四 入学式
どことなく空気が暖かくなり、桜の花びらも少しずつ綻び始めた四月の初め。
桜深の町の中心部に立つ私立庭央学園では先ほど入学式を終えたばかりだった。真新しい制服に身を包み、緑色のネクタイやリボンをした新入生が玄関を出てすぐの場所で部活勧誘の波に揉まれている。
生徒総数が多いためか運動部、文化部共に多彩な部が存在するこの学校では毎年恒例の行事だ。
「おーおー!今年も多いっすねー!」
「毎年思うがウチの勧誘って結構強烈だよな」
そんな喧騒に参加せず、屋上からそれを見つめる二つの人影がいた。
どちらもこの学園の男子制服を着用している。
最初に口を開いたのは、ブレザーの中にオレンジ色のパーカーを着用し、前髪を上げてピンで留めているのが特徴的な少年だ。
フェンスのない屋上のため、校庭の方へ向かって足を投げ出すように座っていて、他から見ている者が居たならハラハラしそうな光景だ。
その横では運動部のような雰囲気の体格のいい少年がしゃがんで下を眺めていた。こちらはまだ肌寒いのにネクタイもせずYシャツ一枚で、腕まくりまでしている。左手首には赤のリストバンドがしてあった。
どちらも楽しげに様子を見ている。
「おいマサ、んな座り方してっと危ねえぞ」
不意にふわりと風が吹き、二人の後ろから新たな声がかかった。二人が視線をやると腕を組み、仁王立ちして眉間に皺を寄せた端正な顔立ちの少年がいる。二人とは裏腹にYシャツにかっちりと赤いネクタイを締めブレザーのボタンも留めている。
「お、遅かったな」
「センパイそんな顔してたらイケメンが台無しっすよー。どうせ結界張ってるから見えないし、第一俺落ちたりしないって!」
「うっせ落とすぞ馬鹿」
「ぎゃっ暴力反対!」
容赦なくマサと呼んだ方の頭をどこからか取り出してきた扇子で叩くと、その隣に声を掛ける。
「それより、今年はどんな感じだ?」
「そんなに妖も妖力の強い奴も居ないみたいだ。ま、例年通りってとこか」
「そうか。変な行動してるやつも居ないみたいだな」
同じく彼も視線を下へと向ける。
相変わらず、部活の勧誘で賑わっているようだった。
誰からも気づかれずひっそりとした屋上で謎の三人はただひたすら新入生を観察していた。
一方、同校に入学した吉野奏太はやっとのことで人波から外れて校舎裏へ歩みを進めていた。
「はああ。人、凄いな…」
入学前から大きな学校だとは知っていたが、その後の部活勧誘が予想以上にハードだったことにやや疲れて足取りはふらふらだ。
「どこか見に行こうかなあ」
事前に各部活について紹介の乗った簡単な冊子が配られたためそれを手に、一度出てしまった校舎に入ろうと別の入り口を探していた。
近くでカキーン、といい音がして野球部の威勢のいい掛け声が聞こえた。校舎裏には球場があるようだ。
特定の部に入りたいという希望もないため、とりあえず興味ある部を見て回ろうかと思っていたところだった。
「うーん、文化部行こうかな」
冊子をじっと見つめ場所を確認しながら、移動しようとした時だった。
カキ―ン
「危ねえぞおおっ上気ぃつけろおっ!!」
さっきから断続的に聞こえていたバッティングの音がまた聞こえた。と同時に大きな叫びが飛び込んできた。
「ぅえっ、って…上!?」
何か小さな物体が物凄いスピードで飛んでくるのが目に映る。
「はああ!??ちょっ」
反射で両手で頭を守りギュッと目を瞑る。
パアンッッ
破裂音にも似た大きな音が奏太の目の前で鳴った。
「…ん?」
いつまでたっても痛みは来ない。おそるおそる目を開けるとついこの間と似た光景が飛びこんできた。
二話連続更新です