第1話 「すべての始まり」エリア: ?
「増井悠さん、ようこそ死後の世界へ」
眠りから覚めたら真っ黒な空間にいた。
何この状況?
突然の事で何がなんだかわからない。
空間の中には物は1つも無く、俺に死後の世界とか訳のわからないことを言ってきた相手が立っているだけ。
女神……いや、天使と言うべきか。
テレビやライブで見るアイドルとは別次元の、人間離れした美貌。
淡い光を放つ雪原のように美しい白銀の長い髪。
年は俺より少し上だろうか、お姉さんオーラを醸し出している。
少し小ぶりな胸を除けば完璧な躰は、髪と同じ色の白銀のローブに包まれている。
その美少女は、真紅の瞳をまばたきさせ、困惑している俺をじっと見ていた。
「あの、俺が死んだってどういうことですか?」
俺は日本のとある田舎に住んでいて、自慢じゃないが学校にも行かず家に引き籠もってゲームをしたりラノベを読んだりしていた。
今日だって朝までずっとネトゲをプレイしていたのだ。
そもそも、ゲームは全てネット通販やオークションで買い、家まで届けてもらっているから外に出ることはまず無い。
つまり俺が死んでしまう要素なんて1つもないという事だ。
「貴方は確かに死にました。死因は……ちょっと言えません」
目の前の美少女は挙動不審になっている。
怪しいな……
俺は美少女に問いかける。
「なんで死因が言えないんですか? 言ってくださいよ」
すると、美少女はゆっくりと答えてくれた。
「貴方は爆死しました」
「……あの、訳がわかりません」
爆死したってどういう意味なの?
ソシャゲのガチャの事?
「実は貴方の住んでいる家の地下に爆弾がありまして」
どう考えても嘘だろ。
家の地下に爆弾があるって……
「嘘はやめてくださいよ、爆弾なんてあるはずがないでしょう?」
そもそも地下に爆弾がある場所の上に家を建てるはずがないだろう。
「いえ、それが……貴方の家がある場所の地下には昔、爆弾や地雷などの保管庫があったのです」
「そんな話一度も聞いたことないですよ」
「確かに貴方の国の政府が隠蔽してたのですから知る術は無いでしょう」
「い、隠蔽?」
「ええ、戦争時代の遺物を公の存在にすることができなかったからです」
マジか……
確かに俺の家がある場所は昔、軍事基地があったという話は聞いた事があったが、まさか爆弾の保管庫まであったとは知らなかったぞ。
「貴方の両親はちょうどゴールデンウィーク中の旅行で家を出ていましたから爆発には巻き込まれませんでしたが、引き篭もりをしていた貴方はその爆発に巻き込まれ、家ごと木っ端微塵になりました」
「そんな……」
爆死って、リア充でもない俺がなんでこんな目に……
「貴方が引き篭もりをしていなかったらこんなことにはなっていませんでしたけどね」
「ぐはっ!」
美少女の一言が俺の胸に突き刺さる。
確かにその通りなのだ。
引き篭もりなんてしなければ、今頃両親と旅行に出掛けていて爆死することなんてなかっただろう。
「まあ、仕方のないことです。これは神の定めた運命なのですから」
「酷い運命だなおい!」
クソッ!
神だかなんだか知らんがぶっ飛ばしてやりたい!
こんなクソッタレな運命を与えてきやがって!
俺が怒りな燃えていると、美少女は俺を宥めてきた。
「まあ落ち着いてください。 さて、前置きはこのくらいにしてそろそろ本題に入りましょうか」
「え? 本題?」
「はい。でもその前に自己紹介をしておきますね。私の名前は大天使ルシフェル、この世界における死者の管理をしている者の1人です」
俺は美少女、大天使ルシフェルの自己紹介を聞いて1つ疑問に思ったことを問いかけた。
「あれ? 大天使ルシフェルって確か堕天使の長で別名魔王サタンじゃなかったっけ?」
昔、vikiを見た時にそう書いてあった。
他にも進歩や知的探究心を司る神とも書いてあったな。
「いえ、それはまったくの誤解です。事実、魔王サタンは大悪魔が魔の王に昇華した者と天界では言われています」
「へぇー、そうだったのか」
また予備知識が増えてしまったな。
「話が逸れてしまいましたが本題に戻ります。実は貴方にその魔王についてお願いがあるのです」
「魔王についてのお願い?」
俺はルシフェルに尋ね返す。
「はい、貴方に異世界に君臨している魔王を倒してもらいたいのです」
「……はい?」
「ですから魔王を倒す勇者の役割を担ってもらいたいのです」
こ、これはもしや異世界転生の予感!
取り敢えず話は聞いておこう。
ルシフェルは1つずつ説明をしてくれる。
まずこの世界とは違う世界、つまり異世界には魔王が存在している。
そして、魔王軍の侵攻のせいで世界は荒廃し、危機に瀕しているらしい。
その世界には魔法やモンスターなども存在していてる。
言うなればゲームのようなファンタジーの世界があるらしい。
それでここからが重要。
その異世界の魔王とやらは元々天界の神と相対する存在なのらしい。
だが、近年魔王は異世界の人々を虐殺し、その魂を喰らい尋常じゃないほどの魔力を躰に溜め込んでいるらしく。
このままでは異世界どころか天界すら危ういと考えた神は、俺たちの世界や他の世界で死んでしまった人間にランダムで特別な能力を1つ与えて送り出すという政策を取ったらしい。
それで俺も魔王を倒すために異世界に行ってもらいたいということなのだ。
ちなみにこの政策には年齢制限があり、12歳から20歳までの男女が異世界に送られるようだ。
この年齢に属さない死人は新たな生命に生まれ変わるらしい。
これはまさしく異世界転生!
特別な力を持った俺が異世界で魔法を使ったりしてモンスターを倒したり、魔王と戦ったりする!
これぞ男のロマン!
「さて、増井悠さん? 貴方はどう致しますか?異世界に向かうか、新たな……」
「行きます! もちろん異世界に行きますね!」
俺はルシフェルが全てを言い終える前に答えを出した。
「そうですか、わかりました。貴方の協力に天界の民一同が心から感謝を致します」
ルシフェルが頭を下げてお礼を言ってくれる。
なんだか恥ずかしくなってきたなぁ。
「い、いえ、滅相もない。俺はただ異世界で魔法を使ったりしたいだけで……」
「ふふっ、それでもですよ。それではこれより貴方に能力の付与を行います」
来たか……!
特別な能力……ここでどれだけ強い力を手に入れられるかで異世界ライフが決まってしまう……!
頼む、とにかく最強に近い能力を!!
「我は神に仕える大天使ルシフェルなり。異なる世界へと旅立つ若き勇者に神々の加護を、大いなる力を!」
ルシフェルが呪文を唱えると俺の足元に真っ赤な魔法陣が浮かび上がり、躰が淡い光に包み込まれる。
「はい、力の付与は完了しました。貴方に与えられた能力は……絶対魔法耐性です」
「おおっ!!」
絶対魔法耐性……メチャクチャ強そうな能力じゃないか!
これは勝ちましたわ!
「それで能力の説明ですが、読んで字の如く魔法に対する絶対的な耐性を持たせる能力です。貴方は魔法攻撃を一切受けることはありません」
「おお!」
俺はとんでもない能力を手に入れてしまったようだ。
これはもしかしたら魔王も楽に倒せるんじゃないか?
だが、その期待はルシフェルの次の一言で崩れ去った。
「ただ……その代償に貴方は魔法を使うことはできず、補助魔法や回復魔法を受けることもできません」
「……はぁ?」
自分が魔法を使えない?
それどころか補助魔法や回復魔法も受けれない?
おいおい勘弁してくれよ。
魔法がある異世界に行くのに魔法が使えないってどういうことなの?
全然楽しみがないじゃん。
「じゃあチェンジで」
俺はとっさに能力の交換を要求した。
が――
「一度与えられた能力を交換したり破棄することはできません。諦めてください」
「でも、魔法が使えないって致命的じゃありませんか?」
「まあ、確かにそうですね。魔法が主流の世界で魔法が使えないのは致命的ですね」
ほら、やっぱり致命的じゃん。
「ふむぅ、仕方ないですね。能力の交換はできませんが貴方に特別な武器を1つ与えてあげましょう」
どうやら能力の交換ができない代わりに特別な武器をくれるらしい。
魔法が使えないのは痛いが、まあ代わりの武器が貰えるならワンチャン……
「――大いなる刃を!」
ルシフェルが呪文を唱え終えると、何もない空間に一本の剣と鞘が現れる。
鞘は淡い光を宿した白銀の物だ。
そして肝心の剣は――
茶色の錆びた剣だった。
「うぉい! これ錆びた剣じゃん! どこが特別な武器なのか教えてくれよ!」
「あ、あれぇ? お、おかしいですねー、あ、あははー」
流石にルシフェルも驚いたのか額から変な汗を垂らしている。
「チェンジ! チェンジして!」
「い、いえ、これも交換はできなくて……」
「じゃあ何か? 俺は魔法が使えないのは能力と錆びた剣持って異世界に行かなきゃならんのか?」
「そ、そういうことになります」
最悪だ!
せっかくの異世界なのに魔法が使えない。
さらには武器は錆びた剣一本だけ。
こんな装備で異世界に行ったら間違いなく殺られる!
「ゆ、悠さんは元剣道有段者でしょ? 心配しなくても大丈夫ですよ、多分」
確かに俺は元剣道有段者だ。
でもそれは3年前の話。
全然大丈夫なんかじゃない!
「無理だから! 錆びた剣振り回して戦うとかマジで無理だから!」
俺はルシフェルに対して必死に訴える。
「お、おっと、そろそろお時間です!これから貴方に異世界に転送しますね!」
これ以上話が長引くのは面倒と考えたのか、ルシフェルは俺を異世界に転移させる準備を始めた。
なんて女だ!
「ちょっ! 待ってくれ! せめてもう少しまともな能力か武器をだな――」
全てを言い終える前に足元に赤い魔法陣が浮かび上がり、俺の躰はキラキラした粒子に変わり始めた。
マジでこのまま異世界に送られちゃうの?
勘弁してくれよ……
「準備できました! それでは増井悠さん、貴方の活躍を期待していますよ! 大変だとは思いますが頑張ってください!」
俺の願いは通じることなく視界は真っ白な光に包み込まれ、意識は闇へと落ちていった。




