01.後にするから後悔と言う【Side彼女】
こんにちは、アズラスと申します。
私はオルドビスの教育係兼目付役です。
昔から目を離せない子でして、なかなか手のかかる子なのですが、
馬鹿な子ほど可愛いですよ?
ようは物の言いようですね。
【第三節】後にするから後悔と言う
うわぁ……。もう本当になんなのこれ。ナンパ? これナンパ?
さっきの言葉取り消していいですか。
やっぱり魔族らしく美形さんだけどさ、だからってこういうのはかなり困る。反応っていうか、あしらい方にものすごい困る。
「何? もしかして契約済み? いや、そんなはずねぇな」
「てめぇには関係ねぇだろ?」
ビスが顔だけにこやかに答えた。
目が笑ってないから、怒ってるみたい。ちょっと恐いぞ。
でも、この魔族の人もなかなかの美形なんだけど、こう比べて見るとビスの足元にも及ばないな。
うん。アズラス様なら雲泥の差だね。
「なるほどなるほど、まだ未契約ってとこだろ? そりゃそうだよな。得体の知れない野郎なんかと、簡単に契約させてくれなさそうだもんな、その子」
その得体の知れない野郎に自分も含まれていること、この人は気付いているのかな。きっと気付いていないだろうけど。
にやにやと笑いながらぎゅっと手を握り締めてくる。いや、痛いんですけど。
あまりのことに目を白黒させながら振り払えずにいると、その魔族はぐっとあたしを引き寄せた。
「だいたいのことはそいつに聞いたんだろ? なら迷わず俺を選んどけば損はさせない」
はい? 何言ってんのこの人。
いや損得の前に放してほしいんだけど。今かなり損している気分なんだけど。
どんな俺様系なのかは分からないけど、これってかなり嫌な感じ。
魔族の方々はみんな顔を近づけるのが好きなのかな? って思えるくらい顔が近い。
「金ならいくらでもやるし、美しく着飾ってもいい。どんな宝石でもドレスでも与えてやる。望むなら永遠にその若い姿でいさせてやるよ。ただしその代わりに、俺と契約してくれるならな」
「こいつの話に耳を貸すなよ。どうせでたらめだ」
「人間なら誰しも望むことだからな、お前だってそうだろう?」
あたしが唖然としていることをいいことに、なんだか勝手に話が進んでいく。
と言うか、止める気があるならこの状況をなんとかして欲しいんだけど。
ただ言うだけですかビスは。 いやまあ、お金は欲しいし、老けたくはないし、女の子ならやっぱり可愛くなりたいとか思うけどさ。
でも、それはやっぱり幻想だって思う。ここがあたしの暮らす現代地球なら、どこぞの馬鹿だとか相手にもしないくらいに。
でも、ここは異世界だし、と考えると本当にできるんじゃないかとか思っちゃう。
確実にあたしは揺れていた。
「魔族にそんなたいそれた力はないんだぞ!? 魔法は万能じゃない!!」
「もう俺の声しか聞こえない。ただ、頷けばいい。俺と契約することを了承するだろう?」
目の前で、その魔族の瞳が炎のように揺らめく。
赤く、ゆらりと輝く。
くらくらしてきた。頭の中がぼうっとして……もしかして、なんか魔法とか掛けられてたりしそうだ。
ビスが何か叫んでるけど、そんなこと気にしてなんかいられない。
もう、なんかどうでもいっかななんて思った。
「ディー!! お前は帰るんだろ!? 元の世界に!!」
ナンパは反応に困るからやめてほしいと思います。
あと、勧誘も苦手。
そんな思いを込めて書いていました。
あぁ、やだやだ。断っても執拗なんだからなぁ……そりゃ仕事だから仕方ないのかもしれないけれど。