王のことですね、わかりました。魔王は多くの部下を従えアルシア王国北部を支配しました。その場所は今では魔王領と呼ばれています」
「魔王領……」
「はい。魔王は領地の最北端に城を構え、アラクワ王国王都に向けて進軍を続けています。すでにアラクワ王国北部にあった防衛要塞は五割が陥落してしまいました。残り半分が陥落するのも時間の問題です」
そんなに深刻な状況なのか……
正直、俺がどんなに頑張ろうと1年や2年で魔王を倒すことは多分できない。
それに魔王についての情報が少なすぎる。
今は情報収集に力を入れよう。
「ルーシー、魔王っていつ頃に現れたんだ?」
「魔王は50年ほど前に突然現れました。それから魔王は世界中の国々を侵略し、この50年の間に7つの国が滅ぼされました。そして、5年前にこのアルシア王国も魔王の標的にされてしまいました。たった5年の間に何百万という人が魔王の部下たちに殺されてしまい、国王もなんとか魔王に対抗しようと勇者率いる王国精鋭部隊が魔王討伐のために魔王領へ遠征に向かっています」
「そうだったのか……」
「はい。以上が私の知っている全ての情報です」
「ありがとうルーシー、助かったよ」
ルーシーのおかげ多くの情報を得ることができた。
感謝しないとな。
「それでは私から1つ質問してもよろしいですか?」
今度はルーシーが俺に何か質問があるらしい。
「おう、なんでも聞いてくれ」
「それでは……貴方はどうしてこんな森にいるんですか? 傷ついたら申し訳ありませんがキメラも倒せないのにこの森に来たというのなら、それはとても愚かな行為ですよ?」
ルーシーの言葉が胸に刺さる。
俺だって来たくて来たわけじゃないのに……
「こういう理由があって……」
とりあえず俺はルーシーに今までの経緯を説明した。
大天使ルシフェルのことや異世界転移のことを信じてもらえるとは思っていなかったがルーシーは疑うことなく信じてくれた。
ルシフェルの名前を出した時にルーシーの躰がビクッと震えたことが何か関係しているのだろうか?
まあいいや。
ルーシーに一通りの経緯を説明し終えると、彼女はこんな提案を出してくれた。
「よかったら私と一緒に石切り場に行きませんか? 石切り場には昔使われていた転移装置があるので王国の最南端にある貿易都市サウザンに転送して差し上げますよ?」
「提案はありがたいけど俺、魔法が効かなくて……」
そう、俺には絶対魔法耐性がある。
転移なんて明らかに魔法だ、俺に効くはずがない。
つまり転移できない。
「そうですか、貴方は絶対魔法耐性持ちなんですね」
「絶対魔法耐性のこと知ってるのか?」
「ええ、もちろん。安心してください、転移はできます。石切り場にある転移装置は特別製でして、魔力の消費量は通常の二倍ですけど絶対魔法耐性持ちでも転移させることができます」
俺はその説明を聞いた瞬間行動に移った。
「どうか俺を転移させてください!!」
DOGEZAだ。
額を地面に擦り付け、誠意を示す。
「そ、そんなことしなくても大丈夫ですよ! ちゃんと転送して差し上げます! お願いですから顔を上げてください!!」
ルーシーの声は夜の森に反響していった。