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三 視える者

2015.9.13 一部改稿

次の瞬間、景色が一転して森から町へと戻った。


「あ、れ!?」

「ははっ驚いた?」


涼やかな声が面白そうな色を持って響く。


「ああ、笑ってごめんね怖い思いしたのに。禍怪が消えたから空間が消滅したんだよ。さて、改めて。初めまして奏太くん。私は篠坂凜(しのざか りん)

(女の人…?!)


さっきまでの薄暗さが消えたせいで凜の顔がはっきり見えた。明るい場所で見ると黒い目に男と同じように艶やかな黒髪で、整った綺麗な顔をしている。

奏太は驚いていた。先ほど化け物の首を一刀両断したのが女だということに。とてもあんな怪力があるようには見えない。

いつの間にかあの日本刀も手から無くなっている。


「ボク、睡蓮。よろしくねえ、奏太くん」


間に割って入るように口を挟んできた男はさっきまでの長髪着物姿ではなく、普通の洋服に短髪に変わっていた。


「!?ど、どうも」

「へぇ、思ったより驚かないねえ。ねえ君、(あやかし)視えるんでしょー?」


くすくすと笑いながら、突然投げかけられた問いに奏太はびくりと反応した。


「なんで…それを」

「ああやっぱり本当だねぇ。でもだいじょーぶ。ねえ凜ちゃん?」

「清子さんから話は聞いてるよ。私も視える人間だから」


清子は奏太の母の名前だ。それとふわりと柔らかく凜が笑うのを見て少し奏太は安堵した。

確かに、昔から人には視えない者が奏太には視える。

そのせいで何回か危ない目に遭ったこともある。さっきのだっておそらくそのせいなのだろうと察した。


「その様子を見るに、結構苦労してきたみたいだね」


少しだけ悲しそうな顔をして凜はそう言葉をかけた。

篠坂家は母方のひいひいじいさんだかが出た家で遠い親戚にあたる。なぜかは知らないが細々と何かしらの親交は続いていたようである。しかし母がそこまでのことを話していたとは思いもしなかった。

そんな奏太の内心を読み取ったように凜が口を開いた。


「篠坂は、代々さっきみたいな禍怪(まがつもの)祓い専門の法術師と呼ばれる家系。昔から妖とも関係あるからそういった類の者は視えるの。奏太くんが見えるのは篠坂(うち)の血が流れてるから。けど本家筋から離れたから血は薄くなってるはずなんだけど、隔世遺伝しちゃったみたいだね」

「隔世遺伝?」

「何代か前の先祖の性質が世代を経て遺伝することだよ。君のひいひいおじいさんが法師だったから。それの力の一部が受け継がれちゃったんだね」

「ひいひいじいちゃんが…初耳です。…じゃあ本当に二人共、視えるんですね?」

「えっ?」


その問いかけに睡蓮がきょとんとする。


「二人共って。視えるも何もそれ以前の問題で…あれぇ、今ので気付かなーい?奏太くんもしかして鈍感?」

「へ?」

「ボクは、妖だよお」

「えっ!?」


にやりとまた目を細めて睡蓮は笑う。さっき森の中にいた時はやはり、間違いなく長髪に赤い目をしていた。錯覚などではない。

どことなく浮世離れした気配を感じていたのも気のせいではなかったようだ。


「いい反応するねえ奏太くん。面白いねキミ。どお?変化(へんげ)うまいでしょお。ボクは、凜ちゃんの使役怪(しえきもの)。いわゆる相棒ってやつ?」


くすくす笑う彼はいたずらに成功した子供のように実に楽しそうだ。


「睡蓮さんが、妖…?!」

「あんまりからかうな。うん、今の垂れ流しの睡蓮の妖力を感知できてないってことはそんなに強い力じゃないみたいだね」

「中途半端なとこでもあるみたいだけど…」

「こら」


凜が冷やかに何か言いかけた睡蓮を制す。


「…ていうか、本当にご両親から何も聞いてこなかったのね。家のことくらい聞いてきてるかと思ってたんだけど…」

「なんかすみません」

「謝んないで。奏太くんが悪いわけじゃないし。多分下手なこと話して混乱させたくなかったんだろうね」


十分混乱していると奏太は思ったが、飲み込んだ。凜が困ったような顔をしていたからだ。


「突然いろいろ言われてもわかんないよね。今日はもう帰りなさい」

「あのっまだ聞きたいことが…」


す、と凜は奏太の目の前で人差し指を立てて遮った。


「今すぐに詰め込むことじゃない。まだ時間はあるんだから」

「えっ?はあ…」

「本当は送ってあげたいんだけど、これから用事があるからごめん。寮までの道は人通りが多いから大丈夫のはず。また困ったことがあったら連絡頂戴?」


これ以上は答える気がないとでもいうように綺麗に笑うと凜は奏太に背を向けた。


「あ、あの、篠坂さん、睡蓮さん!」

「はは、そんな畏まんないでよ。私、兄弟も居るから凜でいい」

「あ、はい!凜さん!助けてくれてありがとうございました!!」

「うん。あ、言い忘れてた」


思い出したように凜はくるりと振り向いた。

丁度雲に隠れていた西日が凜の後ろから顔を覗かせた。逆光で彼女達の表情が見えなくなる。


「この町では、夕暮れ時から夜の間、ひと気の無いところには近づいちゃいけないよ。禍怪だけじゃない、妖の活動時間だから」


それだけ言うとじゃあね、とひらひらと手を振る。今度こそ立ち止まらず睡蓮と共に歩き出していた。


「またすぐに会えるよ」


一言だけ最後に言い残すと一瞬突然の強い風が吹いた。視界の端に巨大な何かを入れた気がするが、奏太はあまりの風に思わず目を瞑ってしまったから確認はできるはずもない。


次に目を開いたとき、既に二人の姿は忽然と消え去っていた。


「消え、た…?」


僅かに漏れた困惑の言葉だけが、ただただ夕暮れに溶け込んだ。

3話ですが序章感が半端ないです。次話からどんとキャラが増えます。

11/21 睡蓮の誤表記を修正、確認できた誤字を訂正しました。

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