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序話 一片
本編は次回より随時更新
ひらり、ひらり
たくさんの桜が咲き乱れる中、一際大きな桜の木が立っていた。
その下で一人の女が見上げている。
古風だが質の良い着物に身を包み、花吹雪の中で静かにじっと動かない。その佇まいは後姿だけでもどことなく気品が漂っている。
ふわりふわりと風が吹くたび、綺麗な長い黒髪が流れて薄桃色の花びらと混ざり合う。
鮮やかでいつまでも見ていたいような…ゆっくりとした時間が流れていく。
ザアッ
不意に、風が強く吹いて女が桜から目を離しゆっくりとこちらを振り返った。
途端にぐにゃりと世界が歪む。
否、視界がぼんやりと霞み、振り向いた女の顔も霞んで見えなくなった。
何かを伝えたくて手を伸ばすもどんどん遠くなって声すらも届かない。
暗くなる視界は意思に反してどんどん深くなっていく。
ひらり。暗闇の中で最後に一片、小さな薄桃色が目の先を霞めて舞い落ちた。
―これはそう、昔から何度も繰り返し視てきた、夢……