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8.「……何やってるんだ僕は?」

 翌日午前一時、学校では昼休みを迎えていた。閃助は思い切って、香梨に声をかけてみようと席に近づいた。窓際の席で、相変わらず夜空を眺めていた香梨は、前に立つ閃助に一瞥くれた。

「何」

「ご飯はもう食べた?」

「うん。だってもう三十分前から昼休み入ってたでしょ」

 うっ、と言葉に詰まる閃助。一緒に屋上でご飯を食べないかと誘おうとしたが、やはり話しかけるのが遅すぎた。遅すぎだ馬鹿、と今更自虐する。

 凍り付いてしまった空気を切り裂いたのは、閃助の腹の虫が鳴った音だった。昼前から今日は香梨とご飯を食べようと決めていたので、彼女に話しかけるまで筋原に誘われても昼食を食べなかったのだ。

「食べてないの?」と言われ、頷くと、「じゃあここで食べたら」と前の席を指差された。香梨の前の席の女子は、教室の後ろで固まる女子メンバーの一人で、今も後ろで友達とお喋りに興じている。閃助は席につき、横向きに座った。ちらちら香梨を見ながら、購買で買ったパンを頬張る。

「人の顔色を窺がいながら食べるのって心地いいもの?」

「ご、ごめん! 君が嫌なら、前向いて食べるよ」

「別にいいけど、さっきから貴方の視線を浴びすぎてそろそろ身体中が痛い」

 顔色一つ変えずそんなことを言う香梨に、閃助は返す言葉がなかった。四限の授業中からずっと、斜め左方向に座る香梨の背中を凝視していたのは本当だ。自分でもストーカーじみていると思ったほどだ。が、まさか気付かれているとは思わなかったのだ。

 香梨は、閃助が横向きでパンをかじっている姿を、黙って見ている。やはり食べづらかったが、誘った手前、引き下がりたくはない。香梨は閃助と窓の向こうを交互に見つめ、閃助は香梨とパンを交互に見ていた。会話はなく、そんな挙動不審な光景を繰り広げる二人を、クラスメートたちが不思議そうに眺めていた。

 昼休みが終わりに近づくと、閃助が席を立つ。

「香梨ちゃん、あの」本人の前であるにも関わらず深呼吸する閃助。そして息を止めると、「明日は一緒にご飯食べよう。君に話があるんだ」

「いいけど」香梨は目を細める。閃助の思惑を察したのかもしれない。閃助は胸を撫で下ろした。

 会話を聞いていた筋原たちが「告白か? 閃助、男を見せるのか?」などと軽く囃し立てるが、あまり大げさにはしなかった。相手がクラスで浮いている存在の香梨だからだろう。だが、閃助は香梨が先ほど目を細めた仕草が妙に引っかかった。懐疑的な意味ではない、ただ、香梨の聡明さを感じさせる眼光をもう少し見ていたいと思った。







 その日は塾の授業はなかったので、学校が終わると早々に帰宅した。一階の美容室の脇に設置された階段を上り、二階の自宅の鍵を開ける。

「ただいま」

 誰もいない自宅のドアを開ける。玄関には相変わらず、自分のスニーカーとずっと放置された母のハイヒール、そして捨てられていない父の革靴がまだ隅に追いやられていた。ふと玄関の光景を見下ろしていると、妙な違和感を感じる。その違和感は閃助の視界をぐにゃりと渦状に歪ませた。

 あれ、と思ったときには玄関の三和土に膝をついていた。眩暈がする――フラッシュバックが起きた。閃光が走り、脳裏に映像。それはめまぐるしく移り変わって何が映し出されたのかはまったくわからない。だが、唯一確実に捉えたのは、この三和土に自分のスニーカーと母のハイヒールと父の革靴ともう一つ、靴があった光景だった。白いパンプスがあった。パンプス自体に見覚えはあるのだが、いつあったのか、誰のものなのかは覚えていない。だが、そのパンプスの存在を思い出しただけで、閃助は頭を突き破ってくるような頭痛に苛まされた。

 今はそんな白いパンプスなど存在していない。ここには母のハイヒールと父の革靴と、自分のスニーカーがあるだけだ。木製の縦長の下駄箱を開いてみたとき、ぞっとした。自分の靴や父の遺品の靴、さらに母のものと思しき女性用の靴が敷き詰められていたが、明らかに母のとはサイズが違う女性用の靴もちらほらあった。ヒールの高めなサンダルや冬用のムートンブーツ、薄桃色のスニーカーなど、若い女性向けの靴だ。閃助の母は四十代半ばだし、そもそも母はティーンズ向けのデザインをファッションに取り入れたりする痛いおばさんではない。

 この靴は誰のだ、と問いたくなる前に、閃助は狼狽した。女性用の靴を視界に入れるだけで、胸の奥からシコリのようなものが無理やり押し上がってくるような不快感を感じた。しかも濃度百パーセントの不快感ではなく、若干の快感をも織り交ぜている。思わず股間を抑えたくなるほどの、気持ち悪い感覚だ。鼻で息が出来ず、ぜえぜえとしゃがれた吐息を吐き出した。

 そして下駄箱からヒールのあるサンダルを取り出す。それを眺めているだけで身体中に熱が迸っていった。







 翌日、よからぬ噂を筋原から聞いた。隣のクラスで「追放準備」がされていると。

 追放準備とは何だろう、と緊張しながら隣のクラスを覗いてみたところ、閃助の目に衝撃的な光景が飛び込んだ。四肢が突っ張るように固まった。

 教室の真ん中の列の一番後ろが問題の生徒の席だろう。机には黒いマジックで「反逆者」とでかでか書かれていた。誰が書いたのかはわからない。その生徒は男子で、名は確か松木と言う。当の松木は複数の生徒たちや教職員に囲まれ、ベランダに追い詰められている。教室の後ろのロッカー置き場を見ると、一つだけボコボコに凹みの跡が残されてたロッカーがあった。「死刑にしろ」「悪者」「臭う」などの暴言が殴り書きされている。閃助の学校では、教科書や体育着を収容するために各教室の後ろに縦三○二センチ、横二一五センチのロッカーが三段ずつ重なっており、それがずらりと並んでいる。一人一個、常に鍵をかけるのを前提にロッカーの使用が認められているのだ。

 松木は生徒指導の教師に強引に腕を掴まれ、ベランダから教室へ引きずり出された。教室から出されそうになったとき、松木は悲鳴を上げて抵抗をした。行きたくないよ、と喚いていた。

 しかし抗議の声は呆気なく沈む。生徒指導の教師が松木の後頭部を殴ったからだ。あまりに非道な行為を目の当たりにして、閃助は廊下で呆然と立ち尽くしていた。あの生徒指導の教師は確かに厳しかったが、生徒に暴力を振るった場面は見たことがない。これも神の手が加わっているに違いないだろう。そもそも現代では教師の生徒に対する暴力沙汰など、軽く手を上げるだけでも問題にされているのに、生徒も他の教師も何も言わないのはおかしい。

 閃助は下駄箱へ走った。そして松木の下駄箱を探した。見つけて、恐る恐る開けた途端、閃助は小さく悲鳴を上げて後ずさる。ドブネズミの死体と、それに群がる蝿が三匹。新緑町が昼夜逆転してから初めて登校した日を思い出す。あのときも、四組の湯原の下駄箱に、何かの死体が入っていた。振り返って改めて湯原の下駄箱を開けてみると、既に綺麗にされていた。上履きもローファーもない。

 湯原が受けたのはいじめではない、追放だったのだ。しかし追放の仕方はあまりにも、典型的ないじめに酷似していた。神の仕業だろうか、それとも神が学校に組織の幹部でも潜ませているのか。どちらにしても、もしこれが神の考えた追放の仕方だとしたら――神の正体は少なくとも大人ではない。あるいは、タチの悪すぎるピーターパン症候群患者だ。

 ところで、信者ではない者を神の下へ連れていくのと、追放では、何が違うのだろう。もし自分が信者ではないとバレたとき、自分が受けるのは神の前に突き出される刑か、それとも追放か……答えを何となく見出せた。閃助は震える肩を抱く。念のため、今日の旋風塾での授業で講師に尋ねてみよう。

 最後に閃助は生徒指導室へ向かった。第一校舎の一階、一番の奥の部屋だった。「生徒指導室」の看板の文字がおどろおどろしくて、一度入ったら生徒指導部長に命を取られる、と冗談めかして噂されるほどだ。そこから松木の悲鳴と、奇怪な破壊音が響く。竹内で叩かれるようなスパッとした音ではない、どちらかと言うと木刀で滅茶苦茶に叩かれているみたいな――そう、殺意のある破壊音だ。松木は母さん、父さんと泣き叫んでいる。すぐ傍には職員室もある、校長室もある、なのに誰も出てこない。教師たちは皆平然としている。

 蒼矢の言うとおりだ。町にはもう、化物しかいない。

 半ば抑鬱状態で教室へ戻ったあと、午前中の授業に筋原は一度も姿を見せなかった。まさかと思い彼の身を案じたが、筋原の机にも所有物にも追放を仄めかす証拠は一切ない。それよりも、日本史の授業で木更津先生の微妙なジョークを聞いてもなお胸糞悪い気持ちを浄化出来ないことの方が問題だった。昼は香梨と食事を取る約束をしているのに、こんな気持ちで臨みたくない。




 昼休み、約束どおり香梨は弁当を持って閃助の席へやって来た。

「ここで食べる?」と聞かれたので、閃助は「屋上に行こう」と行った。松木の件を引きずって、幾分気分が悪かったが、香梨には追放の惨さを話して怖がらせたくなかった。だから平然を装って、今は彼女と仲良くなることだけを考えようと思った。

 ここの学校は敷地内の管理が割に雑で、第一校舎の屋上の鍵だけはいつでも空いている。渡り廊下の先にある第二校舎や第三後者の屋上は、たまに箏曲部やチアリーディング部が練習場所に使うので、使用許可が必要らしいが。

 屋上への階段を上る最中、香梨は「貴方、信者になってないでしょ」と後ろを歩く閃助に向かって振り返る。木霊していた足音も消え、静まり返った夜の雰囲気が一層引き立った。それにしても、夜の生活も大分慣れたものだ。

「どうして気付いたの?」

 自分より些か背の低い彼女に見下ろされるのは、不思議な感覚だな、などと閃助は暢気に考えていた。そもそもこうして女の子にまっすぐ見下ろされるのは初めてである。

「ペンダントしてるけど、それダミーだよね。だって信者じゃなければ、貴方一人で私に近づいてくるはずがない。もし貴方が信者だったら、他の連中に真っ先に告げ口するはずだし、そうなったら頭の血液が足りていない単細胞ばかりの信者たちが、私を追放するために一斉に大人数で襲い掛かってくるでしょ」

 追放に関しては彼女も知っているようだ。それどころか何回か追放現場を目撃した経験があるのか、条件や手口も把握していると見ていい。なら、話す必要もない。

「つまり僕を囮に君を追放する機会を窺がっている、という可能性はないだろうと」

「本当のところはどうなの?」

「正解だよ。これは塾からもらったんだ。現状からして、つけていないと危ないからって。僕は今、塾の方から潜入捜査を依頼されている」

「ふうん、だから学校来てるんだ」

 そういえば香梨はいつも通り、ペンダントを身につけていない。君の方が危険ではないかと忠告しようとしたが、また香梨が急に笑い始めた。まるで狐が笑っているかのような顔が、夜の校舎に浮かび上がる。電気がついているとは言え、屋上前の階段特有の暗がりには勝てない。

「ど、どうしたの」仰け反りながら聞くと、香梨はいつもより上擦った声で「いや、これからご飯じゃん。昨日、貴方がご飯に誘ってくれたときの緊張した面持ちを、唐突に思い出しちゃって」と笑いを噛み締めようとしながら答えるが、全然堪え切れていない。

「今?」

「いや、ちょっと前から笑い堪えてた」

 自分との会話がまるで彼女の頭に入っていなかったのだと思うと、閃助はその場で蹲りたくなる思いだった。第一、昨日の昼休みに自分が香梨にどんな話題を振ろうか必死に考えあぐねていた最中に、香梨はポーカーフェイスの裏で「こいつ面白いな」などと考えていたのか。結構ショックである。

 思い出し笑いを終えると、香梨がすぐさま表情をポーカーフェイスに戻して再び階段を上っていく。声をかける勇気は萎んでしまった。

 屋上には何人かのグループもちらほらいた。昼夜逆転生活に伴い設置したらしい街灯が、屋上の隅々に設置されていて幾分明るい。制服を着たまま、夜空の下で食事を取るのは不自然さを通り越して新鮮な気持ちだった。敷地の真ん中辺りに腰を下ろし、二人で弁当を広げる。

「今日はお弁当なんだ」

 不意に香梨が話しかけてきた。どきまぎしないように、閃助は落ち着いて言葉を紡ぐ。

「うん。自分で作った」

「へえ、男の子なのに偉い」

「前は夜中……いや、今で言うところの昼間かな、たまに母さんが家に戻ってきて、夕方起きたら台所にお弁当が用意されていたんだけどね」

 香梨は唯一、閃助の母が普段家にいないのを知っている人物だ。

「いいお母さんなんだか嫌なお母さんなんだか、わからないね」

「だね。でも、なるべく顔は合わせたくないなあ。気まずいし」

「親子関係は良好じゃないんだ」

「残念ながらね。香梨ちゃんは? ご家族とは仲良くやっているの?」

 香梨は気難しそうな顔で、随分形の崩れた卵焼きを箸を掴む。「あっちから話しかけてはくるけど、私からは話さない。親が信者になる前も、なってからも」

 香梨の両親もやはり神の虜になっているようだ。

 それにしても、昨日はほとんど会話のなかった二人なのに、今日はぽつりぽつりとではあるが会話自体は成り立っていた。

「香梨ちゃんもご両親が好きじゃないの?」

「好きじゃない……って訳でもないけど、嫌いってほどでもない。私は基本一人でいるのが好きだから、あまり干渉されるとイラッと来るけど」

 閃助は食べかけの金平ごぼうを喉に詰まらせかけ、無理やり飲み込んだ。幾分びちゃびちゃな梅干ご飯を機械的に口に運びながら、香梨はそれを見ている。閃助は水筒のお茶を飲み、気を紛らわた。

「げほっ……。ええと、そっか。無理にご飯に誘ってごめんね。一人が好きならなお更、僕みたいにあまり話したことのない奴と一緒じゃあまり楽しくない……かな」

「貴方のネガティブなところ、もうちょっと直した方がいいと思う」

 香梨のきっぱりした言い方に、閃助はぐうの音も出ない。

「貴方はさ」香梨は閃助の目を無遠慮に見つめる。閃助は耐え切れずにすぐ俯いた。

「信者でない、所謂平常者者同士、仲良くしたいって思ってるんでしょ」

「うん。だめ、かな」見破られていたらしい。閃助は潔く肯定した。

「今の台詞。『だめかな』なんて最後に付け足すのがいじらしいっていうか。無意識なんだろうけど、貴方の言葉からは逐一自信のなさが見え隠れしていて、その自信のなさを相手に否定してもらいたいと心の何処かで思っている」

 どきっとした。当たっている。

「あまりおどおどしてると、信者じゃないことがバレるのも時間の問題だと思う。貴方は塾のために、今も学校へ来ているんでしょう。他の生徒たちの命は、貴方に握られているも同然なんだから、頑張りなよ」

 責任感を突き落とされた。閃助はすっかり目の前の少女に萎縮してしまい、力なく頷くことしか出来ない。香梨の言うことはもっともだ。堂々と振舞っていなければ、いつ信者たちから自分のバケの皮を剥がされるかわからないのだ。

 香梨はとっくに閃助から目線を外し、焦げ焦げのからあげを不味そうに食べていた。先ほどから気になっていたのだが、香梨が食べているのが自作の弁当だとしたら、彼女は相当料理が苦手だとわかる。

「香梨ちゃんは強いね」閃助はエビシューマイを箸で掴む。「やっぱり女の子って強いんだな。羨ましいなあ」

「男の強さっていうのも、私はかっこいいと思うけど」

「男の強さ?」

 香梨は何も返答せず、空になった弁当のフタを閉じた。さらにラップに包んであったサンドイッチに手を伸ばす。ハムやレタス、トマトなどの野菜を明らかに挟み過ぎて具が溢れ出そうなサンドイッチだが、香梨は女性らしさの欠片もなく豪快にかぶりついた。マヨネーズとトマトの汁が口の周りを汚している。閃助は目を見張ってその光景を見ていたが、不意に香梨が行った仕草に、昨日玄関で感じた息苦しさがまた再発した。

 香梨が指に流れたトマトの汁を舌でなめ取っていく。目を伏せがちにしているせいで、女性的な長い睫毛が誇張されていた。赤い舌が、ぽろぽろ流れていくトマトの種をなめる。こんな色っぽい仕草を、閃助は何処かで見たことがあった。思い出そうとすると頭が割れるように疼き、同時に震えるほど身体が熱くなる。

 かつて自分は、このような女性らしい仕草に異常なまでの興奮を覚えた気がする。

 香梨がそんな閃助を一瞥したが、すぐにサンドイッチを食べるのに集中した。

 それからは香梨の全身を眺め尽くした。夜風に吹かれる度にさらりと揺れる髪の毛、くっきり黒色が目立つ睫毛、華奢な四肢、シャツの襟元を飾る赤いリボン、紫を基調としてファンキーピンクや白色のラインが交差して出来上がる芸術的なチェック柄スカート、その下から覗く白い足、紺色のハイソックス――。

 閃助の口が勝手に動いていた。「女子生徒のスカートって可愛いよね」

 香梨が顔を上げて閃助を直視した。

「太もも出せるし。あと、赤色のリボンもいい」

 閃助は自分が早口で喋っていたのに気付き、同時に、全身の血の気が引いていくのを感じた。

 香梨は訝しげに眉を顰め、「ああ、そう」とだけ返した。そして食べかけのサンドイッチをラップに包み直し、弁当を持って屋上から出て行った。

「……何やってるんだ僕は?」

 閃助が空虚に呟くと、夜風が彼の目立たないグレーのネクタイをはためかせた。




 午後になると筋原は戻ってきた。いやに血なまぐさい臭いが彼の身体からする。閃助は静かに絶望した。

 松木を拷問した生徒指導室には、筋原も一緒にいたのだ。本人が誇らしげに仲間たちと話しているのを、教室で聞いてしまった。

「胸糞悪い仕事だけどよ、神様に任命された重要な役目を放棄する訳にはいかねえだろ。松木の奴、ちょっといくらか骨を折っただけで動かなくなっちまって、今回は手ごたえ全然なかったな」

「いいなあ、筋原は。腕力はピカイチだから、特別に先生たちと一緒に追放処分を任されてるんだろ。ご贔屓されてて羨ましいぜ」

「だろ? 俺はいつか神様の傍で働くのが夢なんだ。つまり神様の側近になりたい訳よ。いつかあの方の右腕になって、死ぬまで尽くしてやりてえんだ。あの方は夢と希望を失いかけていた俺たちを救ってくれた、命の恩人だからな」

 閃助はまたトイレに駆け込んで、昼食を吐き出した。


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