彼岸花5
5 西本竜也
いつの間にか元井は帰ったようだ。俺は司の肩をぽんぽんとたたいた。
「大丈夫か?」
司はいかにも迷惑そうに、しかし頷いた。
「…はい。大丈夫ですよ。」
司は顔をそらしていった。
「すいません。こんなに気を回してもらって。」
そこまでは素直でかわいかったんだが、それからすぐに、司は芝居がかった顔をした。
「タツさんに慰められるとは…不覚。一生の恥ですね。」
「おい。先輩に対してそこまで言うか。素直に喜べ。」
「…タツさん、俺、あいつが分からないです。」
一瞬何のことを言っているのか分からなかった。しばらくして、ああ、花のことかと分かった。
「あいつは、あんな状況でも、平然と通り過ぎていきましたよ。花は、自ら望んで行動してるんですかね。」
タツさん、この同好会は、タツさんは、花をどうするんですか?
司の問いに、詰まった。どうする…?花について調べて、そいつと会って、俺はどうしたいんだ?
「それを決めないと、いつまでたっても何もできません。」
痛い言葉だった。俺も元井も、十二分にそのことを理解している。アー‼と耳をふさいでしまいたい。そんな俺の様子を見かねたのか、司は話題を変えた。
「張り込みはどうだったんです?」
「失敗だった。何も変わったところが見つからなかったから、手の出しようがない。」
「そうですか。」
司はそう言うと、立ち上がり本棚から一冊の本を取り出した。司が持ってきたのは、植物図鑑だった。
「?司、お前…」
「先輩に任せっぱなしってのも、気が引けるものなんです。…日和先輩ほどではありませんが、俺もそこそこ感が当たるので。花って言うからには、何かの花と関連があるのかなって。」
流石、新入生は考え方が斬新だ。俺たちが考えつかなかった方法を、あっという間に考えつく。司はページをめくり、中ほどで手を止めた。
「これです。」
「ヒガンバナ?」
そこには、見事に咲き誇る真っ赤なヒガンバナの写真があった。
「俺は、あいつはヒガンバナじゃないかと思ったんです。」
「…お彼岸とかか?」
「はい。噂の内容とか考えると。あと、花と言われるくらいですから、名前にも共通点があるんじゃないかと。」
「てことは、二年四組の中に、ヒガンバナの名前が少しでもあるやつがいたら、そいつが花かもしれないのか。」
「まあ、予測でしかないですけど。」
司は、司にしてはめずらしく、にやりと笑った。