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花追い  作者: 金木犀
花追い同好会活動1
4/19

彼岸花4


4 元井日和


 学校の前で交通事故があったようだ。生徒に被害はなかったようだが、朝一番に全校生徒が集められ、校長が注意を呼びかけた。そして亡くなった方への哀悼の意を表した。

 こんなに身近に死亡事故が起こることなんて、めったにあることじゃない。いつもなら聞き流す校長の話を、今日はみんな真摯に受け止めていたように感じた。

 集会が終わって、タツが私のところに来た。

「今日司休むってさ。」

  タツが言ったのはそのことだけだった。私は、風邪でも引いたかな、季節の変わり目だしと、軽く受け流した。そして、昨日計画した張り込みに身を投じた。

 結果を言うと、その計画は失敗に終わった。何も得るものがなかったからだ。誰か一人でも、花ならば怪しい奴がいてもおかしくないと思っていた。甘かった。そうたかをくくっていたせいもあるが、その結果はかなり堪えた。私たちは放課後、二人で部室に集まった。

「どうする…。」

 私が思っていたことと同じことをタツが言った。いつもなら、私と同じことが考えられるのねとか何とか言ってからかうのだが、今日は本当にどうしたらいいのか分からず、からかう気にもなれない。

「司は風邪なの?」

 見つからない答えの代わりに、私は適当なことで返した。どうもこの教室の中で二人だけというのは心もとない。タツは腕を組んで首を傾げた。

「いやー、俺もよくわからないんだ。電話してきたんだけど、今日休みますって言うなり切られて。」

 私の頭の中に、小さな疑問が生まれた。花の噂、交通事故。もしかしたら、無関係なことじゃないかもしれない。司が休んだのは偶然?それもやはり、関係があるのかもしれない。

「タツ、今日司の家に行かない?」

「え?…おお、いいな。お見舞いかー、でも、司体調悪いんじゃないかな?」

「じゃあ、果物でも持って行ってあげましょう。お互い初めての後輩じゃない。大切にしなきゃ。」

 本心、とは言えない。後輩にこういうことをするものなのか、ということも分からないし、興味のなかったが、タツを言いくるめるのには丁度よかった。

「そうだな!司、喜んでくれるといいな!」

 そうやって平気で恥ずかしいことが言えるのは、タツのいいところだと思う。正直でまっすぐで、白くて無垢で。無邪気に準備を始めるタツの姿を見ていたら、なんだか罪悪感。私もこんなに純粋なら、きっと後輩のことを思ってお見舞いに行けるだろう。でも、人と自分は違うのだ。タツと私は違うのだ。

私は目の前に出された問題を解くだけ。小さなヒントも見逃さない。そんな機械みたいな人間が、私、元井日和なのだ。機械のように生きるのが、私の人生だ。

私が感じたそのヒントとは、どうして一同好会の先輩に、わざわざ電話を掛けたのかということだった。


 ピーンポーン

 チャイムを押すと、ほどなくして二階の窓から司が顔を出した。

「…え。ちょ、何で…。」

 かなり困惑したようで、いつもの冷静さ、というより余裕がなかった。そんな姿はなんだかおかしかった。

「見舞いだ。まあ、なんか気分で来た!」

 タツは行きしなに買ってきた果物を突き出して胸を張った。少し待つように言われて、司は下に降りて扉を開けてくれた。

「わざわざ…よかったのに。こんなことしてくれなくて。」

 司は少し迷惑そうに言った。その言葉に対して、タツがギャーギャー言っている。司はそれを軽くあしらった。

 対応は一見元気そうだが、顔色は悪い。司はそのまま自分の部屋に私たちを通してくれた。リビングはどうやら使えないようだった。

 司の部屋は、男子高校生の部屋とは思えないほど何もなく、殺風景だった。全体的に青で統一されており、落ち着いて見える。

 私は机の前に、タツは私の横に座った。司はベッドに腰掛けた。

「どうしたんだ?熱でも出たのか?」

「いや…今はもう何ともないですよ。朝少し体調が悪かっただけです。」

 …違う。司は何かをごまかしている。私はそう感じた。

「明日からは普通に行くので。」

 司は…

「心配かけてしまって、すいません。」

「司。」

 私は司の次の言葉を遮った。司はゆっくり私の方を向いた。

「何か、私たちに話すことがあるんじゃない?」

 しばらくの沈黙の後、司はため息をついた。

「日和先輩って、きっとすごい鋭い人なんだなーって思ってました。」

「私は鋭いわよ、司が思ってる以上に。」

 私たちの会話を、タツはきょろきょろしながら聞いていた。タツは鈍いからな…。

「え?何のことだ?」

「私、タツから司のこと聞いた時から、ずっと気になっていたの。どうしてタツに電話をしたのか。学校に知らせればいいことだし、花の計画に司は実質組み込まれてなかった。部活で先輩に迷惑をかけるわけでもない。なのに、司はわざわざタツに電話を掛けた。無意識だったんじゃない?無意識に、私たちに知らせなくちゃいけないと思ったから、タツに電話したんじゃないかと思った。…花に何か関係があるの?」

 タツもようやく気が付いたようだった。はっとして司を見た。司は、観念したように口を割った。

「さすがですね。学年トップなだけある。」

 ちょっと冗談めかしつつ言う。司も話をはぐらかしたりするんだと思った。

「花に会いました。」

 それは、想像していたよりも花にぐっと近づける話だった。司は昨日体験した話を語った。

「多分、あれが花だと思います。」

「顔は見えなかったのよね。」

 しかし…。私はタツと話している司を眺めた。この子、人が死ぬところをこんなにも間近で見て、よく平気に…

 その時、タツと目が合った。たっぷり三秒間。私は悟って荷物を手に立ち上がった。

「司、お手洗い借りるわね。」

 私は、部屋を出た。そしてそのまま扉の外でいた。

 タツは分かっていた。司が平気なわけない。私の鈍い感覚は、タツが補っていた。タツのぼそぼそとした声が聞こえてくる。私には、今の司にかける言葉が分からない。どういう風に声をかければいいか、知らない。

 まあ、男の子なんて、女の前では何も見せないし。どんなに私が頑張っても、司のつらさを取り除けるのはやはりタツなのだ。私はそっと扉を離れ、家に帰った。


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