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二 紅い目

どちゃっ


水気を帯びた生々しい音がした。

…が、何の痛みも襲ってこない。


「あー間に合ったぁ。セーフ」


急に目の前で場に似つかわしくない妙に間延びした独特な口調が奏太の耳に飛び込んできた。

恐る恐る目を開くと、視界は漆黒に埋め尽くされている。


「えっ…」

「危なかったなぁ、君。どこも喰われてないね?」


よくよくみれば、それは真っ黒の長髪に真っ黒の着物という独特な格好の背の高い男だった。

ゆっくりとこちらを振り返った男と目が合いはっとする。

男は薄ら笑いを口元に浮かべ、血のような深紅の目をしていた。


「安心していいよー?さっきの化け(ばけもん)なら、ちょおっと黙らせたから」


男が指さすとその背後の少し離れた場所にうずくまっていた。

何やら巨大な塊も近くに落ちている。おそらく、あれは化け物の足だった部分だろう。


「大丈夫だった君」


草を踏む足音と共に奏太の後ろからもう一つ、真っ直ぐに通る声が聞こえた。振り向いてから男の時同様息を飲む。

背は奏太より少し高いだろうか。短めの黒髪に整った顔の中性的な雰囲気の人物が立っていた。薄暗いせいで男なのか女なのかはっきりわからない。

奏太は驚いたせいで、つい息が詰まって声が出ず無言で頷き返した。


「良かった。ちょっと待ってて…片付けろ、睡蓮(すいれん)

「待ってましたぁ」


その人が優しげに声を掛けた後、長髪の男に背を向けたまま声のトーンを低くして一言放つ。

それに反応して睡蓮と呼ばれた男はにやりと笑い、楽しそうにより口元を歪める。

ゆっくりとその化け物の方へと歩き出してしまった。


「少しじっとして。そのぐるぐる巻き取っ払うから」


どうやったのか後ろ向きだったせいで見えなかったが、あんなに絡みついてほどけなかった糸がするりと落ちた。


「あ、ありがとうございます…」

「立てる?」

「なんとか…それよりあの人一人でいいんで…」


ヴヴヴヴ…ア゛ア゛ア゛アアアアアアア…


ふと目を先ほどの化け物がいた位置に向ける。つられてみれば、低いうめき声をあげて化け物が状態を起こしかけていた。

その腹部からは、ぽたぽたと赤い液体が滴っていて、奏太はすぐにそれが血なのだと気付いた。

さっきのごりゅ、という盛大な音はどうやらあの傷と関係あるようだ。


「あれは、禍怪(まがつもの)

「まがつ…もの…?」

「災いをもたらす悪しき存在、なんて言われてるけど実際は人間が作り出した欲の塊みたいなものだよ。放っておけば君みたいに人が襲われて食い殺されることもある」


真っ直ぐに前を見据えて話し出す。


「オノレ…オノレエエエエエ」

「あ、自我があるのか。まあ、でも…」


足がすくんでしまうような咆哮にも少しもたじろぐ様子を見せず、その人は少し驚いたように呟いた。


「雑魚には変わらんけどねぇ」


するすると禍怪が吐き出す糸をかわしながら余裕であと一歩の距離まで睡蓮は迫っていた。

たんっと草履をはいた足で軽く地を蹴ると高く飛ぶ。

あっ、という間もなく手を軽く凪ぐしぐさをすると真っ二つに切り裂かれてしまった。

どさりと化け物はその場に崩れ落ちる。


「ちょこっと硬かったかなあ」


すとんと着地すると睡蓮はこちらをみる。

その瞬間、また奏太は深紅と目が合ってしまった。切れ長で、蛇のような印象を受けるその双眸は面白そうに細められる。よくよく見れば男の着ているものは着物だが、あまりにも胸元がだらしなく開いている。こんな格好で歩いたら間違いなく町中では目立つだろう…

そんなことを考えているのを知ってか知らずか、男はにやりと口元を歪ませて笑いかけてきたので、奏太はつい引きつった微妙な笑い顔を浮かべてしまった。


その時だった。


「っ!まだだっ!」


ヴオオオオオオオオオオオオオオォォォォ


地面から突然化け物の首が生え襲ってきた。奏太は目を丸くして硬直する。どうやら二人が油断するこのタイミングを狙っていたようだ。

もはや二人の目と鼻の先まで既に迫っていて、この距離では睡蓮も追いつけない。


「っ!」

「はは…心配ないよ」


奏太は横で、ふ、と薄く笑うのが見えた。するり。飄々とかわして屈むといつの間にか片手に持っていた刀を鞘から引き抜き―


ざんっ


瞬間、周りの空気が凍り付いたように静まりかえった。

自分とそんなに変わらない背丈の人間が、頭だけになっても結構な大きさのある化け物を一太刀で切り裂いたのだ。

衝撃過ぎて言葉が出ない。

奏太はそういった剣術に関する知識は一切ないが、あまりにも綺麗な一瞬の技に見とれていた。

ちゃきり。一度構えなおした白銀の刀身は薄く青みを帯び、不気味なほど美しく見える。


「さて、片付いた」


まるで宿題が片付いた、とでもいうノリで軽く言うと刀を一振りし自然な様子で鞘に納めた。 


「帰ろうか、吉野奏太くん?」

「え、俺の名前!?なんで知って…」


初めて会ったばかりの人が自分をしていることに驚きを隠せない。


「だって電話くれたじゃん」


手を耳の横に持ってきて電話をする仕草をみて思い出す。自分のアドレス欄にある、馴染みのない名前―


「篠坂凜さん…ですか!?」

「正解」


にやり、と整った顔で凜が笑った。


次の更新は1週間以内にできたらと…もう少し話が進んだら人物紹介書こうかと思ってます。

11/21 睡蓮の誤表記修正しました。

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