03.後にするから後悔と言う【Side彼】
ったく、素直じゃねぇ奴。
助けても怒ってばっかだし、馬鹿馬鹿言うし、感情も落ち着いてないし、忙しい奴だなとか思ってたけど、礼を言うときに伝わってくる感情は穏やかだった。
「何笑ってんのよ」
「いーや、別に」
睨まれながら言われても、照れくさいのが伝わってくるからそんなに怖くない。
ま、ニヤニヤ笑ってたらばしっと背中を叩かれたけど。
それにしても驚いたぜ。ディーが契約を了承するなんてな。まあ、あの状況だったからてのもあるだろうけど。
ディーの気が変わらねぇうちに、先に契約だけしとくか。
「ディー、本当にいんだな? 契約しても」
「あ、あたしが地球に帰るまでだからね! 約束は守ってよ?」
「あぁ、俺は俺。ディーはディーの目的を果たすための契約だ。約束する」
ディーは帰るため、俺は……いや、考えるのはやめるか。
同意は得られた。だから、俺は契約の呪文を唱えようとして……一つ聞いた。
「なぁ、ディーの本名は?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「いや、契約って名前の誓約だから真名じゃないとだめらしいんだよ」
「……ど、堂本雪菜」
何だ。全然言いにくくねぇじゃん。ちょっと変わった名前だとは思うけど。
ま、ディルセアの方が全然似合うけどな。
俺は一呼吸おいて、ディーといるだけで騒ぐ魔力を静かに練り上げた。そして、紡ぐ。
《我と契約を結ぶ者。我と誓いを果たす者。彼の者の名はドウモトユキナ》
「わゎっ!? な、何!?」
淡い光がディーを包みだした。
よしよし、真名の認識はうまく言ったみてぇだな。
《我が名はオルドビス=アズ**=****=フェリンス。彼の者と契約を結ぶ者なり。真名が番となりて、今ここに契約が成立することを、我は誓う!!》
最後まで呪文を唱えると、キンッ! と、俺の髪と同じ色の腕輪がディーの右腕に巻き付いた。
「な、何これ?」
「契約の証」
細い糸が複雑に絡まったようなデザインだ。
中心には透明の宝石が付いていて、中々いい感じだろ? シンプルだけど実は凝ってます的な所が。
ま、これで晴れて、俺にも契約者が出来たって所だ。
「これでお前は俺のもの。よろしくな、ディー」
「言い方にかなり語弊があるんだけど。ま、いっか。こっちも付き合ってもらうからね、帰り道捜し」
「はいはい」
適当に返事してみたけど、俺的には帰られると結構困るんだけどな。やっと契約できたわけだし。
まぁ、この様子だと俺の目標を果たすのは、ディーの帰り道探しに付き合いながらになりそうだよな……。
て言うか、そもそも帰り道って何だ? 異世界への扉探しってことか?
根本的な問題に気付いて、俺はふと考え込もうとしてやめた。
難しいことは考えなくてもなんとかなるだろ、多分。
これで、タグにしていた“契約”ワードはクリアですね!
ビスの名前を途中を*にしたのは、魔族の言葉で発音が難しいものだからです。
えぇ、考えるのが面倒臭くなったからなんてことではありませんもちろんそんなバカなはははっ!
あ、ちゃんとディーの名前は考えました。
基本的に本名は出てこないので、考えたと言うよりは完全なるフィーリングですが。