05.後にするから後悔と言う【Side彼】
あー…。何か混乱中みてぇだな。邪魔しちゃ悪ぃか?
「別に、強制はしねぇよ。ただ、そっちの方が楽だからさ。俺にしてもディーにしても」
「どういう意味?」
説明するより見てもらった方が早ぇだろ。
俺は静かに周りの気配を探る。気持ちを落ち着かせて、感覚を鋭く尖らせて。
「一、二……なんかだいぶ多いな」
「な、なんのこと?」
「いいか、見てろよ」
俺は小声で呪文を唱えた。気配にだけ集中して、極力魔力を押さえるように努力して……。
《我と契約せし風よ。オルドビスの名において、我を害す者を弾き飛ばせ》
ぼそぼそと、小声でばれないように、強くなりすぎないようにと唱えた呪文は、ごうっと音を立てて俺を中心に強風を舞い起こした。
もしかして、まだ加減が足りなかったか?
「うわああああぁ!」
「やっ、何!?」
俺が思ったより強い風が吹いた。
凩程度のつもりだったのに、こりゃ嵐だ。地面にしっかりと根付いていた木が大きくしなっている。
条件反射でディーを掴まなかったら、多分他の奴らと一緒に飛んでっただろうな。うん、悪い。
「っのバカ!」
バタバタと騒ぐあの短すぎるスカートを必死で押さえつつも睨んでくる。
「わ、悪かったって! でもよ、俺だって」
「あんたの都合なんか知らない! 言い訳する前に、止めてよっ!?」
べちべちと肌が露出した部分に砂があたる。時々大粒が混じったりしてるから地味にいてぇ。
いや、止めたいのは山々なんだけどな。さっきから静まるように、ってこれでも制御してんだけど、なかなか言うこと聞いてくれねぇんだよ。
ま、目的は果たせたみてぇだから、そんな問題はねぇんだけど。
しばらくして、シュウゥッと砂塵を地面に巻き上げながら嵐は納まった。
「つーことで理由。分かったか?」
「分かるわけないでしょーがっ!」
いやー、分かると思ったんだけど……。
「今、8人位かな……。お前の力に反応して、フラフラ〜っと近くに居た奴等」
「え、居たの?」
「いや、フツーに飛ばされてたから」
それ位気付けよ。始めの方に景気よく飛んでいってたぜ?
「そうゆう奴等はやっぱ、追い払った方が良いだろ? さっきの奴とかウザくなかったか?」
「ウザかった。超ウザかった!」
あーゆー奴等はかなりしつこいからな。
しかも、SSランクの激レアを逃がす奴がいるか? たとえるなら、大金が目の前にあるのに取らねえのと同じだ。
「ねぇ、ビスって強いの? いや、あたし等から見れば十分強いけど……」
今更何の心配をしてんだか。
「俺は元からつえぇぞ」
「……自己満とかじゃなくて?」
これでも、アズラスのお墨付きだぞ?
それに、ディーがいるだけで俺の力は跳ね上がるし。いい意味でも悪い意味でも。
「あのなぁ。ディーは俺が護っから、そんな心配すんじゃねぇよ」
ぜってぇ他の奴にはわたさねぇ。奪わせないって意味も含めての契約だったんだけどな。
伝わってなかったか? と、首を捻るとディーの顔がかあぁっと赤くなっていた。
……俺、間違ったことは言ってないよな。
伝わる波長は動揺。
さっきの言葉に動揺ってことは、信頼されてないってことか?
「あ、あん、あんたねぇ」
「何だ? 言いたい事あんなら言えよ。俺の力だと不安なら、もっと修行すればいいだけだろ? ……修行嫌いだけど」
「あ、うん。ごめん、やっぱビスはビスだよね」
「は?」
言ってる意味がわかんねぇんだけど。
そんな俺をよそに、ディーはどこか納得したように苦笑いしてた。
なんか、馬鹿にされてねぇか……。
「で、来んの? 来ねぇの? どうすんだ?」
ビスは天然なのかもしれない。
いや、何も考えてないだけです。たぶん。
こんなんがぽつぽつ出現するものだから、タグに恋愛をつけるか悩んだんです。
それでもやっぱり“逆ハかもしれない”が一番しっくりくるんですよね。
悲しいことに。