強がりな君
聖魔法学園に一人の男が入学した。
その男は、膨大な魔力と知識で、どんどん実力をつけていった。
誘拐されそうだった隣国の王女を敵から守り、当時学園のアイドルだった女子を魔物から守り、大会で優勝候補とまで言われた上級生の女子に勝ち……。
見事、ハーレムを築いていった。
これは、そんな男の……幼馴染の女の子の物語である。
アリスは悩んでいた。
それは、アリスの幼馴染の男の子、レンのことでだ。
レンはこの国の英雄とまで言われたジオンフォルトの孫で、祖父ゆずりの膨大な魔力の持ち主だ。
そのレンーー本当の名前はアレンフォルトだが、アリスは「レン」と呼んでいるーーは、膨大な魔力を制御するために、聖魔法学園に行ったのだ。
ちなみに、去年の話である。
アリスはレンが好きだ。
小さい頃から、ずっと。自分がいじめられた時も、いじめっ子から守ってくれたり、迷子になったときも、見つけ出してくれた。
だから、なおさら悲しかったのだ。聖魔法学園は4年間教育だ。4年間なんて待てない!待っている間に、彼女ができるかもしれないじゃないか!
本当は付いて行きたかったが、母が許してくれなかった。
でもつい先日、母の説得に成功したのだ!
しかし、いざ入学してみればどうだ?
アリスは田舎者なので、風当たりも強く、魔法が特別に上手いわけでもない。
しかも、肝心のレンは上級生!先輩にあたるのだ。これでは近づけない。
そんなこんなで、1か月は過ぎた。
そして、チャンスが巡ってきたのだ!
今日は魔法実戦の授業がある。そこに、特別講師として、レンが来るらしい。
友達からの情報である。
「でも、ダメだと思うよ~。ガード硬いし。」
友達はこう言うけど、大丈夫だと思う。じぶんでいうのもなんだけど、私、可愛いし。
でも、現実は残酷だ。
髪の艶、胸の大きさ、そして顔。
人外がそこにいた。
「神様って、いなくなればいいのに。」
心底そう思った。
し・か・も!!
腕組んでるし!いちゃついてるし!講師って、レンだけじゃないの?
しかも、さり気なく女子には教えないようにしてるし。
レンの「喉乾いたな」っていうつぶやきも
「どうぞ。」
と、すかさず水を持ってきて、
「ありがとう、気が利くな」
「いえいえーー、彼女ですから。」
わざと聞こえるように周りの女子にいう。
神様は諦めろと言っているのか。
もう、彼女がいるなんて。
しかも、私より可愛いし。大人の魅力があるし。
結局、魔法実戦の授業は私に心理攻撃を仕掛けて終わった。
ある日、友達が慌てた様子で私の所にやってきた。
「大変大変!!アレンフォルト先輩が大怪我して保健室に運ばれたって!」
頭が真っ白になった。
慌てて保健室に行こうとしたけど、友達がとめた。
「止めないで!」
「行ってどうするの!?これは、内密に行われてるの!怪しまれるよ!」
今の私には、内密に行われてることを何故知っているのかという疑問はなかった。
「大体今行っても、彼女さんがいるよ……」
はっとした。
今のレンには彼女がいるではないか。
私は必要ない。
「まあまあ。大丈夫!夕方の6時頃なら、保健室には先生もいないらしいよ。幼馴染を見舞ったらいけないなんていう、ルールはないでしょ」
私は友達の忠告を素直に受け取ることにした。
そうだ。
私は、幼馴染が怪我をしたと聞いて、心配して保健室までやってきたんだ。
私は、私自身に言い聞かせるようにしながら保健室に足を運んだ。
ーーコンコン
保健室の扉を開く
本当だ。先生や、彼女もいない。
一つだけ、カーテンがしてあるところがあった。
「あ、あの。アラン…アレンフォルト先輩はいらっしゃいますか」
噛んでしまった。盛大に噛んでしまった。
なんとも恥ずかしいものだろう。
しかも、他人行儀だ。
まあ、これは、正しい判断だと思う。
レンは、私がこの学園にいることを知らないのだ。
「アハハハハ!」
笑われた。
噛んだからだろうか。
「いらっしゃいますよ。アリス!」
「良か……」
え?今名前をいった?
思わずカーテンを開ける。
「知ってたの?」
「うん。連絡きたんだ。」
そう言うレンの身体は痛々しく包帯が巻かれていた。
私の視線に気づいたのか、レンが
「あー、ごめんごめん!これ大袈裟なんだよね~」
笑いながらそう言った。
昔から、そうだった。
怪我をした時とか痛いのに、泣きたいのに我慢して、いつもと変わらない笑顔でわらって……。
「無理しないで……。」
気がつくとそう言っていた。
「痛かったでしょう?辛かったでしょう?」
「泣かないでよアリス。」
私は泣いているらしい。
でもね。
「レンだって泣いているじゃない。」
私はレンを抱きしめた。
とても強くてかっこよくて。
でも君は、人一倍強がりで。
そんなあなたが大好きです。
後日談
その後、あの授業の彼女宣言は嘘だと発覚した。
何か、男避けに頼まれたらしい。
でもそれだけじゃないと思う。
その日から何かとレンがやってきたり、ハーレムに睨まれたが普通にすごした。
でも、まだ私にチャンスがあると知って満足だ。