第六話.女の子の部屋で
けっこう悩みました。男の人を部屋に入れて、今度も大丈夫なんでしょうか。そんなこと無いと思うけど、もし、押し倒されたりしたら、どうしたらいいのでしょうか?
その日の17時に仕事が終わるまでずっとそんなことばかり考えてました。
「普段から男を部屋に入れている女と思われているかな。逆に経験無いって知られると引かれるかな」
アパートに帰って急ぎシャワーを浴びている時には、そんなことを考えていました。
前回は、成り行きで田辺さんが部屋に来ることになって、ポ●モン棚に感心し、あれよあれとPCのチェックをして、帰ってきました。まだ明るい時間帯でもありました。
今回はもう夜です。PCの部品を持って、修理して、帰る、はず。でも、そのまま帰るって事は、私の女子力0ってこと。いえ、そんなことはどうでもいいです。
田辺さんは好意でPCを直しに来てくれるだけ……え? 好意? いやいや、そうじゃなくて。
「やばいやばい、なんか無駄にドキドキしてきた。どうしよう」
着替えながら一つの結論を出しました。
「とにかく失礼にならないようにしよう……」
ただ、私にはなにが『失礼にならない』ことのか、よくわかりませんでした。前回オタク丸出しになりましたが、それ自体は失礼ではなかったと思いたいです。。
とにかく、『清潔感』と『女の子らしさ』を出そうと、それが『失礼にならない』ことと信じて……。
服装は新しい、未使用の物にすることにしました。未使用なものを探すと……、ナコに誕生日に貰った黒の下着と、一緒に買いに行った大きめのTシャツと短めのスカート……となりました。前回と同じく、ナコセレクションですが……
「うわ。私らしくないかも」
鏡を見て漏らします。これならポ●モンのラングレーのコスプレのほうが私らしいかな……。いやいや、田辺さんはラングレーを知らないでしょ。いや、知っている知らないの問題じゃないですよね。変でしょ、訪ねてきたらコスプレしてたって。彼氏を喜ばせるパターンの奴じゃないの! 喜ぶの? って、なんのゲームですか?!
えっと、あと、一応、襲われそうになったら、あの突っ張り棒でひっぱたいて撃退。これで、女子力があることも証明できる?! いや、だからそれもどうでもいいです。でも、引きずるなぁ、私。
着替えた後、部屋の掃除をしました。たぶんいつも以上に念入りに掃除したと思います。なんのため?! 失礼にならないように、私が恥ずかしく無いように……。
あと、化粧をしてやろうと思った時です。
ピンポーン
「げげ。来なすった」
時計は18時5分前。心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかというぐらい、ドキドキしています。
「ぜ、前回と同じ感じでいい。普通に対応して……、後は田辺さん任せ、いろいろ聞いて来るのでそれに普通に答えれば会話が成り立つ。前回もそうだったじゃない。うん、大丈夫。きっと、ポ●モンの話をしながら、PCをサクッと直してお帰りになりますよ」
そうひとりごちて一呼吸。
インターフォンの画面を見ると、そこには田辺さんが落ち着かない感じで立っていました。気のせいかな、ちょっと雰囲気が前回と違って緊張している感じに見えました。
「はい」
【ああ、りょーさんですか? 田辺です。えっと、PCの修理に参りました】
第一声は裏返りましたが、続き言葉は電気屋さんみたいな対応。やっぱりあの田辺さんです。私は「はーい」と言って解錠ボタンを押しました。
しばらくすると、玄関の扉からやさしく『トントン』という音が聞こえました。
「はーい」
玄関の扉を開けると、ほぼ前回と同じ格好の田辺さんです。着替えてない?! なんてことはないですよね。
「遅くにすみません」
「いえ、PCの修理を頼んだは私ですから、ど、どうぞ」
「はい、おじゃまします」
やっぱりなんか緊張気味の田辺さん。私の格好のせいかな。そんな訳ないか。玄関あける前からこんな感じでしたもんね。
田辺さんは特に部屋を見回すこともなく、まっすぐPCに向かい、分解し、持ってきたケーブルと交換……淡々と作業します。
「この断線したケーブルは、燃えないゴミで、処理してください」
「あ、はい」
あれ、気のせいかな。田辺さんが私と目を合わさない。
PCを手早く組み立てて、ディスプレイやキーボードや電源を繋ぎ、少し置き場所を探っています。
「りょーさん、PCの場所はここであってますか?」
やっぱりこっちを見ないで言います。
「あ、そこで、お願いします」
カチ
ピ
カリカリカリカリ
他にファンの音が聞こえ、ディスプレイには、OS起動画面が表示されます。
「おお」
私はちょっとわざとらしく感嘆の声を漏らします。……田辺さんは真剣にPCの画面を見たままです。
そしてポ●モンの壁紙がデカデカと表示され、いつも起動しているメーラーや、いつも見ているHPが表示されました。他の人だったら恥ずかしいトップ画面だったかな、なんて思います。
「起動したぁ。ありがとうございました」
私は思わす小さく手をたたいて喜びました。
「あ、いえ、単純なことですから」
その言い方はちょっと寂しそうに感じました。
「シャットダウンしますか?」
「いえ、そのままで……」
やっぱりその時も私と目を合わせてくれません。
「あ、じゃあ、私はこれで……」
本物の電気屋さんと違うのは、はんこを押さない所ぐらい。そんな機械作業を終え、田辺さんは玄関に向かって行ってしまいます。
目を合わさない事に対して怒りと、多分素っ気なさすぎる寂しさからだと思います……私は、思わず大きな声を出してしまいました。
「ちょっと待って!!」
「はい!」
田辺さんは私の声でビクッとしたのがわかりました。そして、ゆっくり向きながら、ちょっとか細い声が聞こえました。
「なにか?」
なぜか、私は泣いていました。なぜか泣いてしまったか、その時はよくわかりませんでした。
田辺さんはせっかく目を合わせてくれたのに、その私の涙目を見て、また、目をそらしてしまいました。
「なんで、……なんで、そんなに冷たいんですか?」
ちょっと怒り気味で言ってしまいました。慌てて言い直します。
「あ……、どうして……、なにか、あったんですか? 今日の田辺さん、……変です」
一昨日会っただけなのに、『今日の~』は変ですよね。でも、あの日が長かったのです。大きかったのです。
田辺さんは唇を噛みしめ少し考えた後、背筋を伸ばし、ゆっくりと語り始めました。
「昨日、例のポ●モン好きの彼女に会いました」
次回、最終話。……ドキドキしてきた、ちゃんと終わるのかな。




