聖なる夜、今、奇跡を
12月25日の夜
世界中の人々が祈りを捧げたり、大切な人との幸せな時を過ごしている
そんな中、とある崖の上に一匹のトナカイがいた
その傍らにはひとつの棺
サンタさんが死んだ
昨日のことだ
あんなに元気だったのに
突然のことだった
今日のために一年間準備してきたのに、無駄になってしまった
僕とサンタさんが出会ったのはちょうど6年前の今日だった
当時の僕は、鼻が赤いと言う理由で皆に嫌われていた
でもその日、サンタさんは僕の目の前に突然現れてこう言ってくれたんだ
―私とあなたで世界中を笑顔にしよう―
あなたとならきっとできるって
それから毎年、クリスマスに向けて一年間かけて準備をして、一晩中に世界中の子供にプレゼントを配った
キツかったけど、サンタさんと一緒だったから、僕は本当に幸せだった
なのに
トナカイは崖から身を乗り出す
なのに何で僕を一人にしたの?
サンタさんがいない世界に、意味なんかないのに
ああ、ここから飛べば、あなたのもとへ行けるだろうか
優しかったあなたのもとへ
トナカイが一歩、踏み出そうとした時、雪が降ってきた
あの日と同じ、冷たいけれどどこか暖かな雪が
つうっと、トナカイの頬を涙がつたう
どこかから声がした
とても優しい、聞き覚えのある声が
サンタさん?
何?聞こえないよ
もう一回言ってよ
また、懐かしい声
―何泣いてるの?―
―皆に幸せを届けるあなたが泣いてどうするの?―
―ほら、笑って―
―あなたの笑顔が、私の一番の幸せなんだから―
それは、僕が泣いているときにサンタさんがよく言ってくれていたことだ
その場に崩れるトナカイ
夜空に泣き声が響く
ごめんねサンタさん
僕、大事なこと忘れてたよ
立ち上がり、涙をぬぐうトナカイ
僕が、僕らが
世界に幸せを届けるんだ
サンタさんが一年かけて準備をしてきたものを、無駄になんかさせない
夜はすでに静まりかえっている
まだ間に合うだろうか
ふふっ
なにを言っているんだ僕は
今夜は聖なる夜
どんな奇跡だって、起こるんだ
トナカイは夜を駆ける
世界を幸せにするために
トナカイは笑う
一番大切な人を幸せにするために