04.無意識と無自覚ほど性質の悪いものはない【Side彼女】
あ~、可愛い。すっごくあったかい。
猫ってこんなものだっけ? もっとこう、獰猛じゃなかった?
「キミ人見知りしないね。飼い猫?」
にしては首輪が無い。
相変わらずゴロゴロ言って目ぇ細めてるけど。
「キミの飼い主は?」
って答える訳ないか。
バカだなあたしも、とうとう頭ん中すっからかんになったか……。
「なぁぅ」
とか思ってたら短く鳴いた。
否定してんのか肯定してんのか分からないけど……。
「どっちだか分かんないって。てか、あたしの言葉分かるの?」
「なぁぉ」
「ごめん。キミが分かっても、あたしは分かんないわ」
意志相通・コミュニケーションできず。まぁ、いっか。
……じゃ、ない!
今度はどこ!?
海!? 海だけど、何? ここ島なの!?
「荷物は……うげ!? ワークがふやけてる!」
うれしいのやら悲しいのやら……。ちょっと複雑だ。
まぁ、あたしもちょっと動こうかな。
ここにいてもどうしようもないし。
「なぁぅ」
立ち上がったあたしの足元に、その紫色した毛並みの猫が絡み付いてきた。
「ほら、あたしもちょっと動くから、キミは飼い主の元に戻りな?」
最後に喉の下を掻いてやってから、あたしは歩きだした。
「なぁぁぉ」
「何? ついてくるつもりなの?」
「なぁぅ」
猫は嬉しそうに鳴いた。
ま、いっか。猫は気紛れって言うし、帰りたい時に勝手に帰るだろう。
「それならそれで良いけど」
あ、そうだ。あたしと居る時用の名前つけてあげよう。
呼ぶときにいちいちネコとかキミじゃ可哀想だし。飼い主が居たら、その時聞けば良いわけだしね。
そうだなぁ……。
無い知恵絞ってひねり出そうとうんうん唸ってると、視界の隅に黄色に光る何かが映った。
何だろ、星の形の花だ。
異世界の不思議。小さな星型の花が連なって付いてる、そんな感じ。海岸によく咲けたなぁ……。
あ、これでいいんじゃないかな?
「キミの事、スバルって呼ぶね」
「なぁぉ」
「しょーがないでしょ。キミの名前は知らないし、雄か雌かも分かんないんだから」
別に、良い名前だよね?
不満言われても、他にはタマとかミケとかしか出てこないから、これで決定。
「よろしく、スバル」
「なぁう」
側を歩くスバルを心強く思えるわけだし、ちょっとだけ探索って言うかこの辺りを歩いてみようかな。
まぁそうは言っても、この場所からあんまり離れない方がいいのかもしれないけど……。
ビス戻ってくるの待たなくちゃだし。
さらさらとする砂浜を靴で歩くのはキツイなぁ……。
ま、地球じゃありえない位の透明さと綺麗さだから別に良いけど。
ほら、東京湾と比べてみなよ! ここがフツーの水だったら、あれは汚水だ。
ウフフアハハの南国リゾート地的な場所って言えばもっと分かりやすいかも。
「にしても、ここどこだろ。スバルは分かる?」
「にゃぁお」
て、分かるんだ。
スバルは跳ねるような足取りって言っていいの? まぁそれであたしの先を進んだ。
けど、猫のくせに……いや、猫だからこそ早いんだってば!
「ちょ、ちょっと速い! もうちょっとゆっくり歩いてよ!」
そう言ったら、スバルはちょっと先で待つようになった。
それはそれでかなり腹立たしい事だけど。
「なぁぅ」
その声が「何やってんだ? 早く来なよ。おっそいなぁ」とでも言ってるみたいで、やっぱりむかつく。
ま、それでも、歩くしかないんだけどね。
ごめんなさい。
彼女の視点はまだ続くのですが、あんまりにも長くなり過ぎそうなのでここで切ります。
次も彼女視点です。