第五話.女の子の部屋へ
最寄りの駅に着いちゃいました。田辺さんは歩きながら、なにげにポ●モンの質問と、時折PCの状況についての質問をしてきます。私もなにげに質問に答えています。もちろん、ドキドキを隠して……。
ああ、どうしよう……。彼女いる人だから、大丈夫だよね?!
「あ、ここです」
駅から歩いて5分です。部屋はいつもきれいにしているから大丈夫。ポ●モングッズがいっぱいあるけど、今回は問題ない。うん、問題ない……。
「どうぞ」
「おじゃまします」
田辺さんは躊躇せず入っていきます。……女の子の部屋、慣れっこなんだ……。
「すげー」
田辺さんの第一声です。壁一面のポ●モン棚を見てぽかーんと口を開けています。あれ? やっぱり普通の人の許容範囲を超えてたかしら?
ととと、とにかく、普通にしよう。初めて男の人を入れたこともばれないようにしよう。私は、平然としながら自慢話に持って行きます。
「す、すごいじゃろー。高校途中から集めていたからもう4、5年かな」
「すごいなぁ。こんなにグッズあるのかぁ。あ、これは今日売っているの見たけど、こっちのはなかったなぁ」
「それは、もう売ってない奴! あ、これももう売ってないんだよ。これは限定品だし。いひひ」
「あ、これ、最近TVで見たポ●モンだ。もうぬいぐるみになっているのか」
「ぷっ、だってゲームには最初からいるし」
「あ、そうか、そうなのか」
なんか楽しい。これだけ興味を引いてくれると、楽しい。でも、あまり部屋の中、じろじろ見ないで……。たぶんいろんなところに置いてあるポ●モンを探しているんでしょうけど……。あ、あんなところに、脱いだ服があった。お願い、気が付かないで……。
幸い、田辺さんは、先に机に横たわるPCに気が付きました。
「あ、壊れたPCって、こちら?」
「あ、はい」
PCに近づくと、ゆっくりPCを起こします。そして、ねじ止めされていないことを確認すると、おもむろにケースを開けました。
「あ、ど、どうですか。家の子。直りそうですか?」
田辺さんの横にちょこんと正座してお伺いする。ちょっと近寄りすぎて、腕と腕が触ってしまいました。
一瞬、田辺さんがぴくっとしたのがわかりました。近くにいきすぎた?! でも、逃げるのも変?!
「り、りょーさん……」
「は、はい」
声が裏返りました。
「あ、あの、マ、マイナスドライバーとか、ありますか?」
「あ、はい」
もっと裏返りました。慌ててキッチンにある棚の引き出しからドライバーセットを取り出し、今度は近すぎない程度で、田辺さんに渡しました。
「あ、お借りします。ちょっと時間頂きますね」
「じゃ、私、今日の戦利品を開けてていいですか?」
「もちろんです」
私は買ってきたものを一個ずつ開け、一個ずつ悶え、一個ずつ萌え、一個ずつ棚やベッド脇に並べます。
そしてベッドに座り、田辺さんの作業を見ようと思った時です。
「ケーブルが死んでますね」
と、田辺さん。
「はあ……」
私はピンときません。
「断線してます。線が切れています。代えのケーブルなんて……無いですよね」
田辺さんはニコッとしました。
「もち、ないです。そんなもの。ポ●モンで代用できます?」
「あはは」
私が何気なく言ったことに、やさしく笑う田辺さん。彼女さん、いいなぁ。
「では、部品持ってきますよ。明日の月曜は無理なんで……明後日の火曜とか……、水曜が祝日でしたっけ? 無理なら今度の土日、とかですかね」
「田辺さん、お店の人みたい。私は明後日でも大丈夫ですよ」
「PC使えないと困りますよね。では、明後日。18時頃、直接来ても大丈夫ですか?」
「明後日の火曜日、18時了解です」
田辺さんは、そう言うと、PCを簡単に組み立てて、自分の荷物を手に持ち、そそくさと玄関に向かった。
私は後を追いました。
「すみません、おじゃましました。いいポ●モン棚、見せていただきました。いろいろ教えていただき、今日はありがとうございました」
「いえ、とんでもない。こちらこそGBAを買っていただいた上に、PCまで見ていただいて」
「楽しかったです。では、明後日に」
「あ、はい」
田辺さんは最後は急ぎ足、早口で去っていきました。
長い日曜が終わりました。
「ふう」
何も起きなかった。そうは起きないですよね。二人っきりでも……。期待していたわけじゃないけど、現実はそんな感じ、ゲームとは違うのだよ、ゲームとは。
私は、自分の胸を見ながらボソッと。
「女子力、ないからかなぁ、やっぱり」
何事もなくホッとしている自分と、このある種の『悔しさ』をにじませる自分がいました。気を紛らわせるための掲示板はまだ、覗けません。
田辺さんが帰って小一時間たった時、また『ミス』に気が付きました。そうです、また部屋に招いていたのです。でも、PCが……ねぇ。
◇
「るりこ~。PC直ったぁ~?」
月曜、会社着くや、ナコは私に声をかけてくれた。
「ナコ、はよー。PC、まだ寝てる。でも、明日直しに来てくれるから……」
「あ、修理、頼めたんだ」
「あ、うん。実は……」
私はナコに日曜のことを正直に掻い摘んで話しました。もちろん、最初に『嘘』着いたことを謝りました。
始業前だけじゃ話しきれなかったので、昼休みも、続けて話しました。ナコは『うんうん、それで?』と相づちを打ちながら聞いてくれました。
そして一通り私が話し終わったのは、昼休みも終わりそうなときでした。
「はあ、二つわかったわ」
ナコは、ちょっとため息をつきながらふんぞり返りました。そしてこう続けました。
「るりこ~、あなた、男に免疫なさ過ぎ。すっごく危なかったのよ?! 食われてもよかったの?」
「え、いや、でも、そんな人には見えなかったし……」
「あと、田辺さんを好きになっているでしょ? 免疫なさ過ぎ」
「え、いや、そんなこと無いと思うけど……よくわかんないし……」
ナコはいつもとは違い、真剣に考えて意見を言ってくれている感じです。ナコも、いろいろあったんだろうなぁって感じました。
「彼女いる人、好きになると、つらいよ?!」
そっか、そういうことね。
「ありがとう、ナコ、ゴメンね。でも、そんなんじゃないから」
さて、どうしよう。明日の夜、18時にいらっしゃいますよ、彼女持ちの男が……。
どうして、なにも考えずに、即決してしまうんでしょうか。不思議。でも、口が勝手に話を進めることありますよね。




